赤い瞳のアルヴィン
「子供……?」
暗闇からゆらりと歩み出た少年は、開けた中央部に来ると再び座り込んだ。
「ちがうよ、ぼくはアルヴィン」
首をコロコロと左右に傾けながら、赤い瞳の少年は笑顔で名乗った。キョロキョロと三人の顔を見回し、微笑む。
「なんでこんなところに……」
サキが呟いた直後、ぼんやりと屋内が明るくなった。明かりの出所を探ると、天井から弱い光がいくつも溢れている。よく目を凝らすと、それがアルマ石である事が分かった。
「あっ、明かりつくんだ。ねえねえ、ぼくお腹すいちゃった。何かちょうだい?」
体を揺らして、アルヴィンはまた話しかけた。
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「ねえアルヴィン、君はどうしてここにいる
の?」
レイがアルヴィンへと話しかけた。レイとヴァン、そしてアルヴィンは、リュックの中から出して広げた携帯食糧を囲んで座っていた。サキは入り口近くの壁に寄りかかっている。
「楽しいから遊んでたら、みんなとはぐれちゃった。あむ……うわ! これ、まっずいねえ! 」
「……迷子かなあ? 」
「行商旅団の子とかかもしれないっすね。今頃聖域で騒ぎになってるかも」
レイは慌てて立ち上がり、振り向いた。
「それは大変だ! 今すぐ送っていこう……」
レイの言葉は、より強まった雨音にかき消された。ザアザア、ゴウゴウと、地面に、建造物に当たって、やかましい音を奏でる。サキが外を眺め、すぐに顔を引っ込めた。
「これじゃ今日は無理ね、風邪引かせちゃう」
「そうっすね、今晩はここにいた方が良いんじゃないすか? なんかあったかくなって来たし。あの明かりのせいか? 」
先ほど突然ついた明かりは、未だ弱々しく光っている。確かに足を踏み入れた時と比べ、段々と体が温まって来ている気がする。レイはすごすごと座り直した。
明かりのおかげで、中の構造がだんだんわかって来た。
アルヴィンの座っている場所から奥は、椅子と机がいくつもあった。レイの知っている木で出来たものではなく、何かの金属だろうか。ガッチリと床に固定されている。机の上には透明な板と、つまみや目盛りがいくつも付いている。遠目からでも埃を被っている様子が見て取れ、少なくとも人の手を離れて数年は経っている事が分かった。
「大丈夫だよ、アルヴィン。明日になったら、僕たちがみんなのところに連れて行ってあげるから。僕はレイ、よろしくね」
「わあ、ありがとう! レイは優しいんだね」
そう言ってアルヴィンは二つ目の携帯食糧の袋を開ける。今度の味は気に入ったようだ。
彼はレイのことも気に入ったようで、好きな食べ物や好きな遊びなどについて、次々と尋ねている。
ヴァンは立ち上がり、それとなくサキの元へ歩いていった。携帯食糧を齧りながら、サキへと話しかける。
「姉さん、何警戒してるんすか」
「……根拠はないわ。カンよ」
アルヴィンから視線を逸らさないまま、サキが答えた。ヴァンから携帯食糧を手渡され、慣れた手つきで袋を開け食べ始める。
「勘って……無邪気な子供じゃないすか。きっと姉さん、赤目が来るかもしれないって、ピリピリしてるだけっすよ」
「そうだといいわね。いや、赤目が来るかもってのは、全然良くないけど」
「確かに」
ケラケラと笑うヴァンと、黙々と茶色の塊を貪るサキ。お気に入りのフルーツ味だったので、少しは疑念の顔も和らいだように見えた。
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それから暫く、何事もなく時は過ぎて行った。暖かい屋内は快適で、ヴァンは大きなあくびをして仮眠を取り始めた。夜中に交代で見張りをするつもりだ。サキは入り口付近で外を眺めていた。
「レイのおじいちゃんはとってもやさしいんだね! だからレイもやさしいの? 」
「そんな、普通だよ。アルヴィンの家族は? 」
レイに懐いたアルヴィンは、らんらんと目を輝かせて談話に興じていた。時折見せる仕草や、言葉選びからは見た目以上に幼い印象を受けた。
「お父さんもお母さんもね、死んじゃった! でもさびしくないよ! リンデルが仲良くしてくれたから! 」
「あ……ゴメンね。その子は、お友達かな?」
「うん! すっごい仲良くしたから、いちばんの友達! 」
そう言ってニコニコと笑うアルヴィンの頭を、レイはそっと撫でた。
「レイとも友達になれるかな? 」
「もちろん! 」
「やったあ! でも、仲良くするのは後でね! そうだレイ! こっちにきてよ! 」
アルヴィンが立ち上がって、レイの手を引いて室内の奥へと向かう。
「なに、どうしたのアルヴィン」
「これね、ぼくが来たとき点いてたんだけど、消えちゃったんだ。レイは点けられる? 」
そういってアルヴィンが指差したのは、最奥にある壁の先。平らな壁の中に、ぽっかりと半円状に窪みが空いている箇所があった。一人か二人ほど入れそうなスペースの半円の奥には、アルマ石が埋め込まれていた。大きな石だ。暗い色をしている。紺色にも、黒にも見えた。
「見たことない石だな……」
アルマ石はその色形によって受容する感情や発揮する力の方向性はある程度決まっている。赤い石ならば情熱を受け炎を、青い石なら慈愛を受け水を、といった具合だ。
「よし……」
レイは石に手を当て、力を込めた。集中する。雨の音が遠のいていく。ただ感情を伝えることだけを意識した。常にレイが持っている感情...…常にレイが持っている感情……。
ブゥン!レイが手をかざした時、石が一瞬輝いた。その後明かりがハッキリと点いて、机の上の透明な板も光り、何かの模様を表し始めた。つまみがひとりでに上下して、警報と思われる音が鳴り響く。
ウァアン、ウァアンと、けたたましい音に顔をしかめたサキ。そして跳び起きるヴァン。急に強まった光に目を細めながら奥を確認すると、そこにレイの姿は無かった。
「……! レイ! 」
慌てて駆け寄るサキだが、近付いてももちろんレイの姿は見えない。彼は怪しげな光とともに忽然と消えてしまった。
「ちょ、ちょっとアンタ! 何したのよ! 」
「ぼ、ぼく、なんにもしてないよ」
アルヴィンに詰め寄るサキだったが、ヴァンの鋭い声に呼び戻される。
「うわっ、姉さん! こっちこっち! 」
サキはキッと振り向くも、彼の表情と声色から重大性を読み取り、大量の机を一足で踏み越えて入り口へと戻った。
「なに⁉︎ 」
「こりゃあ、中々の修羅場っすよ……」
ヴァンが視線を送った外に目をやろうとすると、おぞましい悲鳴にも似た声が耳に入り込んできた。と同時に、他の建造物の隙間から赤い目がいくつも蠢くのを確認して、サキは大きく息を吐いた。
「ふぅ……続く日はとことん、ね」
「レイくんは? どうなったんすか? 」
「分かんないけど、後回し! 大丈夫、死んじゃいないわよ」
「……勘すか」
「カンよ」
そう言い残して、サキは雨降る夜の平原へと飛び出して行った。
「割と当たるんだよなあ……」
ヴァンは呟き、後ろを振り返った。
「アルヴィンくん、俺たちが帰るまでここから出ちゃダメっすよ。いいっすね? 」
「はーい」
アルヴィンが手を挙げて返事をするのを確認して、ヴァンは親指を立て踵を返した。
「出来れば晴れてて欲しかったっすけど……しゃあねえ! 」
腕まくりをし、拳を鳴らして、ヴァンは外へと踏み出していった。
再び静かになった屋内。アルヴィンは一人ポツンと取り残されていた。
「ふふ……、あははははは! 」
手を叩いて、ゴロンと転がり、腹を抱えて笑うアルヴィン。
「すごいなあ、おもしろいなあ。ステラのおにいちゃん、おねえちゃん。かっこいいなあ」
ニコニコと笑い、スキップで部屋の奥、石の場所へと向かう。
「レイ、どこに行っちゃったのかなあ? また会えるかなあ。また会ったら、いっぱいいっぱい、仲良ししたいなあ! 」
あははははははは!!!無邪気な笑い声は、誰の耳にも入ることなく、室内にこだました。
皆さんこんにちは。閲覧ありがとうございます。ポテトです。
ついに赤目のアニマとの戦いが始まりました。奴らはなんなのか、ヴァンのステラはどんなものなのか、レイはどうなってしまったのか。次週もご期待ください。
現代のモソモソした携帯食糧、私は好きです。なんちゃらメイトとかなんちゃらバーとか。




