初等部編9
さて、今回の郊外学習なのだが、今後初等部の間の6年間をかけて行っていく研究を決めるためのものである。
初等部・中等部・高等部と研究を行うのだが、初等部で行った研究を元に中等部・高等部と研究を進めていく人も一定数いる。研究の成果が認められると文官として国からスカウトされることもあるため、領地を継がない次男、三男は力を入れる者も多い。
子女に関しては、流行を生み出せると社交界での成功を約束されたようなものなので、これもまた張り切るのだ。
なので、研究といっても商品開発や新しいドレスのデザインの提案、疫病が発生した時の対処方法の立案など、今後社交界や自領を経営していく上で役に立ちそうなことを選ぶ場合が多い。
研究の目的としては、人を雇って指示を出したり自身で調べる等のプロセスを学ぶこと、探求心を持つことを重視している。
幼い頃から人の使い方を覚えなくては領地の繁栄や貴族の妻としての家の切り盛りは絶望的なので非常に利にかなっているが、不正を行う人も多いようで教員側はなかなか大変らしい。
今はグループを作っているが、途中でテーマを変えたり、個人で研究を行う人も出てくる。もちろん、最後まで同じグループで行う人も数多くいるのだけれど。
私達はまだ1年生ということもあり、興味のあるものを手当たり次第調べていく段階らしい。
手当たり次第といっても、どうしたら良いのか分からず、何も出来ずに時間だけが経過してしまう生徒が毎年いるため、1年生はグループ活動にしているのだとカトリーナが教えてくれた。
「カトリーナはどうしてそんなに詳しいの?」
「お父様が学者を多く輩出しているシュツェ家の御当主と友人なのよ。シュツェ家は学園の先生をしている方も多いから、色々と教えて頂いてるの」
なるほどねー。それで詳しいのか。
……あれ?シュツェ家?
何処かで聞いたような。生まれ変わってからは当然何回か聞いたことあるんだけど、もっと前から知っていたような。
……あとちょっとで思い出せそうなんだけど。
「ーーーーーアリアさんはどう思いますかしら?」
一瞬何かを思い出しかけたのだが、イザベラに話しかけられたことで忘れてしまった。
「ごめんなさい。ちょっとボーッとしてて……。もう一度言っていただけますか?」
「あら、寝不足ですの?調子が悪いようでしたら、保健室へ行った方が良いですわよ。私、ご一緒しますわ。
あっ!歩いていけるかしら?手を引きましょうか?」
ちょっと考えことをして話を聞いていなかっただけなのに、一瞬で事が大きくなってしまった。
すぐに保健室へと連れていかれそうになり、慌てて訂正を入れる。
「イザベラ様、私は大丈夫ですので落ち着いてください。本当にぼんやりしてしまっただけですの。ご心配おかけしてしまい申し訳ありません。
こんなに気にかけて下さるなんて、イザベラ様はお優しいのですね」
私の言葉を聞いてイザベラは安心した表情を見せた。
思い込みは激しいし少し過激な部分はあるけど優しい子なんだよなぁ。
「お……おと……おと…………も…………」
「え?弟も?」
イザベラにはそこにいる双子の兄しか兄弟はいないはずなんだけど。ノアのことかな?
「おっとも……だちなら、当然ですわ。
おーほほほほほほほほ」
顔を真っ赤にしながら高笑いしているイザベラに私とカトリーナは目を見合わせた後、手をギュッと握った。
「「えぇ。私達お友達ですものね」」
イザベラは目を見開いて私達を凝視してから
「私のことはイザベラと呼んでちょうだい。敬語もいりませんわー!!」
と叫んだ後、手を強く握り返した。
イザベラ、仲間になりました。




