幼少期16
「弟って、リカルド様よね?」
弟は一人しかいない筈だ。隠し子がいなければ。
神妙な面持ちでレオナルドは深く頷いた。
「本当はもう社交の場に出なければならない年齢なんだけど…」
その先を言い淀み、なかなか言葉が出てこない。
社交デビューの時期に一般的に決まりはなく初等部への入学を期にデビューする貴族が多い。例外で、王族の社交デビューは少し早く、5歳の誕生日と決められている。
リカルド様のお誕生日から半年たった今でも社交デビューしていないとなると、余程の事情があるのだろう。
その状況の中、私に会って欲しいと頼むのはどうなのだろうか?私の社交デビューは今日だし、中身は違うが見た目は6歳の幼女だ。
「余程の事情があるのだとは思うけど、お会いしても私にできることはないと思うの」
リカルドもゲームの攻略キャラの一人だ。私が直接関わることのないキャラのため警戒する必要はない。
しかし、ゲーム内の彼の性格には少々問題があった。
真っ直ぐで優しい第一王子と周囲に当たり散らし横暴な態度をとる第二王子。その原因は家庭内にあった筈だ。
常に出来の良い兄と比べられ、(レオナルドは純粋に心配しているのだが)兄には同情されていると思い、どんどん自分の殻に閉じ籠るようになり、最終的には横暴な王子様が出来上がった。
リカルドルートではその荒んだ心を癒し、彼の唯一の人になるのだ。
リカルドはまだ5歳。たくさんの愛情を感じることが出来れば、今なら間に合うかもしれない。
その愛情を与えるのは私ではない、問題は家族で解決するべきだ。
レオナルドへの助言は可能だが、あくまでも第三者としての関わりのみ。冷たいようだが、根本を解決するには本人とその周囲の努力が必要だと思う。
「アリアにリカルドの友達になってもらいたいんだ。一目会うだけでも!
この通り!!」
そう言って頭を下げてしまった。
「レオ!!頭を上げて」
私は慌てて言うが、なかなか上げようとはしない。
王族は簡単に頭を下げてはならない。それが幼い子供でも。だから、今の状況を誰かに見られると非常にまずい。
だいぶ秋の庭園の方へ戻ってきているので、いつ誰に見られてもおかしくない。
「わかったわ。一度だけ会うから、頭を上げてよ」
今の状況を切り抜けるため、仕方なく相手の要求を飲むとやっとレオナルドが頭を上げてくれる。
「ありがとう、アリア」
何だか嵌められた気がするのは気のせい?
レオナルドに対する小さな不信感を抱きつつ、これからのことを思い、小さくため息をついた。
「もう少しで秋の庭園につくよ」
そう言いながら笑顔で手を引かれ、どうやって手を離してもらおうかと頭を悩ませた。