幼少期14
気がつけば私の目の前には色とりどりの花や見たこともない木があった。
「えっ!!ここどこ!?」
慌てて周りを見渡せばレオナルドがにこにこしながらこちらを見ている。
「やっと、動いたね。
どんなに話しかけても反応しないから、どうしようかと思ったよ」
全く困ったように見えないのは気のせいだろうか。
「突然目を見開いたまま動かなくなるんだもん。軽くホラーだったよ。
手を引いたら大人しく着いてきてくれたのは助かったけどね」
「……すみません」
どうやら、結婚という言葉が衝撃すぎて意識を飛ばしてしまったようだ。
「あの…」
結婚ってどういう意味か気になるけど、聞くのが怖い。すでに悪役令嬢へと転落していくフラグが立ってるとか考えただけで泣ける。
「なぜ私を温室に連れてきてくださったのですか?」
あぁぁ……肝心なこと聞けなかった。
私のバカ、アホ、おたんこなす!!
「敬語」
「えっ?」
「使わないでって言ったよね?」
笑顔こわっ!!笑ってるのに怖いとか、私よりもそっちの方がホラーだよ。でも、ここで負けるわけにはいかない。これ以上親しそうになってなるものですか!!
「…おっ…おっお断りします」
言った。言ってやったよ。
えらいぞ、私。やればできる子。
どもっちゃったし、語尾が小さくなっちゃったけど、そんなの気にしない。言ったことに意義があるんだから。
「ふーん。なんで?」
そう言って笑みを深めたレオナルドは怖かった。6歳の笑い方とは思えない迫力があり、目はこちらの心意を読み取ろうとしているのがわかった。
……6歳のレオナルド王子の心の闇を垣間見た気がする。
当然、こちらの心意を読み取れるわけはないのだが、なんとも居心地が悪い。本当の理由はもちろん言えるはずがない。
「結婚するっておっしゃってましたが、私にはレオナルド様が私を選ぶとは思えません。
もし仮に、本当に万が一、いや億が一にでも、私のことを好ましく思ってくださっているとしても、きっと心変わりしてしまう…。
だって、だって……」
ヒロインがあなたを好きになれば、あっさり心変わりしてしまったじゃないですか。
最後まで言うことはできないから心の中で告げる。
図らずして、結婚のことは言えた。けれど、まさかこんな責めるような言い方をしてしまうなんて……。
たった6歳の男の子を責めてしまった罪悪感を感じる。
想像以上にアリアに転生したことが堪えていたのだろうか、それとも、レオナルドに引かれ始めている?
……まさかね。
後半の考えを即座に否定する。
記憶が戻る前の私なら有り得るが、今や精神年齢22歳だ。どんなに見目麗しい少年でも恋愛対象にはならない。
自分のことなのによく分からないや。
でも、今のは完全な八つ当たりだ。そう思い謝ろうとしたが、私の言葉を聞いて考え込んでいたレオナルドが先に口を開いてしまった。
「確かに、心変わりしない保証なんてどこにもない。
だけど、もし僕がずっとアリアだけを想い続けたら、僕と結婚してくれる?」
真剣な目に射ぬかれ、何も答えられなかった。
「だめ?」
「……だめじゃないけど、でも」
最後まで言い切る前に言葉を重ねられる。
「約束だよ」
……拒否できなかった。
まさかの展開に頭が追い付かない。
「今は僕と恋人同士になってはくれないみたいだから、友達ならどうかな?」
「とっ友達!?」
「そう。それなら対等な関係だし、もちろん敬語はやめてくれるでしょ?」
にこにこしながら話すレオナルドを呆然と見つめる。
……どうしてこうなったの?