幼少期31
驚いた表情のリカルド様に淑女の礼をする。
「ごきげんよう。スコルピウス公爵家の長女、アリア・スコルピウスと申します。
素敵な温室があると伺ってきてみたのですが、先客がいらっしゃるとは知らず……お邪魔して申し訳ありませんでした」
そう言って私は温室から出ようとする。ここで声をかけられなければ、それまで。無理に自分から関係を持とうとすると警戒されるだろう。
ダメだった場合は仕方がないので学園にリカルド様が入ってから少しずつ距離を縮めていけば良い。
相手が私に興味を持ち自ら近付いて貰わなければ、すっかり臆病になった彼は警戒心を解かないだろう。
無邪気なふりをして近づくことも考えたが、警戒されたらもう近づけなくなる可能性が高くなるため両親と話し合いの末、没となった。
自分より目上の人に許可なく話しかけることも無礼ではあるが、そこは就学前の子供なのでギリギリセーフということにした。そうしないと、相手がこちらに話しかけるタイミングを作りにくいからね。
「ちょっと待て!!」
リカルド様に呼び止められ『かかった!!』と心の中でガッツポーズをしながらもゆっくりと振り替える。
「お前も魔術が使えるのか?」
偉そうな言い方に少しムッとしたが、相手は5歳児。ここでの実年齢も私の方が年上だし、広い心で許してあげよう。レオのように……。
「いいえ。私は魔術を使用したことはございません」
私の返答に対し、明らかに落胆したようだが、ここからが本番だ。
「しかし、私の祖父は魔術が使えました。そして、お城に結界を張りましたの。王家に謀反を起こそうとするものがお城へ入れなくなるように……」
ここまで言えば、お勉強を疎かにしていても分かるだろう。祖父は超がつくほどの有名人だったのだ。その祖父も今は現役を引退して田舎の領地をもらい、のんびりと畑仕事をしているが……。
やはり、リカルド様も気付いたようで、
「お前の祖父って、あのレージェンか!?」
と目をキラキラさせている。
「はい。祖父のレージェンも赤い瞳を持っておりました。スコルピウス家は魔術師の名門と言われておりますが、祖父は別格でございます。
忌み嫌われることの多い赤い瞳を持ちながら、多くの者に尊敬される人となったのですから……」
忌み嫌われるという言葉にリカルド様は顔を歪め
「お前も嫌われているのか?」
と私の赤い瞳を見つめる。
その瞳は私を通して、何か別のものをみているように思えた。




