003 一人前?
ハンター資格を取る為に町へ立ち寄った。問題なく登録を済ませた俺は突然頭痛に襲われる。灰色狼の仔ニケを従魔の登録するが、気分が優れない俺の代わりに、ルルがニケに首輪を掛けてやった。その間に俺は、起こった事を整理している。
「おめでとうございます。職業の取得に伴い幾つかの事象が解除されました」
どうやら神のご加護は、俺にもまだ在ったらしい。沢山のアナウンスが頭の中で鳴りっぱなしだ。
『名前:アラン。種族:ヒューマン。性別:男。年齢:16歳。総合LV8。職業:ハンター・E。武器スキル:なし。魔法スキル:四属性初級:LV1。空間魔法:LV1。空間認識:LV1。固有スキル:肉体強化:LV2。魔力増加:LV2。従魔半化。経験値半減。』
『名前:ルル。種族:ヒューマン。性別:女。年齢:15歳。総合LV3。職業:無職。武器スキル:--。魔法スキル:聖属性LV1。固有スキル:--』
『名前:ニケ。種族:灰色狼。性別:♂。年齢:0歳。総合LV2。武器スキル:爪攻撃:LV1。牙攻撃:LV1。固有スキル:森林の覇者の一族』
格段に俺のスキルは増えて強く成って居る。俺って16歳だったんだ。と言う事は既に成人してるのね。ってか1年間半人前だったて事かよ。
俺ばかりかルル達の情報が流れてきたために頭痛がしたのだろうか?確かに情報量が今迄の数倍に成ったのは間違いないが……驚いたのは、ルルに魔法が宿って居る事だ。他にも何かが在りそうだが、今の俺にはこれ以上覗く事は出来ない様だ。
情報を見て落ち着きを取り戻した俺は、ルルにもハンター登録を勧めてみる。ルルと係りの者も有り得ないと言いながら、申請手続きを進めて行く。聖属性の魔法が在る事に二人は驚いていた。
「お前さん達には、驚かされっぱなしだな。俺も長年この仕事をしてるが、登録時に二人も魔導士が誕生したのは初めての経験だぞ」
「俺達は、幸運の星の下に居るからな」
「そうか、そうだよな。スゲェよお前達。俺も肖りたいぜ!」
自分までもが魔法を手にした事にルルは驚いている。少し落ち着かせる為に俺が座ってた椅子にルルを座らせ深呼吸をさせた。
「旦那様。これも旦那様のお蔭です。私、旦那様と出会えたから……」
「さぁ~どうだろう。ルルが元々持ってた力だと思うぞ」
「いいえ!旦那様と出会わなければ、ルルは何処かに売り飛ばされてました。そして旅する事も叶わなかったでしょう。有り難う御座います」
感極まるルルが落ち着いた所で、今度は装備を整えよう。ルルもハンターに成れたのだから、ソレなりの装備を揃えてやりたい。
「嬢ちゃんには、重さから言ってコッチが良いだろう。坊主はどうする?」
「豪く俺には投槍な対応だな」
「男の装備等どれも似た様なもんだからな」
「旦那様、ワタシどれを選べば良いのでしょう?」
「まぁ~俺も素人だしな。癪だけどオッサンの言う事を聞いて置け」
「フッ。坊主の割に素直じゃないか。仕方が無い!嬢ちゃんの後に坊主の分も選んでやるよ」
坊主坊主と人を小馬鹿にしやがって……クソ!違う店にすれば良かった。町で評判だからと立ち寄ったけど、とんだロリコン野郎だったぜ。
鍛冶師はルルに武器を槍と大型のナイフを勧める。回復役も仕事が無ければ戦闘員だ。距離を取れるが良いとアドバイスする。ナイフは懐に入られた護身用だ。
俺には武器は不要だけど、威嚇用にと片手剣を勧めて来た。守りには硬革の半鎧一式が、軽さ動き防御力の三拍子。お揃いのデザインで色違いで話は決まった。
手持ちが殆ど消えて行ったが仕方が無い。明日からエネミー狩りに精を出そう。
ジッドの店に寄る理由も無く成った。まぁ~俺としてはその方が良い。ルルも忘れてる様だし、今日はこのまま宿へ引き返そう。
「これは……どうなってるんだ?」
「どうしたんですか?」
「あぁ~なんで……この部屋にはベッドが一つしか無いのかなって思ってね」
「それは、私がWルームにしたからです。その方が割安でしたから」
「そっか……悪いな貧乏旅行で」
「いいえ、私は旦那様とご一緒で安心できますしニケも一緒ですから」
野宿で夜を共にしてきた。ルルはニケを抱きしめて寝ていた。今更同室でも問題ないのか……どうやら煩悩だらけは俺だけだったらしい。
「旦那様。教会の鐘が聞こえましたよ。食事に行きましょう」
この世界に時計は少ない。人は朝夕に教会の鐘の音で行動している。そして今夕時の鐘の音が鳴り宿では夕食の時間が始まった事を意味している。
「ボリュームが在って美味しいですね」
「そうだな。考えてみれば、ルルの作った料理以外を食べるのは初めてだよ」
他愛の無い話をしながら夕食を取って居る。足元ではニケがお零れを貰って悪戦苦闘していた。そこへ宿の女将が近づいて来た。
「アンタ達。悪いケドその仔犬はベッドの上では寝かさないでおくれよ。動物の毛はシーツに絡まって洗い難いんだ」
「判りました。約束はちゃんと守ります」
「それと湯浴みはどうする?」
「二杯お願いします」
「判った。部屋へ戻ると一緒に運んでやるよ」
えっ!?ルルは今夜ニケを抱いて寝ないのか?それと湯浴みって何だ?
「美味しかったですね」
「うん。ルルの料理も美味いケド満足できたよ」
「其れでは部屋に戻りますか。ニケおいで」
ルルはニケを抱いて先を歩く。女将に部屋へ戻ると合図を送れば、宿の者が大きなタライと二つの桶を持って俺達の後を付いてくる。重そうだなっと俺はタライを肩代わりしてやり三人で部屋へと向かって行った。
「タライは此処のタイル張りの場所でお使い下さい。湯はそのままで結構です」
そう言って彼はベランダ寄りの一角に大きなタライを置いて部屋を出て行った。
「さぁ旦那様。久し振りに汗と誇りを流しましょう。どうぞこちらへ」
へぇ!?……湯浴みって行水の事か!でも此処ってカーテンも無ければ仕切りもないよね!?それにこちらへって、どう言う事?
「お急ぎに成らないと湯が冷めますよ。御背中を流しますから此方へ」
ガン!と譲る気配を見せないルル。どうやら彼女は俺の背中を流す気満々の様子だ。『親にだって見せた事が無いのに!』って思いだよ。
結果から言おう。俺の背中をルルに流して貰った。湯が入った桶はもう一杯在るって事で、お返しにルルの背中を俺が流してあげる。うん。俺の時は皓皓と灯りを灯してたのに、ルルの時は月明かり何だろう?反って変な気持ちが昂っちゃうですケド……これって、そう言う流れなんですかね?気が付けば、ニケはベランダの外で大人しく布に包まって既にご就寝中ですよ。
「旦那様……私は旅のお供をすると決めた時より覚悟はしております。今宵はどうかお情けを下さいませ」
「……俺で良いの?」
「私の旦那様は旦那様お一人ですから。それに多くのモノを旦那様から頂いてばかりです。どうか……ルルを夜伽にお使い下さいませ」
彼女はそう言って体の向きを俺の正面に向けた。旅を共に始めた朝の日の様にルルの体は真っ白い肌をしている。月明かりが、金色に輝く髪をキラキラと照らしている。手足が長くモデルの様な姿。発育途中でも十分なボリュームのある胸が俺の視線を釘付けにした。何かが決壊した気がした。
「旦那様……どうか最初だけは優しくして下さいませ」
その言葉で、俺の眠れる獅子が目覚めたのは言うまでも無かった。