初等部編 ジンスside7
アリアにセクハラをやらかしてしまった翌日、俺は王子を昼休憩中に呼び出した。理由は一つ。俺もアリアのことが好きだと言うためだ。
出来れば誰にも聞かれたくないため、サロンの一室を借りる。
「ジンスから呼び出すなんて珍しいね。学校のこと?」
「いや……、そうじゃない」
今まで俺が呼び出す時は事業に関わるものばかりなため、レオナルドがそう思うのも当然だ。何と言い出せば良いか悩んでなかなか次の言葉が出てこないでいると、ふっとレオナルドの雰囲気が変わる。
「それじゃあ、アリアのことかな?」
一見笑っているかのように見える表情だが、目は一切笑っていない。
アリアのことになると余裕が無くなるのは昔から変わらない。流石に最近は物を投げられることは無くなったが、その分、視線が鋭くなった気がする。
こいつの穏やかで優しいって言う評価は間違ってるよな……と心の中でぼやくと、レオナルドの視線は更に鋭さを増した。
「レオナルドは勘が鋭いよな。たまに心の中が読まれたるんじゃないかと思うほどだ」
「まぁ、そういう教育を受けてるからね。それで、アリアのことで何かあったのかな?」
俺の会話をさらりと流し、さっさと本題へと入ろうとする。相変わらず、アリアが絡むと普段の王子様感がなくなり、レオナルドという一人の少年が顔を出す。その姿を好ましく思っていた。アリアが嫌がらない範囲で、レオナルドの恋を応援しようとも思っていた。
けれど、今から俺が言う気持ちは云わば横恋慕のようなもの。二人は想い合っているわけではないが、レオナルドはアリアが好きだし、何よりもこのまま順当にいけば婚約し、行く行くは夫婦になるのだ。
だからと言って、俺の気持ちは変わる訳でもなければ、アリアを諦められるはずもない。気が付いてしまった想いを忘れることも手離すなんてことも無理だ。こんなに近くにいるのに想いを止めるなんてできないだろう。
俺がアリアを好きになったからと言って彼女が好きになってくれるわけではない。けれど、これから振り向いてもらえるよう頑張ろうと思っているのに、それをレオナルドに言わないのは何か違うと思う。言われても困るかもしれないが、友人同士で同じ人を好きになったのに隠れてアプローチをしていたなんて後で知るのは俺だったら嫌だ。
うん、だからこれはただの自己満足だ。一番最初にレオナルドに伝えなくてはと思うのは。
「アリアのことが好きになった」
たった一言。この一言が今はとても重く感じる。
「……うん。それで?」
冷たく聞こえるような言い方だったが、レオナルドの目は鋭さが消え、凪いだ瞳をしている。
「それだけ」
うん。それだけだ。別に付き合ってるわけでもないし、想い合っているわけでもない。今伝えられることはこれだけしかないのだ。
「そっか。…………態々言わなくても良いことなのに、相も変わらず馬鹿正直と言うか、そこが憎めなくて憎たらしいというか……」
自分の好きな人を、婚約者候補を好きになったと宣言されたにも関わらず、レオナルドは困ったように笑っている。
「いつか、ジンスはそう言うだろうとは思ってたよ。だから、それまでにアリアの心を僕に向けたかったんだけど…………間に合わなかったか」
最後は一人言のように呟いたので、聞き取れなかった。
ほんの少しの沈黙の後、レオナルドはいつもの王子の顔に戻っていた。
「誰をアリアが選ぼうと僕はジンスとは良きパートナーでいたいと思っているよ。ジンスの思い付くものは新しく、柔軟で、この国を豊かにしてくれる。その発想は誰にでもできるものじゃない。君はこの国にとって、なくてはならない存在なんだ。
…………勿論、僕にとっても」
レオナルドの言葉に顔がにやける。そうか、この関係を無くしたくないと思っていたのは俺だけじゃなかったのか。
「これからも頼むぜ、王子」
わざと王子と呼べば、レオナルドも安心したように笑う。
「だから、王子って呼ぶなって言ってるだろ」
レオナルドといつもの軽いやり取りをしながら、サロンを出る。
もうすぐ午後の授業が始まる。俺もレオナルドも少し速足で教室まで戻った。
次回もジンスsideです。その後、レオナルドsideをやって、再びアリア視点に戻ります。