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それぞれの輝き

【光】

明るさを感じさせるもの。人は皆、暖かな光を求める。

 暗い、怖イ、身体が冷タい。明カリだ、光をくレ! 輝きヲくレ! 暗イノハ嫌ダ! 光ィィィ!!!


 --------------------


「どーなってんすか、これは! 」


 ドォン、ドォンと地鳴りが響くラタリア。その振動はアクシディアから来るように感じる。孤児院を飛び出したヴァンが見上げると、うねうねと蠢く黒い物体が空の隙間から見える。先に聞こえた咆哮といい、これは……。


「ヴァン! ヴァーン!!! 子供達は⁉︎ 」


 大きな声で、振り向く前から分かった。クリムだ。


「みんなは家の中でじっとしてるように……あれ、シュラウルさん? 」


 シュラウルは汗ひとつかかずに、澄ました顔でクリムの横に立っている。物怖じしないのか、単に何も考えていないのか……。


「あなた達も知り合い? それよりヴァン……」


 クリムは手短かに、やや慌てながらアクシディアでの出来事を説明した。


「やっぱあの超デカイのは赤目のアニマなんすね……しかも、レイくんが? 」

「そうなの! そう! どうしようわっ! 」


 クリムは急に肩を強く引っ張られた。シュラウルが何の合図もなしにやったのだ。痛いと抗議しようとしたが、先程まで自分が立っていた場所に瓦礫が降って来たのを見て、クリムは口をつぐんだ。


「あ、ありがと……」

「ん」

「クソ、瓦礫だけじゃないみたいっすよ」


 ヴァンが見上げた先では、空の隙間から蠢く蔓がラタリアに向けて伸び始めていた。何かを探すように、右へ左へと進んでくる。


「二人は家ん中に入って! 何かの下に隠れててください! 出来るだけ硬いものっす! 子供達を! 」

「わかった! ヴァンも無茶しないで! 」


 クリムが孤児院に駆け込み、シュラウルもヒョコヒョコと続いた。さっきの動きを見るに、シュラウルはしっかりと周りが見えているはずだ。何かあった時は、きっと子供達とクリムの助けになるだろう。


 そこまで考えたところで、ヴァンは首を振った。何かあっては駄目なんだ。彼らの居場所はここなのだから、何としても守らないといけない。そして、今ラタリアで動けるのは自分だけなのだ。


「うおおおおおおりゃァァァァァァァ!!!!!! 」


 ヴァンが勢いよく地面を踏み抜くと、足の周りで爆発が起きた。全身がパチパチと燃え上がるような心地良さを感じながら、自らが起こした爆炎に包まれて行く。そしてその爆炎が収まった時、その手には巨大な赤熱した剣が握られていた。


 全身のあちこちがパシッ、バキッと小刻みに爆発している。全力全開の証拠だ。制御は難しいが、しのごの言っている場合ではない。


 上空から悪寒を感じた。改めて空を仰ぎ見ると、蔓がピタリと動きを止めたところだった。自分に狙いを定めたのだと、ヴァンは直感で理解した。


 蔓が伸びてくる前に、孤児院から少しでも引き剥がさないといけない。ヴァンはいつでも振れるように、巨大な鉄塊を肩に担いで走り始めた。


 蔓が物凄い勢いで伸びてくる。しかし、その速度は予想していたよりも遥かに速い。これでは、孤児院から距離を稼げない。


「くっ、さぁせるかあ!!! 」


 ヴァンは担いだ剣を振りかぶり、後ろの地面に向けて叩きつける。赤黒い鉄塊が爆発し、その明度を増して行く。上半身をギリギリまで引きしぼり、双眸で迫り来る黒い蔓を捉える。数は一つ、一撃で決めてやる。


 バンッと巨剣は爆発し、溢れ出る溶岩のように輝きを増した。更に巨大化したように見えるそれを、全身の力を使い振り上げる。


「でぇぇぇぇぇぇっりゃぁ!!!」


 タイミングは完璧であった。あと十分の一秒あれば、その切っ先は赤目の蔓を捉えていただろう。しかしその一撃は、突如現れた影に遮られた。


「…………」

「なっ……⁉︎ 」


 巨大な黒い大鎌の柄が、ヴァンの渾身の一撃を受け止めていた。その人物は左手だけで鎌を持ち、空にかざした右手からは影が水飛沫のように噴き出して赤目を退けた。


 その人物は着地するや否や、鎌から影をヴァンの剣に絡ませて振り払った。水流のように滑らかな影は猛る剣の熱を一気に奪い取り、元の鉄塊に戻してしまう。ヴァンは大きく仰け反り、地面を足でいくらか削りながら止まった。得物は大きいとはいえ、細い見た目からは想像出来ない重さの一撃。


「お前、死神……⁉︎ いきなり出てきて、なんなんすか! 」

「……」


 目の前の人物は全身黒いローブで、顔もフードで覆われている。ヴァンが語気を強めて呼び掛けると、俯いている顔が少しだけ上がった。フードの奥から覗く目は鮮血のように赤く、ヴァンは一瞬たじろいだ。


(この目……アルヴィンと似てる……? )


 直感で危険を感じたヴァンが、再び剣を爆発させた。クルクルと大鎌が二度、死神の背中の後ろで回転し、漆黒の刃が上を向く。来るッ。


「…………」

「邪魔を、すんなよ!!! 」


 波のように、影が右から押し寄せる。ヴァンは一回転し、左から剣を叩きつけて弾き飛ばす。その隙を突いて、死神は一気に肉薄し鎌で掬い上げた。


 とっさに左足で柄を蹴り飛ばし踏みつけ、地面に大鎌を抑え込むヴァン。すると漆黒の大鎌はみるみるうちに姿を変え、水のように溶けながらヴァンの足に纏わり付き始めた。


「くっそがよぉ!!! 」


 右の地面にめり込んでいる大剣を逆手に持ち替え、死神の胸の辺りを目掛けて柄頭の部分で突きを放った。シンプルな打突に見えるこの攻撃は、ヴァンの爆発というステラ特性と相まって強力な近接迎撃技となる。


 鳩尾付近に放たれた突きは命中直前に爆発を起こした。衝撃でヴァンは後方へ吹き飛ぶ。足の拘束は外れた、が死神は無傷だ。胸の前にかざした左手から、ポタポタと影が垂れている。


「今マジでやべえんすよ! そこ、どけよ! 」

「…………」


 ヴァンが剣を構え直すと、死神もまた影の鎌を作り出した。爆発を起こそうと身構えた瞬間に、死神が飛びかかる。変則的な軌道で背面に回った鎌を、ヴァンは剣を背負いこむように担いで防いだ。


「いいっ、加減にしろよ……! 暇じゃあ、ないんすよ……!! 」

「…………」


 至近距離で、再び二人は睨み合った。


 --------------------


「うわっ! 」


 黒い蔓の迫るパン屋の屋根から、レイは飛び降りた。力任せに叩きつけられた蔓は容易くそれを砕き、アクシディアに白い瓦礫がまた増えた。


「クッ、どうすれば……」


 建物の隙間を縫って走りながら、レイは呟いた。時間で言えば、五分も経っていない。しかしながら、レイにとっては一時間、むしろ一日中戦っているのではないかとさえ思える。それほど神経を研ぎ澄ませなければならない戦いなのだ。一撃貰えば一巻の終わり。不慣れなレイだが、それだけは否応無く理解出来た。


 ドゴォ!!!


 通せんぼをするように壁を突き抜けて来た蔓を滑り込んで避け、すぐさま壁を蹴り屋根に向けて跳ぶ。やはり死角から攻撃されるのは危険だ。レイは肩で息をしながら、屋根に手を掛けよじ登った。


 いつの間にか、光の剣は消え失せていた。少しでも集中力が途切れるとすぐにこうだ。おまけに、体力も相当奪われていく。このくらいの運動、村の森でいくらでもして来た筈なのに、息が苦しい。吸っても吸っても、空気が体に入ってこない。手先は痺れ、自分の物ではないみたいだ。膝は震え、頬からは汗に混じって血が流れる。恐らく瓦礫の破片で切ったのだ。


「このままじゃ……」


 辺りは既に真っ暗になっていた。塔周辺のアルマ石の街灯は全て壊れ、夜が王国を支配していた。建物が白いので辛うじて暗闇の中でも足を踏み外さずに済んでいるが、いつまで体力とステラが保つかは、正直分からない。


 赤目の蔓はこの数分で数を増し、アクシディアだけではなく塔の上層レガリアに向かっても伸びつつあった。塔に縋り付き黒い蔓を伸ばす様は、眩い輝きを放つレガリア、そしてそこから溢れる光に向かって手を伸ばしているかのようだ。


 レイが両手を膝について咳き込んでいると、赤目の蔓はレイを無視して、まだ明かりの点いている市街の方へ向けてゆっくりと進行し始めた。塔の赤い目はレイを見てはいない。その禍々しい視線を辿った先には、明かりの消えたアクシディア別地区の中心部が、そしてその中で動く一粒の光があった。


「あれは……ステラ……? ……僕を見ろ!!! 」


 力の限りレイは叫び、手を掲げた。再び手には輝く剣が現れる。構え直す暇もなく襲い来る蔓をなんとか斬り払い、塔へ向かって走り始める。赤い目は、こちらを見ている。


「そうだ、僕を狙え! これ以上被害は広げさせない! 」


 瓦礫を踏み越え、倒れ来る街灯を避け、蔓を打ち払いながら、レイはひた走る。策は無い。しかし、止まってはいけない。レイは酸欠の頭で必死に考え続けた。


「なんとか注意を引き付けられたけど……どうする……! 」


 塔に近づくにつれて、攻撃は激しくなる。赤目の薙ぎ払いによって、レイ目掛けて瓦礫が飛んできた。かわしきれずに、左肩に直撃する。一回転してもんどり打ったレイだが、すぐに立ち上がる。追撃はまだ来ない。剣はまた消えてしまった。赤い目はレイに興味を失ったかのようにまた隣の地区の光を見ている。


「まさか……! いや、やるしかない! 」


 流れ出る血を拭い、再びレイは走り始めた。


 --------------------


「これでは、キリがないではないか! 同志は……やられてしまったか⁉︎ 」


 リックスは大粒の汗を拭い、眼鏡をずり上げた。第三地区の方にチラッと目をやると、やはりここと同じように塔周辺の明かりは消えていた。先程まで動いていた光の粒は、見えない。


 そうする間にも、彼を目掛けて太い蔓が迫る。リックスは白銀の槍を腰だめに構え、微塵の迷いも無く一気に突き出した。一撃は正面から蔓を貫き、真っ二つに突き抜けていく。ガシャンと音を立てて槍を構え直すリックスだったが、貫いたそばから再生する蔓を見て流石に辟易としていた。


「他の地区は大丈夫なのだろうか……! 天使様は、まだか! 」


 その時、リックスの視界の端に光の粒が見えた。先ほどまで動いていたそれは、再び輝き、一瞬の後に消えてしまった。いや、違う。とても弱々しいが、わずかに光っている。わずかに光ったまま、塔に向かって移動している。


「無事か……あいつ、何をする気だ。何故ワンドを収めた……もしや⁉︎ 」


 恐らくあの騎士は、今まではリックスと同じようにアクシディアへの侵攻を食い止める為の囮になっていたのだろう。交戦位置や、その輝きの強さで分かる。しかし恐らく今あの騎士は戦闘態勢を解除している。赤目に狙われないようにしているのだろうか。もしその推測が正しければ、あの騎士のやろうとしている事は、本体への突撃。


「む、無謀だ! くっ、しつこいぞ貴様! 」


 襲い来る蔓を槍の切っ先で薙ぎ払うリックス。しかし、依然として有効打にはなり得ない。


「しかし、どうする! 何か、何か出来ることを……! 」


 そのうちにも第三地区に見える弱々しい光は塔に近づいて行く。塔の周りほど蔓が多い。どれほど優秀な騎士であっても、塔に辿り着ける可能性は低い。しかし、今からあの光の主を止められるはずもない。何より、リックス自身も他に有効な策が思いつかないのだ。


 必死で考えを巡らすリックスを攻撃した蔓が、勢い余って瓦礫にぶつかる。すると、瓦礫の中から壊れかけた照明が転がり出てきた。蔓はそれを認めるや否や、狂ったように叩き潰し、すり潰した。まるでずっと探し求めていた失せ物を見つけた時のように、執拗に。


「はっ……そうか……? 」

「リックス!!! 無事か!!! 」


 野太い声が暗闇から響く。ヴィーゲンだ。後ろには騎士達が数十人程居る。


 迷っている暇はない、今は可能性に賭けるしかない。何よりも、命を懸けて王国の為に戦っている騎士を、むざむざ死なせるわけにはいかない。リックスはヴィーゲンの声を聞くや否や、必死の形相で叫んだ。


「各自抜杖を! 全員!!!今すぐ!!! 」

「よ、よし! 全員散開!!! 抜杖後、迎撃開始!!!」


 数十人の騎士がワンドを解放し、それぞれの武器へと変形させた。光が溢れ、暗闇に飲まれたアクシディアの一角が一瞬明るく染まる。これほどの光、照明の破壊された夜のアクシディアではさぞかし目立つだろう。


「行けェェェェェェェッ!!!!!! 」


 遠方の小さな光に向けて、リックスは叫んだ。


 --------------------


 レイの視界の端で、光が一気に弾けた。隣地区の市街の一角が、輝いている。赤い目は、そちらを完全に向いた。レイのいる地区に向けて伸びている蔓の動きが一気に鈍くなるのが分かった。


「ありがとう……っ!!! 」


 本当にレイの想いが伝わったのかは分からない。しかし、あの光も人を想う光だという事だけは分かった。


 目頭を押さえながらも、レイは最後の力を振り絞ってスピードを上げた。塔は目前だ、しかし塔の赤目とアクシディアの間にはポッカリと穴が空いている。足場は、一つしかない。


「あの時のサキみたいに、速く、一瞬で……! 」


 ホムル村でのサキを思い描くレイ。赤い稲妻を纏って、雷のように駆ける。僕にも、出来るはずだ。


 バチバチとレイの周りに稲妻が走る。躊躇わず、レイは黒い蔓目掛けて跳んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 」


 しっかりと赤目の蔓を踏みしめ、駆け上がる。左へ、右へ、真夏の雨雲の中を駆け巡る稲妻のように跳んで行く。右手には光の剣をもう一度握り締め、本体目掛けて最後の跳躍を踏み切る。赤目が再びこちらに気付いた。蔓が何本もこちらへと伸びて来る。


「届けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」


 こちらを睨みつける赤い目を目掛けて、両手で振りかぶった剣を、体全体で倒れ込むようにして振り抜く。想いを乗せた輝きが、最も強くなった。襲い来る黒い蔓を切り裂きながら、唸りを上げて、剣が振り下ろされるーーーーーー。



 しかし、無情にも剣は空を切った。



 ガクンと身体の力が抜ける。体力が遂に限界を迎えたのだ。あと一歩が、届かなかった。輝きを失って、レイは落ちていった。


(ああ……、もう動けないや。みんなは、避難できているかな。僕は、ここで死ぬのかな)


 仰向けに落ちていくレイ。もはや後悔や恐怖の感情は湧かず、ただただ呆然としていた。全てがスローモーションの世界で、レイは塔に纏わりつく赤目のアニマと、満天の星空を見上げる事しか出来なかった。


(星かあ、綺麗だな。ホムル村でも、こんな風に、星が、よく……見えたっけ……)


 瞼が重くなっていく。いよいよ限界のようだ。最後にレイが見たのは、空の彼方に輝く、眩い光だった。

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