あたたかく、そしてあつい3
ここは火の国、ラフィグローブ。山中から大きく突き出した地にあるこの国は、風鳴きの宴の只中にあった。
「ワハハ! 飲め飲め! 」
「おめえこそジョッキ空いてるぞ! 」
屈強な男たちがあちらこちらで酒を酌み交わし、豪快に飲み干し、笑う。サキが言うにはこの国では肉体労働が盛んな為、体格の良い男性が多いらしい。観光客達は様々な出店で振舞われる料理を食べ歩く。どこからか陽気な音楽が鳴り響き、見知らぬもの同士でも国民は声を掛け合い、観光者とも談笑を交わしていた。
「ここかな……? 」
レイが向かったのは、肉料理と酒が楽しめる店。宴に合わせ簡易的なテーブルが設置され、店頭ですぐに料理を楽しめるのだ。サキは用事があると1度離れてしまった。髭面の大男と積まれた樽が目印だとサキに言われていたので、レイはなんとか目当ての店を見つける事が出来た。
「おう! いらっしゃい! 」
「あ、こんにちは。その串のやつを2人分ください」
髭の大男が鉄板や金網でいくつも肉を焼いている。鉄板の下には見たことのない大きさのアルマ石が埋め込まれていた。お店で使う石はこんなに大きいのか、僕の家のとは大違いだ、とレイは感心した。男は大きな体でせわしなく動き、石に念じて火加減を調節していた。情熱のアルマが伝わってくる。見事な火加減だ。
「あいよ! にいちゃんこの店に来るのはセンスがあるな!美味いんだぞうちは! 」
「サキに……知り合いに聞いたんです。ここが一番だって」
「サキちゃんの知り合いか! はははそうだろうそりゃそうだろうよ。サキちゃんはよーく来るからな。ほれオマケだいっぱい食え! 」
明らかにオマケの域を超えた量の串を持たされたレイはひょこひょこと空いているテーブルを探しそれを置いた。見たことのない肉も沢山ある。はたして食べきれるだろうか。
「風鳴きの宴か……。火じゃないんだな」
火の国と聞いていたもので、レイは少し意外に感じていた。風が吹いた事を祝う祭りって、なんなんだろう。もっとも、街や人々の様子は"火の国"めいていた。人々の熱気をひしひしと感じる。悪く言えば、暑苦しい。
「でも、楽しい場所だな……」
道行く人の皆が活気に溢れている。普段からこのように賑やかなのだろうか。レイが待ちぼうけていると何やら近くで盛り上がっている卓があった。
「んっんっ……カァーッ! おかわりだ! もう一杯! 」
「強がってんじゃねえ! 今日こそは勝つからな! 俺ももう一杯だ! 」
いけ、やっちまえ、と物騒な掛け声を送る観衆の中心では二人の男が肘を卓につけ、右手を合わせ力比べをしている。どちらの腕も丸太のようだ。珍しい赤毛の男の方がやや優勢か。そして一進一退の攻防を繰り広げながら左手でジョッキの酒を一気飲みしている。
「そんじゃあ、そろそろ決めるぞ! 」
レイが見始めてから四杯目のジョッキを飲み干した赤毛の男がふん、と力を込めた瞬間、組んでいた相手の男の手がテーブルに叩きつけられた。勝負ありだ。
「ぐぁぁぁぁぁ! 」
「おお決まったぁ! 」
「アーレス強え! これで何連勝だ? 」
どっと盛り上がるギャラリーの中心で勝者の赤毛の男がもう一杯酒をあおり、肉をかじった。
「俺の勝ちだ。そんじゃあ、約束どおり勘定は任せたぜ。クーッ! 勝利の味は、格別だぁなぁー! ワハハハハ! 」
「ぐ……次こそは勝つ! 覚えてろよ! 」
「いつでも相手になるぜ! 次は向こうの果実酒の店でグラス片手に優雅にやり合うか、なんつってな! じゃあな! 」
そう言って歓声を送る客たちに大手を振って、赤毛の男は人ごみの奥に消えて行った。
「お待たせー! 結構待った? 冷めてない? 」
そして逆側の人ごみからサキが走ってきた。
「うん。さっき焼いてもらったばかりだし……退屈もしなかった」
「ならよかった。……んーやっぱりお肉は厚切りが1番! 」
「本当だ、うん。とても美味しい」
そうだろー!とカウンターから店主が手を振る。大変耳の良いことだ。二人は手を振り返した。食べきれるだろうかという例の不安はサキによって杞憂に終わった。
二人が大盛りの肉を平らげ終えようかという時、大きなファンファーレが鳴り響いた。食事を楽しんでいたものも慌てて口の中に料理を押し込み、あるいは皿を抱えて動き出した。
「え、なになに? 」
「あ、もうこんな時間! 広場に行かなきゃ! 」
最後の一切れをパクリと頬張り、サキはレイを連れ立って走り出した。




