番外編:スクラートからの手紙①
カトリーナはスクラートから送られてきた三通の手紙を前に頭を抱えていた。婚約者から手紙が送られてきたのは喜ばしいことだわ。けれどーーー
『リーナへ
ラベンダーの花を見て、君を思い出した。きっとリーナにはこの花の香りがよく似合うだろう。君のイメージの香水だ。気に入ったら使って欲しい。
スクラートより』
『リーナへ
今日は街へ買い物に行ったらとても興味深い本を見つけた。君とならきっとこの本で語り合えるのだろう。その日を楽しみにしている。
スクラートより』
『リーナへ
友人から女性には本ではなくアクセサリーを送ると喜ぶと聞いた。君もそうなのだろうか?こっちの国では女性も腕時計をつけるのが流行しているそうだ。この華奢なデザインなら君も普段使いできるだろうか?
スクラートより』
「何で、同じ日にこんなに届くのよ。しかも、全部贈り物つきって……」
喜びを通り越し、もはや困惑しかない。文面を見るからに同日に出したわけではないのだろう。けれど、連日出したのは明白だった。
他国から手紙が来る際には、一度、魔導具による検閲が入る。スパイや犯罪などを防止する目的があり、3日に一度まとめて検閲が行われ、そのあと転送用の魔導具により送られてくるのだ。
だから、この3通の手紙が同じ日に届いた理由は分かる。だが、何故留学に行ってから二ヶ月も音沙汰がなかったのに、今更こんなに手紙が届いたのか。
「理解できない……」
そう、理解ができないのだ。到着した知らせの手紙すらなく、こちらから出した手紙に返事すらなかった。それなのに、急に贈り物付きの手紙がこんなに届くなんて……。
「何か後ろめたいことでもあるのかしら。……まさか、早速浮気?」
思わず呟いたが、すぐにその考えを打ち消した。顔も家柄も良いから女の人が放っておかないだろうけど、あの感じだと相手にもしないだろう。それに、人付き合いが苦手そうな人がそんなことできるとは思えない。
極めつけはこの手紙だ。挨拶の言葉や自身の近況について一切なく、書きたいことをただ書いただけ。メモや日記のようなものに近いような気すらする。やはり女性の扱いがお世辞にも上手いとは言えない。
悩んでも仕方がない。とりあえず、頂いた物のお礼の手紙を書かなくては。
『親愛なるスクラート様へ
スクラート様が留学されてから早いもので二月が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか?
私の方は友人達と新しい商品の開発や農産物の研究に勤しんでおります。きっと、スクラート様も新しい発見が毎日の日々を送っているのでしょうね。そちらの国にはこちらにはない様々なものがあると思うと考えただけでわくわくします。
スクラート様がくださった、たくさんの贈り物からもそちらの国での生活が垣間見るようでした。どの贈り物も素敵で嬉しかったです。ありがとうございます。
香水と腕時計は早速使ってみました。
香水の香りが私のイメージだなんて面映ゆいですが、嬉しく思います。大事に使いますね。
腕時計もついつい読書や研究を始めると時間を忘れてしまう私にピッタリです。これを着けていれば、うっかり食事を忘れてしまうなんてことはなくなりそう……。スクラート様も着けているのかしら?
本はまだ読んでいないけれど、一番嬉しかった。だって、あなたが語り合ってくれると言ったのだもの。これからの私との時間を思ってくれただなんて、その気持ちが一番の贈り物だわ。本当にありがとう。
こんなに素敵な贈り物をもらって、返せるものがあまりなくてごめんなさい。最近開発したドライフルーツとミントティーの茶葉を送ります。
お体を大事になさってくださいね。研究に没頭しすぎて寝食を忘れないことを願っております。
カトリーナより』
長くなってしまったが、仕方がないだろう。贈り物へのお礼もきちんとしないとだもの。
一度読み返すと贈り物と共に手紙を送るようメイドに頼む。
私からの手紙の長さに彼が驚くのを想像したら、何だか少し心が温かくなった気がした。




