幼少期11
腹ごしらえも終わり、お茶会のドレスを仕立てるために、お馴染みの仕立て屋が待つ応接間へと向かう。
前世ならば服を買いに自分で出掛けるところだが、やはりお金持ちは違うということだろうか…。
こっちに来てから服やドレスだけではなく、一度も買いに出掛けたことがない。いつも仕立て屋や宝石商など様々な業者がやってきて購入するのだ。値札はついていないため、一度も見たことはないが、全てにおいてさぞや高いことだろう。
これから選ぶドレスだって、最高級の素材を使って作られていくのだ。どうせ高いんだから自分に似合う最高の一着を仕立ててもらおう。
そう思うと憂鬱なお茶会に来ていくドレスでも選ぶのが楽しみに思える。いつだって女の子はおしゃれが大好きなのだ。
応接間い行くと既にお母様がドレスの生地やデザインを選んでいた。
「こんにちは、サーストレ夫人。急なお願いで申し訳ありませんが、本日はよろしくお願いいたします」
仕立て屋のサーストレ夫人に貴族の子女としての礼をとる。
「こんにちは、アリア様。
気になさらないで、王妃様主催のお茶会なんですって?張り切って今日も素敵なドレスを一緒に作っていきましょうね」
サーストレ夫人は私の目線に合わせて姿勢を落とし、にこやかに答えてくれる。
「今日はお茶会のドレスと伺っております。どんな色のドレスになさいますか?」
「えっと……今日はピンク以外の色にしてみようと思うのですが……」
その言葉を聞いたお母様とサーストレ夫人は驚いた顔で私のことを見ている。
もともと記憶が戻るまでの私はピンク色が大好きでドレスもワンピースも部屋の家具までもがピンク色だった。当然、いつもドレスの希望を聞かれればピンク色ばかりを選んでいた。
しかし、正直今の精神年齢になってから、それはきつかった。ピンクのふりふりのドレスを着る度、ピンクの家具に囲まれる度に何か大事なものが一つずつ無くしていく気がしていた。外見は6歳だからピンク色が大好きで、ドレスも家具もピンクでも良いのだが、きつめの顔のアリアにはあまり似合っていない。
私の心労を減らすためにも、今日から私に似合う違う色のドレスも増やしていきたい。
「お母様は何色のドレスになさるの?」
お茶会に私と一緒に行ってくれるお母様のドレスを参考にしてみようかと聞いてみる。
「秋らしくモスグリーンにしようかと思っているけれど、キャメルやパープルも素敵で迷っているの」
なるほど。私も秋らしい色にしてみようかな…。
「お母様、私も秋らしいドレスにしたいです」
「それは、素敵ですね。装飾など少しお揃いの箇所を作ってはいかがでしょうか」
サーストレ夫人の提案に「素敵ね…」とお母様と微笑み合う。
たくさんの生地を当てながら3人でキャッキャと選んでいく。
お母様はキャメルのドレスに、花びらの刺繍を施してあるショールを羽織るシックだけれど可愛らしさのあるデザインに。
私はモスグリーンのドレスのスカート部分をチュール地にして花びらが刺繍をしてある、ふんわりとして可愛いけれど少し大人っぽいデザインを選んだ。
もちろん、花びらの刺繍は同じ柄にしてもらうことで、さりげないおそろいを演出している。
いつもと違うデザインを選んだ私を、驚きながらも喜んで見ていたお母様はとても楽しそうにしている。
「ピンクももちろん素敵だったけれど、大人っぽいデザインもとっても似合いそうね。今から出来上がるのが楽しみね。
そうだわ!折角だからアリアちゃんの新しいワンピースや普段着用のドレスも新調しましょうか」
良いことを思い付いたと手を胸の前に合わせているお母様は子供が二人いるとは思えないほど可憐で可愛らしい。
ピンクのふりふりを少しでも回避したい私は再びたくさんの布を見比べているお母様の隣に行き、一緒に選び始める。
これで洋服の問題は解決だとホッとした時、部屋の模様替えをしたいって言うチャンスなのではないかと気が付いた。
「あの、お母様…」
「なぁに?やっぱりピンク色が良かった?」
違います!ピンクを卒業したいのです!!と心の中で叫ぶが、お母様に聞こえるはずもなく、何となく言い辛くてボソボソと答える。
「いえ、そうではなくて…。お部屋ももう少し大人っぽくしたいのです」
段々声も小さくなっていき、しょんぼりとしてしまう。
「それじゃあ、近いうちにどのようなお部屋に模様替えをするか、相談しましょうね」
「はい!!」
これでやっと心休まる部屋を手に入れられる。
初等部に入れば嫌でも戦いが待っているのだ。部屋くらいはリラックスしたいという願いが叶いそうで、とても嬉しくなる。
この調子でお茶会が終わったら婚約者候補のことについて、探りをいれてみよう。
少しも王子ルートの回避に繋がってはいないのだが、ちょっと前進した気持ちになりこの時の私はすっかり浮かれていた。
そろそろレオナルドが登場する予定です。