幼少期:ノアside1
別邸に連れてこられて毎日のように魔術や後取りとしての勉強をしていたある日、リカルドはやって来た。
「師匠、姉様にはいつ会えますか?」
「魔力制御もすでに完璧ですし、お嬢様が学園に入学する頃までには帰れますよ」
「もう少し早くなりませんか?」
毎日繰り返し、お馴染みになったやりとりにセバスは苦笑をもらす。
「難しいですな。諦めてください。
そうそう、今日から一緒に学ぶ仲間が増えますよー。第2王子のリカルド様です。張り合いが出ますなー」
「あぁ、第2王子は魔力持ちですもんね。姉様と同じ赤い瞳とかうらやましい……。
王子と別々に学ぶのは無理ですか?僕は自分のやるべきことをやって少しでも早く姉様の元に帰りたいんです」
「坊っちゃん、そのように自分のことばかり考えてはなりません。公爵家の次期当主として知り合っておくのも悪いことではありませんよ。
それに、顔を広く持っていた方が何かあったときにお嬢様を守れるのでは?」
確かにセバスの言うとおりだ。今後のためにも仲良くなっておいて損はない。
……まともなヤツならの話だけどね。
噂では引きこもりらしいし、あまり期待はしないでおこう。
渋々頷き、一緒に修行することに同意すると、別邸に第2王子が来た気配を察知し、魔術を使ってセバスと門まで移動した。
少し離れたところから風魔法を使い、セバスと第2王子の会話を聞いて様子を伺う。
セバスがいつものように丁寧に挨拶しているのに対して王子は「あぁ、よろしく頼む」って一言返しただけだった。
信じられない。これから、指南してくれる相手に向かって偉そうに。
身内であるセバスに横柄な態度をとられて腹が立ち、瞬間移動で王子の元へと行く。
「ねぇ、それが人に教わる態度なの?第2王子とは聞いていたけど、王族だからって指南してくれる人にそんな態度をとれるくらい偉いわけ?」
少し文句を言えば驚いたように僕を見て返事もしない。
こいつ、話になんないや。仲良くなっても意味ないな。
僕は王子に見切りをつけ、やはり一緒に修行はできないと訴える。セバスも分かってくれると思ったのに……怒られたのは僕だった。
「こんなのに謝りたくない。礼儀を知らないやつに何で礼を尽くさないといけないの!?」
僕の言葉を聞いていたセバスに一瞬だが魔力で圧をかけられて仕方なく黙ると諭された。
「坊っちゃん、リカルド様は今初めてお城という場所を離れて誰かに指南される立場にあります。親元を離れて初めて学ぶのです。
立場は自分の方が上でも教えを乞う時の礼儀をきっと誰も教えてくれなかったのでしょう。王子様ですから、常に上からものを言うことが当たり前になってしまったんですな。
自分よりも精神的に幼い子を相手していると思えば、例え相手が年上でも腹は立ちません。
それに、相手と同じところに態々合わせて、自分の格を落とす必要はありませんよ。そんなことをしていたらこちらの品位が疑われてしまいますからな」
諭しながら王子を批判するという大人気ないことをしていて、少し第2王子を気の毒に思って盗み見れば、今にも泣きそうな顔をしていた。
しかも、感情に釣られて魔力が乱れている。
どれくらい魔力制御できるかみていることは予想がついたが、傷口を抉るようなことを言いたい放題……。
絶対楽しんでる。
まぁ、その傷口を作ったのは僕なんだけど。
相変わらず、意地の悪い執事だ。流石、父上の執事というべきか。
……この調子だと直に魔力が溢れるだろうな。
王子の魔力制御に期待もできないので、自分の周りに結界を張って待機した。
すると案の定というべきか、地面が揺れ始めのだった。
スコルピウス家にとって、家で働く執事やメイドは身内同然です。
ノアは身内以外はどうでも良いと思っている節があるので、王子だろうと気にしません。もちろん、公の場ではそんなことはせず、うまく立ち回るタイプです。
今回は非公式な場なので言いたい放題です。




