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002  村で世界の事を学ぼう

目的地まで、もう少し時間が掛かりそうです。


 この世界の事を知る為に俺は村長の家に居候する事にした。教師役と成ったのは村長の孫娘『ルル』だ。歳は15で年齢の割に大人びてると思ったら、この世界では15歳が成人らしい。他にも時間や月日。それと通貨や周辺の土地について学んだ。思った通りこの村はかなり偏狭な位置に在るらしい。


「一か月では、この辺たりしかお教えできませんでしたね。申し訳ありません」

「嫌々、コレでも十分だよ。最低町の方角とお金の価値が判れば、如何にか暮らしていけるさ」

「ですが、町には人を騙す者も多いと聞きます。少し不安ですね」


 一月にも及ぶ長い居候生活で最も苦労したのは文字の習得だった。なにせ、此処には本は三冊しか無い上に紙が存在し無いからだ。言語習得スキルでも手本が少ないと覚えるのも一苦労なのだ。結局俺は自分の名前とあいさつ位しか読み書きを学べなかった。それだけ文字や文法が難しいって事を改めて思い知らされた。


居候の間に不便だからと俺には『アラン』と言う名を付けて貰う。お返しにと俺は、狩りをして兎モドキの毛皮と肉を提供して来た。僅かばかりの金も溜まって来た頃、村を離れる考えを村長に伝えた。町で恥を掻かないだけの知識を得たからね。



「では、狼討伐の支払いをしたいと思います」

「嫌々今迄居候させて貰ったし、学ぶ事も出来たからこれ以上は良いですよ」

「是非、コレを連れて行って遣って下さい。来年には売りに出さなければ成りません。出来れば少しでも知っている方の下にコレも居れば安心できるでしょう」


 村長は孫娘のルルを俺に差し出すとか言って来た。村は近年不作が続いている。この夏の年貢にも人売りをしなければ成らないらしい。そして来年には、ルルが売られるだろうと……もっと早めに聞けば、狩りも気合を入れてたのに……。


「それでは残るモノと売られるモノとの間に蟠りが生まれるでしょう。アラン殿には荷物と成りましょうが、少しは身の回りのお手伝いが出来るでしょう。是非連れて行って遣って下さい」


 人身売買は俺の国でも少し前まで普通に在った。聞こえは悪いが扱い次第では、元の暮らしより少しは真面ともな暮らしが出来た者を居たと聞く。そしてこの世界では、高い確率で地獄の扱いを受けるらしい。村長とルルは、この一か月で俺の下なら少しは安心できると判断したのだろう。


「落ち着いたら手紙でも送らせます。ルルに負担が掛からない様、努力しますね」

「滅相も無い。送り出せば生まれなかったと思うのが常。どうか気になさらずに」


 こうして突然ルルを引き取る事に成った。正直、女性と二人旅は戸惑う。と同時に、世間に不慣れな身としては安心できるのも事実だ。俺達は主従関係として旅を共にする運びと成った。


村を出発する朝。昨夜からルルの姿を俺は見ていない。最後の別れを悲しんでいるのだろう。野暮な事をせず、そっとしていた俺は出発間近に旅支度を終えたルルを見て驚いた。


「えっと……何方ですか?」

「揶揄わないで下さい。ルルです。これからアラン様の事は『旦那様』とお呼びしますね。不束者ですが、旅のお供を務めさせて頂きます」


 普段は土埃で髪がくすんで化粧ッ気も無い垢抜けしてない村娘。ただ、歳の割に身体のラインは、メリハリが在ると思ってたけど……。

どうやら、姿を見せないと思って居たら、汚れた身体を磨いてたらしい。生まれ変わったルルの姿を見て俺は驚くしか無かった。

普段結んでいた髪は、腰まで届く長く綺麗な金髪。肌はシミ一つ無い白い肌だ。


「あっ!うん。正直驚いた」

「自慢の孫です。どうか末永く御傍に置いてやって下さい」


 確かにこの姿なら、何処かの屋敷で籠の中の鳥として飼われる恐れがある。俺の下でなら、少しは自由も在るだろう。最低でも旅をして、己で見聞きしながら知識を得る事も出来るだろう。例え、旅の途中で危険に出会ったとしても、それが良いとルルと村長は判断したんだと思う。


「では、行ってきます」



 二人揃って村を離れた。村が小さく見える頃、俺はルルに寄り道をすると言って、雑木林の中へ入って良く。


『ピューィ』


と口笛を吹けば、小さな犬ッコロが草木を掻き分け俺の足元に走って来た。


「コイツも旅のお供なんだ。宜しくな」

「毎日村を出てたのは、この仔の所為だったんですね」

「なんだ、気づいてたのか」

「何処で拾ったんです?って言うか、この仔!犬の仔では有りませんね!?」

「あぁ。俺が殲滅した灰色狼の仔だ。親兄弟を皆殺しをした後に気付いたんだ」

「そうでしたか……」

「偽善だが、一人前に成るまで俺が面倒を見ると決めた」

「フフッ。旦那様らしいです。お前!可愛い顔してマチュネ~。名は何と付けたんです?」

「あぁ~否、俺は敵だしな……名前なんて考えもしなかったな」

「では、私に名付けさせて下さい。名無しでは此の先可哀そうですから」


 有無も言わさずルルは嬉しそうに仔狼の名を考えて居る。どんなに体裁付けてもルルは俺に買われた身だ。狼の仔をペットとは思って無いが、彼女の気が少しでも晴れるなら、仔狼も俺よりルルの方が良いだろう。互いに寄り添ってくれると、俺としては、有難いと思った。


いきなり訳も分からないまま異世界に投げ出された自分を俺は憐れんだ。でも俺以上に辛い人生を歩む者が目の前に二人も居る。元の世界に帰りたいと今も強く思って居るケド、出来る限り俺に携わった一人と一匹を守ってやりたいと俺は考えた。



『ワンワン』

「ランドアロー」

「凄い!凄い!旦那様お強いです!それにニケも良く気づきたわね。偉いわよ」


 狼の仔は、ルルによって『ニケ』と名付けられた。二人と一匹の旅は町を目指し野宿を繰り返しながら進んでいく。途中出会った兎狩りに、ニケの鼻はよく利く。俺に知らせ、上手に狩って行く俺達の連携は中々のモノだ。ルルも調理が上手い。味も美味く、手つきも良い。こうして俺達は快調な旅を続けている。


「見えました!アレが村から一番近い町『バシモス』です。村に時々来ていた行商人の『ジット』さんも、あの町で暮らしてるんですよ。


 ジット。俺も何度か村で有った事が在る。兎の毛皮を売った事が在る男だ。ただ気に成る事が……ルルを見る奴の目に、俺は少し気掛かりだった記憶が在るのだ。


 町へは問題なく入れた。ルルの顔見知りが門番をしていたからだ。俺は正式な魔術師ハンターでは無い。問題は無いが組合ギルドで登録すれば、正式な会員と成って仕事が得られるらしいのだ。ソレと大事な事が在る。登録すれば、神のご加護を受けれるらしい。正直俺にはピンと来ない。神の加護?其れを確かめる為にも登録とやらを受けに来たのだ。


「今日は町で一泊するぞ」

「判りました。先ずは、宿から押さえましょう。それからギルドで旦那様の登録を済ませてからジットさんの店に伺いましょうか」


 記憶を失って居る設定の俺の代わりに段取りを進めるルル。健気で可愛いね。五日程野宿を繰り返して来たからルルの髪の煤けて来たし、此処はもう一度汚れを洗い落として綺麗なルルに戻ろう。それと俺達の装備も揃えるか。


学生服の俺と村人の服のルルでは、何処から見ても旅人には見えないからね。今迄盗賊に出会わなかった事を幸運に思いたいよ。

宿はルルが手配し部屋は取れた。俺は部屋も見ず彼女に従う。そのままギルドで手続きを取ろう毛皮を売って装備を揃えたい。今日はする事が多すぎるのだ。


「ほぉ~登録前に魔法を習得したとは稀な逸材だな」

「使えるのは土属性だけどな」

「土属性か単独での戦いは不向きだが、補助としてはソレなりに役立つぞ」

「……」

「そっちの小さいのは灰色狼の仔か?幼い頃から飼うとは中々運が良いな。普通、従魔は専用のスキルが必要なんだ。幼い頃から飼い続けるのも隠れた従魔の方法だって知ってたのか?」

「否、偶然だ。コイツの親兄弟を全滅した後で見つけたんだ」

「魔法に従魔。それと綺麗な同行者……お前さん結構幸運な星の下に生まれたな」


 フッ。幸運ねぇ……コイツ俺が異世界人だって教えたら何て言うんだろうな。


「これで、手続きは完了だ。既に魔法を得たお前さんに神様のご加護が在るとは思えんが、拗ねるなよ。十分お前さんは恵まれてるんだからな」

「そうだな。判ってるよ」

「其れと簡単にハンターの事を教える。ハンターとはエネミー(魔物)狩りで生計を立てる仕事だ。依頼を受けても良い。勝手にフィールドで狩りをしても良い。その渡したカードに倒したエネミーの種類と数が記憶される。定期的にギルドへ提示すれば、評価を受けランクが上がる」

「ランクを上げる利点は?」

「ドロップ品の買い取り額が上がる。早くランクアップを望むなら依頼を受けろ」

「じゃ~取敢えず、兎の毛皮でも売るよ」


 そう言って俺は持って居た角兎の毛皮を売った。村でジットに売るより三倍の値が付き少し驚いた。まぁ~危険を押して行商に来るんだ手数料と考えれば妥当な金額だろう。

予想以上のお金を貰い。俺はランクが一つ上がった。手にする前にカードは没収され、新たなカードを手渡される俺。そのカードに触れた途端、頭痛に襲われ片膝を着いてしまう。


「旦那様!」

「おいおい!大丈夫か!?」

「……大丈夫……だ。少し椅子に座れば……収まる」

「無理するなよ。そこに座ってろ。お嬢さん!チビ助に代わりにコレを首に掛けてくれ」


 気分が悪く成った俺に変わってルルがニケの首に首輪を掛けてやる。エネミーを従魔として認められる印となる首輪だ。

俺を気遣いながらもルルはニケに首輪を掛けてやった。嫌がるニケに軽く説教をしながらルルはどうにか首輪を装着した。

俺はと言うと、ギルドの端で椅子に座って自分に起こった事を確認していた。

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