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005 旅立ち


 立ち寄った村で、ひと騒動が有った。最近村へ灰色狼が頻繁に表れるらしい。ニケと間違われた事を切っ掛けに俺達は調査に乗り出した。森の中に入れば異様な光景に出会う。仔狼の群れと子守役の若い雌の狼が森に居た。森の奥へ進めば更に異常な光景に俺達は驚いた。赤熊の異常繁殖と群の存在だ。

元々群れを成さない筈の赤熊が群れを成して居る。今は森に留まっているが大食漢のコイツ等は、やがて森の全土を食潰して村へやって来るだろう。そうなれば今の騒ぎどころでは無い。ある意味灰色狼の群れが赤熊の繁殖を抑えていたのかもしれない。


「ルル。此処は殲滅しか有り得ない小熊が成長しすぎだ。ニケの時とは訳が違う」

「判っています。仕方が在りませんね。でないと森が死んでしまいます」

「よし一気に叩くぞ。ニケお前はチビ助達を守れ。ルル君もだ。槍では赤熊の厚い毛に傷一つ付けられないからな」

「旦那様一人では無理です」

「任せろ俺には策が在る」


 俺の魔法の精度と発動時間は遥かに短縮されている。加えて威力も大きく成って居た。赤熊の群れは少々バラケて居るが、この程度今の俺には造作も無い。


『コンバート!』イメージ次第で土壌を好きな様に変えれる魔法だ。


 気合を入れ、一気に赤熊達が寝そべっている辺りを全部沼地へ変えた。己の重さで、逃げ出す間も無く赤熊の群は沼へと飲み込まれてしまう。


「よし!完了」


 後は。時が経つのを待つだけだ。そんな気の緩みが俺の行動を鈍らせる。警報が突然鳴り響くが体が付いて行かず、後ろから襲って来た大きな影に先手を取られる。


「デカい!」


 全長は5メートル程も在るソイツは、紛れも無くこの群のボスだ。一般的な赤熊の全長は2メートル前後と言われている。その倍の大きさを誇るコイツなら、灰色狼も太刀打ちできなかったんだと納得してしまった。


デカさの割に機敏な動きをしやがる。お蔭で警報が鳴ると同時に俺を襲い掛かってきやがった。運良く奴の右腕の爪が俺を捉えなかったのは子守役の雌が奴の左足に噛み付いてからだった。


『グォオオオー!』『ズサッ!』『キャィイイン』


 俺を守ったのかそれとも群れの敵で一矢報いたのか?代わりにボスの攻撃を受け子守役の雌は激しく大木に打ち付けられた。


「ルル!警戒しながら回復してやってくれ!ニケお前も俺に手伝え!」


 赤熊のボスを俺に引きつけながら、倒れ込む雌から少し距離を取った。


「お前の相手はコッチだ!家族の敵を狙うなら俺と戦え!」


 言葉が通じる訳では無いが俺の挑発にボスは乗って来た。仁王立ちした姿は雅に生きた壁だ。振り下ろされる爪が当たれば人の骨など木っ端微塵だろう。


『ウォーター・アロー』高圧の水は何でも切れる。其れを矢の形にして飛ばす魔法。


 キラキラと輝く水の矢は敵の視界を妨げ乍ら突き進む。『グオォオ!』と左前脚を翳すが水の矢は勢いが止まる事無く奴の掌を貫いて左目に突き刺さった。


『ギャォオオ』


 雄叫びを上げて一瞬奴が怯む。ニケはその隙を逃さずもう片方の目を狙う。俺の姿を見失った奴の足元に特大の沼地を作って遣った。


『ギャォオオー……グゥボボボ』


 馬鹿デカい身体が仇と成る。俺の作った沼地に己の重さで一気に沈んでいく。

底なし沼の如く、暴れれば暴れる程に体の自由を奪っていく。もがく程に呼吸はし難く成り遂には息絶える。自分で魔法を放っておきながら結構エグイ魔法だと今更ながら思う俺だ。


「旦那様!」

「ルル!そっちは大丈夫か?」

「はい。私の魔法では直ぐに完治は無理ですが死ぬ危険は去りました」

「そっか良かった。まさか野生の灰色狼に助けられるとは思って無かったよ」

「私もです。ニケと同じくこの子も賢い子の様ですね」


 ルルもニケも傷を負う事無く無事だった。戦いが終わって静まった頃に、五頭のチビ助達が姿を現した。ルルの足元に近寄ってくる奴やニケに近付く者も居る。横たわっている雌の下に駆けつける者も居るが……俺の下に来るチビ助は居ない。


「さぁ!これでお前達の元の縄張りは取り返して遣ったぞ。後は自分達で縄張りを守って見せろ。今度村に近付いたら殺されるから気を付けろよ」


 倒した赤熊の毛皮と肉を見せれば村人も納得するだろう。灰色狼が赤熊の繁殖を抑えていたと言えば、これ以上のイザコザモ無くなるかもしれない。何しろコイツ等はやっと乳離れを始めたに過ぎない。今なら人の手で簡単に淘汰されてしまう。そうなれば、森も村も全てが赤熊に消されるだろう。村人も其処まで馬鹿で無い事を祈るしか俺には出来ないからな。


「帰るぞ」


 ルルは可愛いチビ助達に後ろ髪引かれる思いで何度も振り返る。傷が完治していない雌が何処まで守り切れるかは不安だ。其れでも俺にしてやれる事は無い。


『ウォオオーン』


 感謝の表れだろうか遠吠えが俺達を見送ってる様に思えた。


『クゥウン』


 ニケが小さく唸って俺を止めた。


「……」

「ニケ……?」

「お前が守ってやるか?」

「バゥ!」

「判った。しっかり守ってやれよ!」

「ニケ!?」


 俺はニケの決意を汲取った。コイツの家族を奪ったのは俺だ。何も知らずにニケは俺に付いて来た。そうするしかニケに生きる道は無かったからだ。

今ニケは自分で伴侶を見つけた。ニケほどの賢さが在れば、人とのいざこざも回避できるだろう。ニケには『森の覇者の一族』って固有スキルも在ったな。

うん。ニケならこの辺り一帯の偉大なボスにも成れると思う。そして人と争いを出来るだけ避けて欲しい。


「人には殺されるなよ。元気でな!」


 従魔の首飾りを外し代わりに小さなペンダントも首に掛けてやる。それが一度は人とかかわった証と判れば、争いが避けられるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて俺はニケと別れを告げた。


「ニケ……。旦那様……」


 ルルの頬が濡れていた。共に歩んできた仲間だから、一緒に旅を始めた仲間だから、いつかニケの子供を抱きしめると思っていたのに……。


「「アオォオオオーン」」


 深い森を抜け村が見える頃、重なり合う遠吠えが俺達に届く。まるで礼を言って居る様に……森を守って行くと誓って居る様に……俺達の旅の安全を願って居る様に……元気でな!と俺には聞こえた。



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