初等部編13
「ジンス料理上手だね。この甘めの卵焼きもきゅうりと大根の塩加減も最高!!」
「あとは、味噌汁が欲しいよな。味噌の作り方は知らないし、この国では見たことないんだよな。
ジャポニクスにはあるかもしれないけど、米の食文化が広がってないこの国で取り引きしてるところはなかなかないだろうし……」
「もしかして、商人になりたいのって色々な食材を探すため?」
そうだとしたらすごい行動力だ。何だか少し羨ましい。
「まぁ、それもあるけど……。
俺って5人兄妹の四男だから当然領地は継げないし、学園卒業後は自分で生計を立てなきゃいけなくなる。
稼ぐためには何が向いてるか考えたんだけど、人を斬るとか俺にはできないから騎士はできない。魔力もない。
あるのは前世でやったバイト経験だけ。そうしたら、稼げそうなのが商人くらいしか思い付かなかった。幸いうちの領では米がたくさん収穫できて、食用として浸透してきている。
これは、フォックス領産の米をブランド化して売れるようにしていくしかないと思ったんだよ」
将来のことをもうこんなに考えてるなんて……。私はレオの婚約者候補から外れることばっかり……。もちろんそれが最重要課題だけど、その先のことももっと考えないと。
公爵令嬢だから結婚しないことは無さそうだけど、うちは特殊だから一生独身も可能だ。過去に何人かそういう人もいたみたいだし。そしたら、働くのだろうか。バイトもしたことなかったし、不安だな。
ジンスはバイト経験あるみたいだけど、何してたんだろう?バイトだけって言ってたし、私と同じ学生だったのかな?それともフリーター?
色々聞いてみたいけど……。どこまで突っ込んで聞いていいんだろう。
「ーーーリア……。ーーーーーアリア!!」
「えっ?」
「どうした?百面相になってたぞ。何か言いたいことがあるなら言えよ。聞くって言っただろ?」
「言いたいことがあるって言うより、ジンスの前世を聞いてみたいなぁって……」
でも、それで辛い思いさせたくないんだもん。ジンスは帰りたいって思うことないのかな?
「俺か?俺、普通だぞ。聞いてて面白くないと思うけど……」
困ったように話し出したのはありふれた大学生の話だった。
ジンスは前世でも四男で大学進学の時に東京に出て来たらしい。居酒屋やファーストフード店、コンビニ……様々な場所でバイトをしていたらしい。
就職活動も終わり、単位も取り終えていたため大学にはサークルに顔を出すくらいで時間がある時はバイト三昧……。貯めたお金で就職前に日本各地を旅行しようと思っていたがそれが叶うことはなかった。
「ーーーっというわけで、俺の旅行計画は金を貯めるだけで実現しなかった。だから、今世では絶対あちこち行くんだ!そのためにも今から色々な伝手作って商売繁盛だ!
アリアにもお土産買ってくるからなー。変な置物とか貰ったらすごい困るやつ」
「いらなーい。美味しい食べ物にしてよ」
きっと今まで色んな感情と折り合いをつけてきたのだろう。それでも、そんな様子を少しも感じさせなかった。
ジンスは強い。……でも、私は?
同じところをグルグル回っているだけだ。ノアのためって言いながら現実から目を反らし続けて来ただけなのかもしれない。ノアを廃人には絶対にさせないけど、ノアを理由にするのはもうやめよう。
それでも、自分の足で進むのはまだ怖い。
だから…………少しだけ、ほんの少しで良いから弱い私と向き合えるように、見守っててもらえないだろうか。
「ねぇ、ジンス。
私の話、聞いてくれる?」
祈るような気持ちで言えば、ジンスは優しく笑って頷いた。
ずっとウジウジしていたアリアですが、ようやく前を向くことができました。
次回もジンスとの話になります。




