夢から覚めて3
「よし、今日はこの辺りでいいでしょ。レイ、今日はここで寝るから」
昼頃に村を出たレイとサキは、日が落ちる頃に歩みを止めた。生い茂る森の木々の隙間から太陽で方角を確かめ、サキの国へと歩みを進めているらしい。もっとも正しい道を進んでいるかはレイには分かるはずもなかった。
「結構歩いたね。ラフィグローブにはどのくらいで着くの? 」
「わかんないなあ。帰り道もだいぶ進んだところで落ちたから、もうすぐだとは思うんだけど。この山がアタシの見たことあるあの山だったら、森を抜けたら平原に続く下り道に出るはずよ。ラフィグローブはそこの中腹にあるわね。本通り?」
「う、うん。多分」
ごそごそとサキが背負っていた袋から水筒と布に包まれたパンを取り出した。どちらも村を出るとき村人たちからレイとサキが貰ったものだ。これだけあれば順当に行けば国まで困ることはないだろう。レイも彼女に習い袋を漁る。袋の口を開けると食欲を刺激する香りが鼻をついた。ホムル村のパンは冷めても柔らかく香り豊かだ。
「暗くなる前に火をつけたいな。何か燃えるものは……」
「待ってサキ。ほら、あそこ見て」
サキを制してレイが指さした先には淡い色の花が群生していた。そのうちの一つが花をもたげる。そしてゆっくりと、じわじわと光を放ち始めた。その光は隣の花、また隣の花へと伝播していき、一帯は青白い優しい光に包まれた。
「わあ……」
「タルホだ。こんなにたくさんある場所は知らなかったなあ」
「ね、あれ美味しかったの。ひとつ食べても大丈夫かな?」
「摘んでから1週間は寝かせないと、とてもじゃないけど食べられないよ。独特の風味が抜けないんだ」
そうこうしているうちに、いつの間にか日はすっかり落ち、辺りは花の放つ淡い光による幻想的な空間となった。
レイとサキはその中で柔らかなパンを食べ夕食とした。一口食べる毎にふわりふわりと香りが広がる。その香りは村での食卓を想起させたせいか、心なしかレイはいつもよりもゆっくり味わって食べた。
「うん、やっぱり美味いな! 」
「でしょ?ちょっと自慢」
ささやかな夕食を済ませた2人は一息ついたところで、花の近くにぽつりと建っている石碑に気がついた。
「なんだ?これ」
「わからない、僕も初めて見た」
何か書いてある様だが、文字は掠れていて読みとることが出来ない。辛うじて「……らかに……」とだけ確認できた。
「上手く読めないや。でも……」
「やっぱり、アンタも分かる? 」
「え? えと…君と同じことを思っているかはわからないけど、誰かの祈りを感じるよ」
「うん」
文字は読めなくとも想いは伝わった。よく見ると石碑自体もかすかに淡い光を放っている。この光は祈りのアルマだろうか。この優しい光は、作り手の想いなのかな、そして周りの花もそれに応えてこの素敵な景色を作っているのかと、レイは物思いにふけった。示し合せる事もなく、2人は目を閉じ、しばし祈りを捧げた。
「さっ、明日は早いから寝るよ。はいおやすみおやすみ」
「ああ、ちょっと……。まあいいや、おやすみなさい」
祈りを終えた途端、サキはてきぱきと辺りを整理して眠りについてしまった。レイは聞きたいことは山ほどあったが、サキは起きそうになかったので、仰向けになって寝転んだ。開けた木々の隙間から夜空が見える。普段屋根の上から寝転んで見る空、それよりも狭い空に輝く星の数を数えるうちにいつしかレイも眠りについた。