幼少期13
私の目の前に、輝くような銀の髪、アメジストのような紫の瞳を持つ、幼いながらも将来の美貌が約束されたであろう少年がやってくる。
あまりの美しさに全てを忘れ見惚れてしまい、その美少年が声を発するまでの少しの間、時が止まったかのように感じた。
「はじめまして。レオナルド・シュテルンビルトです。僕のことはレオと呼んでください」
レオナルドという名前に現実に引き戻され、今対峙している相手が一番関わってはいけない人物であると思い出す。
「はじめまして、レオナルド様。
デニス・スコルピウス公爵の娘、アリアと申します。」
さりげなく、愛称である『レオ』との呼び方を拒絶しながら挨拶を返す。すると、レオナルドはそれを不満そうに聞いている。
「僕のことは、レオって呼んで。
僕もアリアって呼ぶから」
心の中で絶対に嫌だ!!と叫びながらも表情は笑顔を絶やさない。
さて、どうやって断ろう…。
悩んでいると、レオナルドはさっと私の手を引き歩き出した。驚いて手を引っ込めようとしたのだが、しっかりと握られており、離すことはできなかった。
「母上、アリアに温室を見せたいので少し席を外します」
談笑している王妃様に一声かけると私の手をぐいぐい引っ張りながら歩を進めて行く。
「レオナルド様、待ってください」
声をかけるが一向に止まってくれる気配はない。
「レオナルド様!!」
何度呼んでも返事はなく、無言のままである。
これは、レオって呼ぶまで返事をしないつもりなのかな?でも、ゲームの中のアリアが『レオ様』って呼んでたから、絶対にそう呼びたくない。
嫌だけど、本当に嫌だけど、このままでは埒が明かない。
ええぃっ、どうにでもなれ。
「レオ!!」
そう呼べば、ピタリと足を止めて嬉しそうにレオナルドは振り向いた。
「やっと、呼んでくれた」
その笑顔が眩しくて、見る見るうちに顔に熱が集まっていく。
『6歳相手に何顔を赤らめているんだ。しっかりしろ』と心の中で自分を叱責するが、火照った顔はどうにもならない。
せめて、真っ赤になった顔は見せまいと顔の熱が引くまで俯いてやり過ごす。
深呼吸をして心を落ち着かせ、ようやく熱が引いたので問いかける。
「温室に行くって言ってましたけど、何を見に行くのですか?」
そう言いながら顔をあげれば、またもや不満そうな顔のレオナルドと目が合った。
「敬語もいらない」
「でも…」
「アリアは将来僕と結婚するんだから、敬語で話さないで。お願い」
そう言って私の手を握ってくるレオナルドはとても可愛い。お願いだって、可愛らしいものなのだが…。
「けっけけけけけ結婚!?」
当然、私が受け入れられるものではなく気をしっかりと保つのがやっとであった。
レオナルド、やっと登場しました。
次の話をレオ視点で進めたかったので、短めになってしまいました。