幼少期32
大幅、加筆修正しました<(_ _*)>
さて、何と答えようかな。リカルド様は「お前も嫌われているのか」と聞いたけど、多分本当に聞きたいことはそれじゃないのだろう。
……うん、私がその答えを出したところで何の意味も持たないかな。私が例え好かれていてもリカルド様の希望にはなれないし、その逆でも彼に同調はできないもの。これは、私の問題ではないのだから。
仕方がない。こう言うのはあまり好きではないけれど、少し誘導しようかな。
「さぁ、どうでしょう。先日のお茶会が始めての親戚以外との関わりでしたから……。皆様がどう思われているのかは、計りかねますわ。あなた様はどう思われますか?」
「俺は……」
黙ってしまったリカルド様を根気よく待つ。先を促すことは簡単だけど、彼が赤い瞳を、彼自身のことをどう思っているのか知りたい。
「分からない。嫌われているとも思うし、嫌われていないとも思う。
俺のことをみんなが怖がってるって、関わりたくないって思ってるって言ってくるヤツもいるけど、この国の宝だって言ってくれる人もいるんだ……」
そう言うリカルド様は小さな体を丸まらせて声を震わせて……、まるで何かから自分を守ろうとしているようにみえた。私はリカルド様の隣にしゃがみ、そっと頭を撫でる。
「つらかったね、苦しかったね。たくさん……たくさん頑張ったね」
驚いたように顔をあげ私を見ると、リカルド様は私を突き飛ばした。その時、思わずにやけそうになるのを必死で押さえる。
「お前に……お前なんかに俺の何が分かる!!」
そう叫んだ彼の瞳は今にも涙が溢れ落ちそうだった。幼い子を泣かせるなんて良心が痛むが計画通りに行った。こうなるように仕向けたのだから、上手くやらなければただ彼を泣かせただけになってしまう。ここからが正念場だ。
私は彼の様子を見ながら慎重に言葉を紡いでいった。
「……分からないわ。あなたの心は貴方だけのものだもの。想像することしかできない。だけどね、私もこの間のお茶会で言われたの。『不幸を呼ぶ赤い瞳』だって。それに、両親の『不貞の子』とも言われたわ」
私の言葉にリカルド様の瞳が揺れた。やっぱり同じようなことを言われたことがあるらしい。幼い子にそんな言葉を投げつけるなんて……。激しい憤りを感じながらも意識して淡々と話を続けていく。
「悔しかった。だって、私の赤い瞳のせいで愛する両親を侮辱され、大切な人達を不幸にすると言われたようなものだもの。
だけどね、言われた言葉に真実は一つもなかったわ。私にはお父様もお母様も弟も、屋敷に勤めてくれる執事やメイド達だって不幸そうには見えないもの。みんなが楽しそうに笑っている姿をよく見かけるもの。
そりゃあ、たまには落ち込んでいることもあるけれど、嫌なことが一度も起こらない人生なんてないんだから、仕方がないことよ。それに、落ち込んでもちゃんと自分で乗り越えたり、誰かの助けを借りて乗り越えていけてるわ。
……ねぇ、本当に瞳のせいで不幸になるの?」
問い掛けたが、リカルド様はしばらく俯いたまま動かなかった。彼の握り込まれた拳は白く震えている。
そして、堰を切ったように大声で泣いた。今まで誰にも言えず、ひとりで我慢してきたのだろう。同じ赤い瞳を持つ私だからこそ、彼も言葉に耳を傾けられたんだろうな……。
落ち着くのを待ちながら、リカルド様の赤い瞳を見つめていると、その瞳が深紅へと色を深め揺らめいた。
驚いたのも束の間、パリンと何かが割れる音がした。その後も割れるような音が続く。周りを見渡すと植木鉢は割れ、木々は根ごと宙を舞い、風が吹き荒れるという凄まじい現象が起きていた。
うわぁ……。噂には聞いていたけど、想像以上だ。もちろん、悪い意味で。これは、怖いわ。周りが怖がるのも無理もない。
しかも、当の本人まで怖がってるのだから困ったものである。
そうなれば、更に状況は悪化するわけで……。
仕方がないなぁ……。バレないように小さく溜め息をつき、そっとリカルド様を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。怖がらないで。この力は怖いものじゃない。あなたを守るものよ」
できるだけゆっくりと優しい声で話しかければ、徐々に風は弱まり、瞳の揺らぎもおさまっていった。
魔術による現象が落ち着くと
「お前も俺が怖いだろ?もう俺に近づくな」
と、リカルド様は逃げるように温室を後にしようとしたところを慌てて捕まえる。
「怖くないかって聞かれたら、さっきのは怖かったわ。だけど、あなたのことは怖くない。
だって、あなたの方がさっき怯えてたもの。あなたが悪いんじゃない。きちんと制御の仕方を学ばせない大人が悪いのよ。大丈夫、私はあなたのことを怖がらないし、特別扱いもしないわ」
リカルド様が振り返り、私を見つめる。それは、嘘がないか見極めているように思えた。もう、下手な小細工はやめよう。この人と真剣に向き合おう。
私は意を決して
「今の状況をどうにかするためにも教えて欲しいことがあるの」
と燃えるような赤い瞳を見つめ返して告げた。