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願いのカタチ1

「あなたは優しい人でした。人々の幸せを願えるあなたの優しさに、私はずっと憧れていたのです」



--------------------


 緑豊かな山岳地帯。その中腹にホムル村はあった。のどかで、自然豊かなこの村でレイは育った。金の短髪に穏やかな顔立ち、優男という形容詞がよく似合う少年だった。


 村のあちこちには果実や穀物が山と積まれ洗い終えた農具が家屋にいくつも立てかけてある。この村は、先日レイが生まれてから丁度十七回目の収穫祭を終えたばかり。村人達は一大行事を終え、ようやく肩の荷が降りた様子で、今日は仕事を休みにして休息を取るものも少なくない。

 そんな中レイは、今日は屋根の上で金槌を振るっていた。


「おばちゃん! この板はまだある? 」

「ここにあるよ。今取るからね」

「いいよ! 自分で取るから! 」


 そう言って金槌を置いたレイは、屋根から飛び降り柔らかく着地した。そして木板をひっつかんですぐにまた梯子を上っていくのであった。


「いつもありがとうねぇ」

「どういたしましてー! 」


 レイは村人達に好かれる明るい性格の持ち主であった。そうでなくても、この村に若い男はレイくらいしかおらず、彼は毎日引っ張りだこだ。

 今日くらい休めばいいものを、この少年は困っている人を見ると放っておけない性分で、今日もこうして働いているというわけだ。

 レイは屋根の修理工ではない。別の昼は家畜小屋でブラシを振るい、また別の昼は雑草をむしって汗を流した。そのまた別の日は赤ん坊をあやしながら留守番をして一日を過ごした。


  彼は村の何でも屋なのだ。といっても決められた料金を取っているわけではなく、報酬は依頼者の差し入れや小遣い程度のものであった。

 普段彼は村長の家で家事手伝いをしながら居候をしている。そして何か困った村人たちが相談に来ると、意気揚々と飛び出して行くのだ。


「……よし。多分これで大丈夫。また雨漏りしたら教えてね」

「助かったよ、ありがとうね。これ、少ないけど持っていって。あとこれも食べてちょうだい、美味しいのよ」

「ありがとう。それじゃあまたね」


 貰った僅かな小遣いをポケットに押し込み、鮮やかな赤い果実を軽く上に放りながらレイは家路につく。

 大きなアポルの実だ。家に帰ったら3人で今日の間食としよう。いつものようにそのまま食べようか、それとも甘く煮てみようか。

 そんな事を考えながら歩いていると、一瞬めまいがしてレイはよろけてしまった。


「おっと……あはは。疲れてるのかな。今日は朝からほとんど休憩してないからなあ」


 そういえば今週は体力仕事ばかりだ、無理もないか。帰って夕食まで寝ようかな、そんなことを考え再び歩き出そうとすると、視界の端、空の向こうにレイは何かを捉えた。鳥ではない、さらに大きな影は急に進路を変える。それはくるくると回転し、煙を上げて力なく揺れ、そして空中で爆発した。


「大変だ……! 」


 村の外れ、森の入り口の方だ。気づいた時には、自らの不調の憂いなど忘れ、レイは既に駆け出していた。


--------------------



「はぁー、どうしよ……大事な石が……これは使えそう、これはだめ……」


 レイの見当は正しかった。森の入り口の近くの平原に、それはあった。原型を留めない無残な残骸が散らばっている。

 ただ一つ予想と違った事は、その物体に人が乗っていて、その人物が無傷で立っているということであった。


「あの……、大丈夫? 」

「んん? 」


 残骸をあさっていた人物は振り向いた。小柄な少女だ。レイとそう変わらない歳に見える。明るい茶髪のショートヘアで、左のこめかみの辺りにひとひらの花弁を模した髪留めをつけている。髪型と服の袖から伸びた健康的な四肢から、活発な印象を受けた。


「もしかしてさっきの、君? 怪我はない? 」

「あぁ大丈夫大丈夫! アタシ頑丈だから! こんなの慣れっこよ! 」

「ええ……」


 煤で汚れている意外は目立った外傷も無い。本当に無事だったようだ。レイは大きな爆発も、爆発して無事な人間もその目で見るのは初めてであった。


「ねえあんた、地元の人? 」

「あ、うん。僕はこの先にあるホムル村に住んでるんだ。えっと……」

「アタシはサキ。あんたは? 」

「レイだよ。とりあえず、うちに来る? 汚れてるし……」


 サキと名乗った少女は困惑した様子だ。声の調子も落ち、全くの予想外だというように眉をひそめる。


「えっ……だって、アタシ、よそ者だし……」

「関係ないよ、困った時はお互い様。おじいちゃんの教えさ。シャワーだけでも浴びていきなよ、煤だらけだ」

「本当⁉︎ 助かるーっ、ありがと、よろしくね! 」


 サキの顔がぱぁっと明るくなった。分かりやすい子だとレイは思った。

 まっすぐ拳を突き出して来たサキに、レイは一瞬戸惑い、その拳を両手で握った。

「よ、よろしく……? 」

「もーっ! グータッチ! 知らないの? 」


 レイがこの村の人間以外と話すのは、これが初めて。記念すべき出会いをレイは喜んだ。この人とは、なんだか気が合いそうだ。


 この出会いが、レイの平凡な毎日を大きく変えることになると、まだ誰も知らない。

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