夢から覚めて1
そよ風が窓から吹き込み、暖かな日差しが差し込む。窓辺で小鳥がさえずり、その歌声でレイは目を覚ました。すぐに小鳥はフッと搔き消える。
「ん……はぁ」
なんだかとても怖い夢を見ていたような気がする。随分長い間寝ていたようだ。日はもうすでに高くなりつつある。早く働かなくてはいけない、きっと僕を待ってる人がいる。
そう思って体を起こそうとしたレイは体のあちこちが痛むことに、そしてベッドの横の椅子に頭や腕に包帯を巻いたサキが座っていることに気がついた。そうだ、夢ではないのか。
「おはよ。ちゃんと生きててよかった」
「サキ! ああ、ええと、その、おはよう」
軽やかにサキが椅子から飛び降りる。すたすたと歩いて木のコップに水を注いだ。
「はい」
「ありがとう。……ふう。昨日のは……、夢じゃないんだよね? あの大きいのは? 」
「夢でこんなやられてたまるもんか! でも結構ヤバかったわ。夢だったらよかったかも。あいつはフッと消えちゃったよ」
そういってふふっと笑うサキは、するすると包帯を解いた。
「ああ、それ、ぼくのために……」
「ちょっとヘマしただけよ。血も止まったし、もう平気」
「ごめん…ありがとう」
「ん」
短く返事をしたサキはクルリと反転し扉の奥へ消えていった。一体昨日のはなんだったんだろう、曖昧だった記憶が蘇ってくる。化け物が現れて、サキが戦って、僕は捕まって、それで……。記憶をたどっているうちに今度は村長が入ってきた。
「おお、レイ……。もういいのか」
「おじいちゃん! よかった…おじいちゃんはちゃんと無事だったんだね」
「何を言っているか、お前こそ危ない目にあったらしいじゃないか。よかった」
村長の姿を見て、レイは心の底から安堵した。皆に何かあったら、僕は悔やんでも悔やみきれないだろう。僕は何も出来なかったが……。様々な感情が入り混じった面持ちで、レイはシーツをぎゅっと握った。
「やあ、そろそろいいかな。アタシもあんまり時間がないから」
サキが再び戻ってきて、扉の横に立っていた。よく見たら元々着ていたシャツとショートパンツ姿に着替えている。貸した服は昨日汚れてボロボロになってしまっていただろうから、当然か。彼女が着るといつも服が汚れるな、とレイはなんだかおかしくなってクスリと笑った。
「なんだよ」
「いや、ごめんなんでもない」
「まあいいや。聞いて、村長さんも聞いてください」
昨日の戦いに赴いた時のような、真剣な眼差しでサキが話し始めた。
「レイ、アンタなんか体がパーって光って凄い力が湧いてきた事ある? 」
「え?いや……」
そこまで言って、ふと昨日の光景がフラッシュバックした。小さな赤目の霊獣に押さえつけられた時、腕が光ったような気がする。
「あった……ような、昨日……」
「うん、やっぱり。見えた気がした」
「なんなのさ? 」
「アンタもステラを扱えるって事、だからアタシと一緒に来なよって」
どういう事だかレイは理解出来なかった。この人は多分、順序立てて話すのが苦手なのかもしれない。きっと僕の理解力がないわけじゃないはずだ。レイはどういう事? と聞き返すのが精いっぱいだった。
「あー、んーと、小難しい事言うのは苦手なんだけどな」
そういってサキは頭をかいて話し始めた。
「まず、アルマがあるわよね。ちょっと違うと思うけど、ステラはそれの凄い版だと思ってくれていいわ。そこらのアルマ石なんかとは桁の違うパワーよ。ノノ……うちの博士が言うには、心に大きな信念のある人が、何かをキッカケに目覚める事があるんだって」
レイは村長の方を向いたが、村長は何も言
わない。
「あんたは"普通"じゃないっての。へへ……アタシと同じね。だから、アタシ達のところに来てちゃんと力を扱えるようにしようって。大きな力は、正しく使わないと危ないから。それで、あんたが強くなって帰ってきてこの村を守るの」
僕が彼女と同じ力を持っている? 冗談じゃない。あんなに速く動いたり、怪物と戦ったり出来るものか。レイはにわかに信じる事は出来なかった。それに僕にこの村を離れろというのか。僕はこの村での仕事がある、居場所がある、必要としてくれる人がいる。おじいちゃんだって急に僕が居なくなったら困るだろう。行く事は出来ない。
「よくわからないけど、僕は行く事は出来ないよ……ごめんよ? 」
「また奴らが現れたら」
レイはたじろいだ。
「アタシは帰らなきゃいけない。もしまたあんなのが出てきたら、アンタはどうする? 」