中等部編1
中等部編、開始です。よろしくお願いいたします<(_ _*)>
中等部へはほとんどの生徒が初等部からエスカレーター式で入学するため、入学式も初等部の頃に比べると簡素に行われる。とは言っても、社交の場ともなるのでそこそこ規模は大きいのだが。
入学式が行われる講堂で、いつものメンバーでいつも通りにいれば、周りからはヒソヒソと噂話に興じる声があちこちから聞こえてきた。
それも仕方のないことだろう。私とレオくんの婚約者候補取り消しに加え、婚約者候補第一位の空白。それだけでも、注目の的だ。
なのに、未だに私とレオくん、それに婚約者候補第二位のイザベラが共にいるのだ。気になってしまうのも仕方がないだろう。……そう、仕方がないのは分かっているのだけど。
「影でこそこそとして、感じが悪いわ。言いたいことがあるのなら、正々堂々言えば良いのよ。いつでも受けてたちますのに」
そう言いながら、イザベラがじろりと外野を見れば、視線の先の令嬢達はピタリと口をつぐんだ。
その様子を見て、カトリーナは内緒話をするかのように扇子で口元を隠し、イザベラの耳元で囁いた。視線は令嬢達に向けたまま。
「陰でしか言えないのだもの。あなたに直接言えるわけないじゃない」
内容は特に内緒話をするようなものではない。と言うか、近くの私までバッチリ聞こえているのだから、内緒話の体をとっているだけなのだろう。
しかし効果は抜群で、その令嬢達を含め噂話をしていた人のほとんどはサッと私達から視線を外した。
えっ……。カトリーナ怖いんだけど。それに、イザベラは悪い笑みを浮かべてるし。……中等部って怖いところなの?バチバチの女の戦いなの?
さっきのカトリーナとイザベラのやり取りに困惑しながらも、未だに噂話に興じているメンタル強めな令嬢をちらりと見れば、こちらに向かって手を振っている。
話もしたことない令嬢だったため、周囲を見回したが、どうやら私でいいみたいだ。それでも、間違いだったら恥ずかしいので小さく手を振り返せば、にこりと微笑まれる。
良かった、勘違いじゃなくて……。でも、誰だっけ?顔は見たことあるけど、同じクラスになったことないし……。
「ねぇ、あの二人って誰だっ……け…………?」
そう言いながら、カトリーナとイザベラを見て直ぐ様後悔をした。
「いや……その…………」
「アリア、人の名前と顔と爵位はきちんと覚えなければ駄目よ?」
「えぇ、それに社交についてのお勉強も足りてないのではなくて?」
「あっ……ごめんなさい」
声が震えてしまったが、仕方がないと思う。カトリーナはスクラート様と婚約してから、イザベラはレオくんの婚約者候補第一位が空白になってからというもの、凄みを増しているのだ。
「そんなにすぐに謝罪をしてはいけないわ。アリアは何か悪いことでもしたの?」
「そうよ。カトレア様が悲しまれるわよ。春休みは社交のお勉強をみっちりとされたのでしょう?今こそその成果を発揮するところでしてよ」
二人の巧みな言葉攻めにどんどんと追い詰められていく。視線をさ迷わせ助けを求めるが、男子達は明後日の方向を向いている。
「うぐぅ……」
反論も謝罪もできず、思わず唸ってしまう。
「「ふふっ、アリアったら……。あはははは」」
「えっ!?」
「ごめんなさいね。よく知りもしない、アリアを悪く言う令嬢達の無礼まで許すものだから思わず……ね」
「無礼って?」
「「…………」」
二人は顔を見合わせて、深い溜め息をついた。
「アリア、春休みは一体何を学んでいらしたの?もう一度、一から社交を学び直した方がよろしいわよ」
「そうね。どうして時々こういう基本中の基本が分かってないのかしら」
結局、何がいけなかったのかと言うと……。
親しくもない身分の下の令嬢から手を振られたことを咎めない、或いは気付かないふりをしなかったことらしい。手を振り返すなんて以ての外だそうだ。
言われてみれば、そんなことも学んだ気がしなくもない。けれど、前世の記憶のせいなのか、私自身の性格が原因か、全く馴染めなかった。いや、馴染めなかったどころではない、記憶の端にも残らなかったのである。
家庭教師だけに任せてられないと、みっちりと教えてくれたお母様、ごめんなさい。次は頑張るから、どうかパトリシア様の召喚はしないでください。
カトレア……アリアの母
パトリシア……カトリーナの母
皆様、覚えていたでしょうか?私は忘れてたので、自分用の登場人物メモを確認してしまいました(笑)