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旅立ちの日に

「よし! 食いながらでいいから聞いてくれ。よくよく考えた結果……今回の旅、俺は別行動する事にした! 」


 今晩の食事は、旅立ち前の最後の夕飯だ。ロディは料理の腕をいつも以上に振るい、食卓の皿の数は普段の五割増しになった。


 それをありがたく頂こうとした矢先、アーレスがそう言った。突然の報告を食べながら聞けるはずも無く、


「えっ……」

「ぶっ、今なんて? 」

「……」


 それぞれの反応を返した。

 まあ聞け、とアーレスはパンを頬張りながら続ける。


「"闇の者"、こいつらがあちこちでちょっかい出してるのは知ってるな? その中の一人が、俺の知り合いでな。ここんとこ何回か剣を交えた。奴は俺を、殺したがっている」


 いつもの調子で話そうと努めているアーレスと目が合った。そうか、あの黒い炎はその人と戦った時に受けたのか。


「で、だ。ただ向かってくるだけなら追い返せばいい。だがロディに黒い紋様が現れた」


 ロディが腕をさすった。今でこそなんともないが、当時はひどい苦しみ様だった。


「これは奴の黒い炎に原因があると見た。奴は目的の為なら、俺の家族に手ェ出しても構わないらしい」


 怒っている。そう直感で分かった。アルマ反応も殆ど起きていなく、表情もさして普段と変化がなかったが、こちらが身構えてしまう程の迫力があった。


「だから今回俺は別のルートで手掛かりを探す」

「でも、一人じゃ危険だ! 」


 思わず言葉が口をついて出た。アーレスが血を流して帰って来た、あの夜の光景がフラッシュバックしたからだ。


「逆だ」


 ザジが割って入る。彼が自分から話に入ってくるのは珍しい。


「"一緒の方が危険"だ。誰か人質にでも取られてみろ」


 そうか。相手は手段を選ばない。アーレスの事だ、僕達を救う為なら命を投げ打つ選択肢ですら躊躇なく選んでしまうだろう。


「確かに……俺たちがオヤジの弱点になっちまう、って事っすかね」

「あー、まあそんなところだ。あと全力が出せねえ。奴とやり合いながらお前らを焼かないようにするなんて曲芸は、俺には出来ねえからな! 」


 ガハハと笑うアーレス。ガハハではない。確かに理にかなってはいる。しかし僕の心を鷲掴みにして揺さぶるのは、あの夜の光景。あの時は助かったが、次は……。


「そのオヤジの知り合いっての、強いのよね。他にもそんな奴がいるんでしょ」


 サキが問い掛けた。顔を見なくても、声の調子で分かる。彼女の脳裏に浮かんだのは、泥の女性。


「ああ、奴ほどじゃないにしろ何人かは居るだろう。だが奴らは組織だって動いていない、各々が勝手に動いていると見た。そしてなにより……」


 アーレスは立ち上がった。家族一人一人を順番に見る。


「俺はお前らを信じてる! もし奴らが邪魔立てして来ようと、一人一人が力を出し切れば必ず勝てるはずだ。世界の未来も、明日の生活も、今回の旅にかかっている。……チビ達が戦わなくてもいい日の為に、もう一踏ん張りしてくれ! 」



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「成功の暁には王国からの支援が期待出来る、っすかぁ〜」


 自室で荷造りをしながら、ヴァンはぼやいた。


 何もなかった自分に生きる意味をくれた、その事に常に報いたいと思っていた。そしてそれが、沢山の人を救う形で成し遂げられるかもしれない。


「気合い入るってもんっすよ」


 握り締めた拳の中で、(ステラ)いが小さく爆発した。


 --------------------


 ザジは、いつもの修練場に居た。目を閉じ、心を鎮め、静止。そして、抜刀。


「勝手な期待をしてくれる……」


 脳裏によぎるのは、アーレスの目。信じているという言葉。彼はこういうタイプが苦手だ。暑苦しく、ポジティブで、豪快で。眩しいと言った方が良いかもしれない。


 そして彼は、もう一人の眩しい少年を連想する。


「俺に資格なんてない……。だがあいつなら……」


 刀身が月明かりを反射しキラリと光る。ふぅ、と息を吐いて、ザジはそれを鞘に収めた。


「俺は、弱いな……」


 --------------------


 ベッドに寝転んで、サキは金属板を眺めていた。もちろんいくら眺めても、それはただの金属板で、それ以上にも以下にもならなかった。


「みんなに楽がさせられる。ラタリアも良くなるかもしれない。そして……」


 サーペントの言葉が蘇る。薄れゆく意識の中でも、彼女の言葉はハッキリと覚えている。彼女が指示した工程は、まだ試せてはいない。ラフィグローブでは、環境が整わない。


「真実を知ったら、その時あたしは……」


 どうするんだろう。そして、みんなになんと言えばいいだろう。口に出したら、何故だか答えないといけない様に感じられて、サキは口をつぐみ寝返りを打った。



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 朝日が眩しく光る快晴の下に、僕達は居た。いつもより少し大きいリュックに、今日の昼食と保存食、水、いくつかのアルマ石、着替え、テントと簡素な寝袋を詰め込んで背負う。背中の重みは、中身以上に感じた。


「とにかく気をつけるのよ! 寝る前は歯磨いて。生水は飲まないように。あ! お肉はちゃんと焼かなきゃダメよ! 辛くなったらすぐに戻って来ても……」

「おいおい、ガキのお泊まり会じゃねえんだから」

「まだ子供よぉん! 」


 アーレスが雪崩のように話すロディをなだめると、コーディが前に出て来た。


「レイ兄ちゃん、頑張って。帰ってきたら、お話聞かせてほしい」

「うん、分かった。約束だ」


 ノノがヴァンの横腹をつつく。


「お土産お願いね、メカメカしいのがいいな」

「ぽぴーぽ」

「なんだそりゃ。……オッケー、バッチリ持って"帰って"来るっす」


 ザジの前には、ペテが立っている。


「…………」

「…………」

「…………」

「にらめっこ!? 混ぜて!!! 」


 ユーコが割り込むと、ペテは少し笑った。ザジもほんの僅かに、口角が上がったような気がする。


 僕はその中で、ある光景を思い出していた。僕がこうして見送られるのは、これで二度目だ。ホムル村のみんなは、元気にしているだろうか。


 そうだ、この旅から戻ったら、一度ホムル村に顔を出そう。半人前の僕だけど、村を出る前とは見違えたと思う。


 初心に帰った事で、僕の心にはフツフツと勇気が湧いてきた。これから知らない世界に足を踏み出す。楽しい事も、辛い事もあるかもしれない。でも、僕達に期待している人達がいる。待っている人達がいる。僕達の活躍で、何かが変わるかもしれない。


「それじゃあみんな! 」


 僕は心の赴くまま、剣を召喚した。これは僕の願いの象徴。その剣を、高く掲げる。


「行ってきます!!! 」

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