006 旅の終わりも近づいて
少し短めです
立ち寄った村で請け負った依頼で異常な光景に出会った。馬鹿デカい赤熊による異常繁殖と森の衰退だった。無事赤熊の群れを倒すけれど、俺達は大事な仲間と別れる事に成る。灰色狼のニケは新たな森の覇者として守り抜いて行くだろう。チビ助達もニケの良き弟分として活躍するだろう。そして村人は無暗に灰色狼とは争わない事を誓ってくれた。
赤熊の存在を知らなかった村人は毛皮と肉の山を見て驚いていた。灰色狼が赤熊の繁殖を抑えてたかもしれないと俺の考えを言えば、そんな言い伝えも在ったと長老が言って来た。ニケが代わりに群れを納めるだろうと伝えれば、誰も強く反対はしなかった。俺達が森へ入らなければ、いずれ赤熊によって村は襲われていたからだ。
「少しばかりだが、肉と毛皮を置いて行こう。ソレで狼達の暴れた分は帳消しにしてやってくれ」
被害は美味たるものだ。其れより上質の赤熊の毛皮の方が金に成る筈だ。俺の提案に誰も逆らわず従ってくれた。
「今夜は宴だ!」
誰からともなく熊肉が手に入った事で祭りと化した。七頭の雌熊と十二頭もの小熊それに馬鹿デカい雄熊の肉は十分の一でも十分に村を潤すだけの量が在った。
「それで、アラン殿達は何処を目指しておるんですか?」
「グレイソンだ。此処からの大凡の距離と日数を知りたい」
「そうですな、此処から南に徒歩で二日の距離に『クレ』と言う名の町が在ります。そこからグレイソンに向かう乗合馬車が三日に一本の割合で走ってる筈ですよ」
「そうですか有難い。では、明日にでも向かおう」
村長宅でその晩を過ごし、日の出と共に村を出た。俺達の足ならば人の倍は距離を稼げるだろう。巧く行けば今夜にでも『クレ』と言う町に着くかもしれない。
「少し……寂しいですね」
「だな」
「……」
「ルルはモフモフが好きだからな。グレイソンに着いたらルルは魔獣使いに成ってみるか?」
「そんな職業が在るんですか!?」
「在るって聞いたぞ。但し力で押さえつけないと使役出来ないら良いケドね」
「そんなの私には無理ですよ。やっぱりニケは特別でしたね」
「だからと言って家族皆殺しって訳にも行かんだろう!?」
「当たりまえです!旦那様がそんなことしたらルル本気で泣きますよ」
ニケの時はそうした結果なんだがな。だからと言って同じことを繰り返そうとも思わない。さて、困ったものだ。この世界には猫や犬の様にペット販売は無いのかね!?其れも含めて俺の帰る方法の手掛かりが『グレイソン』で見つかると良いのだが……。
予定取り少し早めにクレの町に着いた。少々無理をして走ったお蔭である。苦労した結果、乗合馬車は明日の朝に出発らしく運よく最後の切符二枚が手に入った。
「急いだ甲斐が在りましたね」
「ああそうだな。それで、グレイソンには何日で着くんだ?」
「大体三日だそうです。二晩途中の町で泊まって一晩は走り続けるそうです」
「うはぁ~ハードスケジュールだな。そんな走りで馬は持つのか?」
ルルと素朴な疑問を語っていると、ドサドサと近づく足跡が聞こえて来た。
「アハハッ。若いのグレイソンには始めてか!?馬如きでは、あの町へは五日は掛かるぞ。だから地竜を使うのさ。それでも数回に一度は危険が付きまとうがな」
俺達の会話に突然ン割り込んで来たのは白髪交じりのオッサンだ。ルルに軽く挨拶を交わし俺を小馬鹿にした感じで語り続ける。
「道は平たんじゃし、エネミーモンスターも湧かない。しかし!危険な道のりでも在るんじゃよ。その訳が分かるか?」
「何でしょうかね?」
ご丁寧にルルはオッサンの言葉に反応し考えて居る。良いからそんなオッサンの事は無視してろよ。
ルルの反応に気を良くしたオッサン。俺に赤ッ恥を掻かせたいのか?グイグイと押し迫って来る。鬱陶しいオッサンんだ。
余りにもシツコイから俺も頭にきて答えてやる。
「地竜と言えばかなりの速度で走ると聞く。地竜に追いつくには飛龍か地竜らしいって事で、答えは盗賊だ。人が一番怖くて危険なのは人だからな。差し詰め、乗合馬車に最初から盗賊の仲間が紛れ込むんだろう。目ぼしい奴に当たりを付けるんだ。頃合いを見計らって何らかの方法で馬車を停め、仲間が駆け付ける。狙った獲物をメインに奪うのさ。人は自分が危険から回避できると判れば、平気で裏切る。危険が少ないと感じた他の乗客は、平気で狙われた奴を切り捨てるのさ。その辺を利用すれば狙う奴も狙われない奴も、ある程度は安全を得られるって訳だ。悲劇なのは狙われたカモだけって寸法だ。だから無暗に見知らぬオッサンと話はするな」
「ガッハハハハ。中々若いのに鋭いの!それに危機管理も優れて居るようじゃな。お嬢さん!若い奴の言う通りじゃ。ワシ以外の男とは余り口を利かぬ事じゃな」
手前が一番怪しんだろうが!俺を最後まで小僧扱いしやがって……万が一同じ馬車の乗ってもお前だけは絶対助けてやんね~からな覚えてろ!
オッサンは言いたい事を言うと勝手に消えて行った。俺は馬鹿にされた気分で腹の虫が収まらない。
「ルル!甘いモノを食べに行くぞ!」
「無駄遣いはダメですよ!此処で毛皮売らないんなら尚更倹約して下さい。馬車代結構な値がしたんですから。良いですね」
「……」
別に此処で赤熊の毛皮を売っても良い。だが、前の村で人の集まりはグレイソンが、ダントツで多いと聞かされた。人が多ければ多い程、物価は高いモノだ。特に毛皮類の贅沢品なら尚更値が張るモノだ。だから敢てこの町では売らないと決めたんだが、鬱憤晴らしも出来ず俺の怒りは何処へぶつければ良いんだ!そうだ。今夜ルルをいっぱい可愛がってやろう。うんソレが良い!ソレが良い!
一応宿で個室は取れた。しかし本館を建て替え中と言う事で、急ごしらえの掘立小屋にしか思えない宿だ。壁が薄すぎるのだ。これでは幾らルルを可愛がっても声が漏れてしまい二人揃って赤っ恥を掻いてしまいそうだ。なので自重するしか道は無かった……。
昨日の怒りが収まらないまま朝を迎える。弱り目に祟り目と言うのだろうか、俺の怒りの元と成ったオッサンが目の前に居る。ルルとオッサンは俺の気など知らずに挨拶を交わしだした。
「おやおやお嬢さん。やはり君もこの馬車に乗るのかね」
「おじ様もご一緒ですか?何だか楽しい旅に成りそうですね」
「わははっ。綺麗なお嬢さんにそう言われると年甲斐も無く嬉しくなるのぉ」
「ルル!昨日の言葉を忘れたか!?見知らの奴とは口を利くな」
「なんじゃ!若いの。お主も乗るのか?無粋な奴じゃな」
「おじ様。虐めないで下さい。ルルは旦那様と一緒にしてるのですから」
「おぉ~それはスマンかった。お詫びに旅のガイドでも聞かせて挙げよう」
俺を無視して勝手に話が盛り上がる二人対して俺は怒りの頂点だ。この最後の旅路で絶対何かが起こる予感がする