初等部編14
私の話をジンスは黙って聞いてくれた。前世のこと、この世界が乙女ゲームの世界に類似していること、私が悪役令嬢なこと、ノアが廃人になってしまうかもしれないこと……全て話した。
「ーーー嘘みたいな話でしょ?」
信じてくれただろうか。こんな現実離れした話を。
「……嘘みたいもなにも、本当なんだろ?
転生だってあるんだから、その先が乙女ゲーム?の世界だったって言われたところで、今さら疑わないから安心しろ」
知らず知らずに緊張していたようだ。肩の力を抜き、小さく息を吐く。
「辛かったな」
あぁ、また泣きそうだ。
泣いてしまわないように目に力を入れてやり過ごす。
「泣けばいいのに」
ジンスは笑ってそう言うけれど、私も強くならなくてはいけない。
私の涙が引っ込むまでの間、前世のことで盛り上がった。主に食べ物のことで。
ポテトチップスを料理人に作ってもらっていることを話したらすごく羨ましがっていたので、今度お礼に持ってこよう。きっととても喜んでくれるだろう。その姿を想像したら楽しくなってきた。
ひとりウキウキしていたら頭を撫でられた。何だか随分子供扱いをされている気がする……。
「そろそろ帰らないとな」
窓の外を見れば夕焼け空が広がっている。
「そうだね、今日は色々とありがとう」
そう言ってジンスを見れば難しい顔をしていた。
「俺はその乙女ゲームを知らないから、言うか言わないか迷ったんだけど……
王子を避ける必要はないんじゃないか?」
驚きながらも言葉の続きを待つ。
「ほら、アリアは弟が廃人になってしまうかもしれないから距離を置きたいみたいだけど……、弟が魔術師になったのって…………自殺しようとしたからじゃないのか?」
言いづらそうに言われた言葉に頭が真っ白になる。
……あれ?そう言われればそうかも?でも、本当に精神的に追い詰められたらどうなるか分からないし…………。
「混乱させてごめんな。だけど、これだけは覚えておけよ。俺もお前の家族も、きっとカトリーナとイザベラもアリアの味方だ。
例えゲームのようにアリアが王子に恋をして、ヒロインが現れて嫌な思いはしても精神的におかしくなるようなことにはさせない。自殺なんか考えられなくしてやる。失恋なんて誰でもするんだ。例え恋に破れたって死にはしない。今の王子を見る限りそんな心配はいらなそうだけどな……。
だから、安心して好きになっていいんだ。それが王子でも、他の相手でも。
……もし、どうしても誰とも結婚できなかったら、俺のところに来い。見る目のない男供のことなんてすぐに忘れるくらい幸せにしてやるよ。質素な生活になるけどな」
最後は冗談っぽくジンスは言った。
私の顔が赤くなったのはきっと夕焼けのせいだ。これは、本気にしちゃいけないやつ。
それでも、彼の隣で生きる人生も良いんじゃないかと思ったのは秘密だ。
「ジンスなんかお断り!!絶対、素敵な人を見つけるんだから。
……それでも、駄目だったときはジンスにもらってもらおうかな?」
ジンスは目を見張った後、楽しそうに笑った。
「生意気なこと言ってんじゃねーよ」
彼の耳が赤かったのに気付いたけれど、見てみぬふりをした。
レオともきちんと向き合おう。逃げてばかりはもうおしまい。
また落ち込むことがあるかもしれない。でも、私には支えてくれる人達がいる。
「よしっ!!がんばるぞー!!」
気合いを入れて大声で言えば、色んなことがどうとでもなる気がした。
 




