エピローグ
どこかを流されていた気がする。なまぬるい水のなかのようだった。なにも見えないし、なにも聞こえないからよくわからない。ただ、流れに乗っている感覚だけがあった。
そこは心地よかったから、私はただ身を任せていた。
唐突に、肌寒さに襲われる。浮遊感が消え、冷たい地面を頬に感じる。私は不快感に襲われ目を覚ます。
目の前には、海があった。淡い青緑に輝く海。寄せては引いてを繰り返し、キラキラと光子を飛ばしている。
私はここを流れ、そして打ち上げられた?
ぼんやり考えながら、辺りを見渡した。
ここは広い洞穴のようだった。周りは宝石をちりばめたような岩壁に覆われ、緩やかな傾斜の先に光が見える。
私は、思案した。暖かい海に戻ろうか、と。ここは肌寒いし、傾斜にはゴツゴツした岩があって上るのは大変そうだったから。
しかし、光の先が、どうなっているのか知りたくなった。私は這うようにして光の方に進んだ。
視界に銀の草原が広がる。一面の銀色の世界。私は息を飲んだ。美しい世界だと思った。
光の洪水の先に、なにかが見えた。山のようにそびえ立つあれは、なんだろう…
私はただ呆然と見つめていた。ここは夢の世界なんだろうか。だって、現実感がない。現実感?
私はなにをしていたっけ。ふと疑問が生まれた。私の現実とはなんだっけ。
さわさわと揺らめく草原から、いくつかの風景が浮かんできた。
白い部屋、ノート、子供たち、そして、白い服を着た女性…
私は、ベッドの上で、眠りについたんじゃなかったか。
草のざわめきが大きくなる。徐々に聴覚が戻ってきているのだ。それと共に、私の耳に、ある音が届いた。ざく、ざくと、近づく音。足音?
目の前に、人が立っていた。
草原と同じ、銀色の髪をなびかせた青年が、私を見下ろしていた。
仮面を張り付けたような無表情の、口がわずかに開く。
「ようこそ、楽園へ…………ユタ」
私は、悟った。
どうやら、私の物語は、まだ終わりを迎えることはできないようだ。
このお話は、「ぼくがすてられるまで」と対をなすお話です。
このファンタジー世界「ユノ―」では、
地上世界で歪み、死んだ魂は、大いなる流れから打ち上げられ、「岸」で目覚める。
「ぼくがすてられるまで」のように、歪みすぎて黒くなってしまう魂のほかに、
このお話の先生のように、奇跡を起こして地上を去る、「白い翼」がいるのです。
「先生」ユタは、岸で目覚め、天界に迎えられる。
自分の幸せを、他人に与えるという奇跡を起こし、歪んでしまったユタは
天上の楽園で、何を思い、暮らすのか。
彼も、そのうち、もう一つの世界、「地界」…地獄の存在を知ることになる。
心優しい彼は、そのことをどう感じるのでしょう。
いつか、続きが書ければいいなと思っております。