初等部編 ジンスside8
少し後半部分を訂正しました
そして、放課後。俺は再びサロンへとやって来た。
アリアが「レオに急ぎの話がある」と言ったので、一時は俺との予定を明日へと変更したものの、王子の予定が合わなかったのか、結局俺と会うことになった。
物凄くレオナルドへの話が気になる。
だが、どんな話があるのか尋ねることはできなかった。人に聞かれたくないような話だから態々放課後にするんだろうし、話せるような内容なら俺との予定を変える時にもう少し理由を詳しく教えてくれていた筈だ。
「あーーー、もう!!」
うだうだと悩んでいる自分に嫌になる。昔もこんなんだったかな……と前世の頃のことを思い出そうとするがやはり上手く思い出せない。唯一思い出せるのは後悔した記憶だけだ。
俺は彼女のために何もできなかった。俺には何ができたのだろうか……。考えてみても答えは分からない。
以前ははっきりと思い出せた彼女の顔も今では曖昧だ。きっとこの後悔ももうすぐ思い出せなくなるだろう。
「さくら……」
無意識に出た言葉。それは、俺がずっと思い出したくても思い出せなかった名前。
後悔だけが抜けない棘のようにいつまでも刺さったまま、名前すらも思い出せなかったのに。今になって思い出すのは、俺が二度と恋をしてはいけないと言われているようで……。
「……さく……ら…………」
声が震える。やはり顔は靄がかかったかのように曖昧にしか思い出せないけれど、責められている気がした。
「ごめん……」
何に対しての謝罪だろう。SOSに気がついていたのに「大丈夫」という言葉に甘えて何もしなかったことへの罪の意識か。それとも、彼女以外の人を愛してしまったことへの後ろめたさか。
けれど、どんなに悔いてももう彼女と会うことはないし、謝ることもできない。それにーーー
「もう俺の顔なんて見たくないだろうしな……」
自嘲めいた言葉が一人きりの部屋に響く。
そんな気持ちを切り替えるために小さく溜め息を吐いた。少し落ち着けば、この後悔を忘れないためにも早くノートに名前を書かなくてはならないことに気が付き、急いで鞄からノートと筆記具を取り出す。
ページを巡り、ペンを握って、いざ書こうとした。しかしーーー
「…………俺は、何を書こうと思ったんだ?」
どんなに考えても何のためにノートを開いたのかさっぱり思い出せない。仕方がないのでノートを閉じ、再び鞄へとしまう。
特にやることもなく待っている時間は長く感じるもので、昨日の夜にアリアにやってしまったセクハラが気になってしかたがない。
もしかしたら、俺と二人になりたくなくてレオナルドに用事があるって言ったとか……。
一度悪い方に考えると何故かそれが正しいような気がしてくる。
とにかく、まずは謝ろう。そう決心したところで扉が控え目に叩かれた。
ジンスsideもう一回続きます。予定よりも長くなりました。