初等部編66
ついに、カトリーナの入場の時が来た。オーケストラの厳かな音楽が鳴り止むと、大きな扉がボーイさんの手によって左右に開かれた。
スクラート様にエスコートされて現れたカトリーナの姿に誰もが息を飲んだ。
「きれい……」
思わず呟いたのは私だけではないだろう。何処からともなく、感嘆の溜め息が聞こえた気がした。
遠目から見ても分かる程に上質なシルクで作られ、ハイネックのドレスはクラシカルで上品だ。そして、スカートはふんわりとしたチュールが愛らしく、前世でいうプリンセススタイル。裾についたレースのモチーフはダイヤがついており、動くたびにキラキラして上品さの中に可愛らしさが上手く混在していた。
そんな真っ白なウェディングに包まれたカトリーナはまだ12歳という幼さの中に、凛とした美しさと微かな色気を放っていた。
カトリーナのウェディング姿を見たら、分かっていたはずなのに急に現実を突きつけられた気がした。
カトリーナがお嫁に行ってしまう……。(実際にはまだ婚約しただけでお嫁に行くのはまだ先なのだが)そんな一抹の淋しさを感じながらも、ドアのところで一礼したカトリーナとスクラート様に全力で拍手を送る。
幸せになって……。そんな願いを込めて誰よりもたくさん拍手をした。本当はもっと力を込めてしたかったけど、それは令嬢としてアウトなので、一見おしとやかに見えるようにしながらも高速で手をたたく。
しかし、それをノアに見つかって止められてしまった。どうやら、おしとやかにできていると思っていたのは私だけのようで周囲は引いていたらしい。
そんな失敗をしながらも、二人が壇上へと向かっていくのを皆と一緒に見ていた。いよいよ私たちの近くを通り過ぎて行く瞬間、カトリーナと視線が合った。するとカトリーナは恥ずかしそうに、けれど幸せそうに頬を染めて微笑んだ。
その顔を見たら、もうだめだった。どうにかカトリーナには微笑み返したものの、我慢できたのはほんの僅かな間だけで。私の意思なんてお構い無しに目から次から次へと涙が溢れ落ちていった。
今日は笑顔でお祝いしようと思ってたのに……。
スクラート様に手をとられ壇上を上るカトリーナが幸せそうで嬉しいけれど、遠くにいってしまったようで寂しくなる。そして、切っても切り離せないこの世界と乙女ゲームが私を不安にさせた。
このままずっと幸せでいて欲しい。レーン様との恋で苦しんだ分もスクラート様と幸せになって欲しい。だって、カトリーナはやっと手に入れた幸せなのだから。ぽっと出のヒロインなんかに奪われたくない。
カトリーナを裏切ったら許さないから……。
そんな想いで壇上を睨み付けると、スクラート様は自慢げにカトリーナの腰を引き寄せた。
睨んでたのばれた?これは、私に対しての挑戦状?と不思議に思ったが、視線は明らかに別の方を向いている。然り気無さを装って視線の先を見ると、私以上に強い視線を送っている人物がいた。私怨のこもったその瞳に背筋がぞくりとする。
あんたにそんな権利はないだろ!!とカトリーナの幸せを邪魔しないように言いたい気持ちが湧いたがグッと我慢した。
やたらと刺激したら、それこそとんでもない事態を招くことになるかもしれない。相手は騎士の家系だもの。年の差はあれど、スクラート様が負ける可能性だって十分あり得るのだから。
それにしても、どうしてこんなことになってしまったのだろう。ゲームではそんなキャラではなかったのに。ゲームと現実はやはり全くの別物ということなのだろうか。それとも、これから変わっていくのか。どちらにせよ、今のレーン様はとてもカトリーナの幸せを願っているようには見えない。
気を付けなくちゃ……。流石にこの場では何もできないだろうけど、念のためジンスにも伝えることに決めた。
コロナの影響で子供達がお家にいるので、更に更新速度が遅れそうです<(_ _*)>