初等部編 レオナルドside1
また少し時を遡ります。ここは読み飛ばしても大丈夫です。
学園へと到着し、朝一番にジンスから話があると言われた時は思いもしなかったんだ。長かった恋が急速に終わりに向かっているだなんて。
その日はアリアとジンスの様子がおかしかった。どこか気まずそうなのに、明らかに互いのことを意識していて。ジンスは気が付いていないみたいだったけど、ジンスを見るアリアの目はいつもと全然違かった。
何があったのか問い詰めたかったけれど、その行為でアリアが自分の気持ちに気が付いてしまう可能性を思うと何も言えず、悶々とした気持ちで昼休憩をむかえた。
二人きりになったサロンの一室で平静を装う。
「ジンスから呼び出すなんて珍しいね。学校のこと?」
どうかアリア以外のことであるよう祈りながら言うも、その願いはすぐに砕かれた。
もしかしたら、既に二人は……と一瞬頭をよぎったが、すぐにその考えを打ち消す。
けれど、遂にアリアは自分の気持ちに気が付いてしまったんだろう。これだけは確信が持てた。そして、ジンスもーーー。
僕はジンスに出会うまでは、自分のことを特別な子供だと思っていた。それは王族だからではなく、努力しなくても何でもできたからだ。
何でもできたとは言っても、周りの手助けがあったからだと今なら分かる。だけど、あの頃の僕は自分が誰よりも優秀で敵わない相手なんて同年代ではいないと思ってたんだ。
それが、世の中を知らず、ただの傲慢だったことに気が付いたのは郊外学習でジンスと同じ班になってからだった。
ジンスは僕が思いもつかないようなことに取り組み、自領を発展させ、国の食料事情を変えようとしていた。お米が主食として一部だが認知され、非常食として国で備蓄され始めたことにより、国民が飢えるリスクが大幅に減少した。これだけでも凄いのに彼はそれだけではなかった。
平民向けの学校を設立するのに一役かったのだ。初めは人が集まらないだろうと思われたが、学びに来た人に握り飯を配ったところ、貧しいものから学校へと来るようになった。
無料で配るのではなく、きちんと授業を受けて理解できた者へ配給し、文字と計算を習得した者へは職業の斡旋も行っていた。そして、斡旋先から紹介料を受け取り、学校の運営費へ補填をしていた。
運営費は国税で賄っており、民が豊かになれば税収も良くなるのだから何れは国費のマイナスではなくなる。だから、補填なんてしなくても良いと僕は思っていた。しかし、学校に通っている者以外からの税も使っているし、お金は無限にあるものではないのだから、費用を最低限にする努力はするべきだと言われてしまった。
最近は、手先が器用な者や絵が上手い者、話を考えるのが得意な者を漫画製作チームとして雇い始めていたことも記憶に新しい。
そうやって得意なことを仕事にできるようしながら、自身のアイデアを他者の手で形にして利益を得る。とても初等部に通う子供が出来るものではない。
特別な人間は彼のような人を言うのだと力量の差をはっきりと見せつけられた気分だった。僕はジンスのように新しいものを作り出すことはできない。ただの身分が高いだけの子供だった。
そんな僕に唯一できるのはこれから国を背負っていく者として、ジンスのアイデアを取り入れて民の生活をより良いものにしていくことだった。何とも情けない話だ。
いつも余裕があり、周りを見て行動ができて。あんなに才能があるのに自分のことを特別だなんて思っていなくて。人をからかうのが好きな子供っぽいところがあって。だけど、いつも優しくて。
僕に勝ち目なんてないのは分かっていた。アリアにとっていつだってジンスが特別なことも。
それでも、アリアがいつか僕に振り向いてくれるんじゃないかって。婚約者候補だからではなく、僕自身のことを好きになってくれる日が来ることを願っていたんだ。
レオナルドside続きます。




