幼少期15
恋人関係は断れても、まさか『友達になりたくありません』なんて流石に言いにくいな。
それをわかって言ってきているように見える。ゲームではわからなかったけど、策士なのだろうか…?
第一王子という立場は容易な道ではないと思う。王妃を目指して学んでいた私ですら毎日が勉強ばかりだった。記憶が戻ってからは、子供はもっと遊んだ方が良いのではないかと常々思うほどに毎日多くの予定があった。
第一王子となればその比ではないはずだ。
それに、次期王様になる彼の周りには、その権力に吸い寄せられるかのように多くの心ない人間も寄ってくる。そんな人ばかりではないが、相手を見定めなければならない。
話してみた感じ、レオナルドは幼いながらも優秀だし、きっと相手の思惑に気付いてしまったことも多々あるだろう。幼い彼にとっては酷な話だ。
自分を守るためにも策士にならざるを得なかったのかもしれない。
あまり近寄りたくはない。
けれど、子供らしい時間を過ごすことのできない、気の毒な彼を大人として放っておいて良いのだろうか。
「……友達なら」
私の言葉を聞いて満足げに微笑む目の前の王子様は何を考えているのだろうか。
早まったかもしれない。そう思うけれど、断りようがなかった。いや、本気になれば断れた。
私はどうしようもなく、このアンバランスな少年を知りたいと思ってしまった。
それは、哀れみなのか、同情なのか、それ以外の感情なのかはわからない。
わかることは、彼の力になろうと思った。それだけ。『でも、ノアと私の身が危なくなればすぐにでも逃げよう』と心の中で決意することはもちろん変わらない。
「それじゃあ、改めてよろしくね。
友達なのだから、僕のことはレオって呼んで!もちろん、敬語もなしだよ」
「わかったわ。よろしくね、レオ」
子供らしい笑顔にほっとしながら、握手を交わした。
「ねぇ、レオ。さっきも聞いたけれど、なぜ温室に来たの?」
結婚云々が一番気になってはいたが、お茶会に到着してすぐに温室へと連れてこられたことも不思議だった。
「アリアに見せたい植物があるんだ」
そう言ってレオナルドは私の手を引いて移動する。
「わぁ!!きれい」
まるで輝くような、不思議で神秘的な銀色の葉や枝の美しい植物に思わず感嘆の声をあげる。
「オレアリアっていうんだ」
「オレアリア?」
「うん。もしかしたら、アリアの名前はこの植物からとったのかと思ったんだ。
この植物には花言葉が一つしかないんだ。何だと思う?」
「うーん。見た感じだと気高さ?でも、名前につけるとしたら幸福…とかかな?」
レオナルドは違うと首を横に振り、周囲には誰もいないのに、まるでないしょ話をするかのように声を潜める。
「清純。アリアにピッタリだね」
そう言われて悪い気はしないけれど、友達になるのを回避しようか悩んだ自分には勿体ない言葉だと感じて、良心が痛んだ。
何と答えれば良いのか分からず、曖昧に微笑む。
「寒さに強い植物なんだよ。春になると白や黄色の小さい花が咲くらしいんだ」
「そうなんだ。見てみたかったな。
………寒さに強いのに、どうして温室に植えてあるの?」
「それは……」
「それは?」
「アリアと一緒に花が咲くのを見てみたかったから、庭師に頼んで温室に植え替えてもらったんだ。結局、花は間に合わなかったけど…」
耳を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしている。
なぜ赤くなっているのだろう?
間に合わなくて恥ずかしかったのかな?
「そうなんだ」
そう答えれば、少し残念そうな顔をしたのは気のせいだろうか。
それから私たちはお茶会に戻らなければならないので移動しながら、好きな食べ物や勉強、今夢中になっていることなどたわいもない話をした。
家族の話になった時、レオナルドはハッとした顔をしてから少し落ち込んだ様子で、おずおずと話しかけてきた。
「アリアにお願いがあるんだけど…」
「何かしら?私にできること?」
「弟に会って欲しいんだ」
そう言ったレオナルドの表情は固く、緊張しているようだった。
なんとか、今日中に更新できました。