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015 迷宮


 一度引き払った宿に戻って来た。家の改装も二カ月余りで完成しそうだ。オッサンの口利きも在って、如何にか出費は抑えられそうで一安心だよ。

それより、オッサンの孫娘と会う前にルルの誤解を解いておこう。


「所でルル。村で村長との会話覚えてるか?」

「はい。私が旦那様と奴隷契約を結んだ日の事ですね」

「それだよ!確かに村長は俺に君を奴隷として預けた。其れは間違いない」

「そうですよ」

「だけど、思い返してくれ。俺達は一度も奴隷商の所へ寄って無いんだ」

「言われてみれば……旦那様。急いで奴隷商の所へ向かいましょう」

「おいおい!今更何を言ってるんだ?行く必要なんてないだろ」

「ですが、もしやグレイドさんの御孫さんのお話が出たので、ここで私と別れるお話ですか?」

「そうじゃないだろ!元々俺はルルを奴隷だなんて思って無いしこれからも無い。だけど一緒に居たい女性だと思ってる。其れは此の先も変わらないよ」

「旦那様……」

「そう!そこさ。君は奴隷じゃない。そろそろその呼び方を変えないか?」


 ルルと主従関係は結んでいない。コレを納得させるのに時間が掛かった。今度は棄てられると勘違いする彼女を宥めるのに更に時間が掛かった。そしてこの先も、ずっと一緒に居たいと口説いたら、あっさり認められちゃったよ。


 ルルが落ち着いた所で話を変えた。俺達がこの町グレイソンに辿り着いて数日が過ぎている。しかし、いまだ俺達は迷宮の足元にも近寄って居ない。そこで彼女に提案する。


「少し位迷宮を覗かないか?」


 こうしてやっと俺達は迷宮へ入る事に成る。


「見慣れない顔だな」

「今日が初めてですからね。これからチョクチョク来ますんでヨロシク」


 塔の入口近くに立っている男は、ギルド職員で入場者管理をする『ニトン』だ。俺らのカードを確認すると『噂のルーキー』かと驚かれた。


「若い二人組とは聞いて居たが、此処まで若いとは正直驚いたぜ」

「そりゃどうも。で、入って良いですかね?」

「これが『生還の腕輪』だ。金貨一枚と交換な」


 挨拶程度に様子見したら帰って来ると伝えれば、『それだと足が出るぞ』と注意を受けるが、深入りする気は元々ない。『勉強代さ』と言い、俺達は迷宮へ足を踏み入れた。


「これが、建物の中とは驚きですね」

「あぁ~外見と違って中は広いな」


 初めて見た迷宮は外見が塔と言うだけあって狭い空間を思い浮かべていたが、入ってみれば、鍾乳洞か洞窟って感じだ。


「……想像以上に厄介かもしれないぞ」

「はい。気を付けます」


 警戒しながら進めば、時折角兎が姿を現す。


「はっ!」


 ルルの一刺しであっさりと倒された角兎は煙に包まれると姿を消し代わりに小さな無色の石が転がって居た。


「コレが『魔石』ですか」

「そうみたいだな。イチイチ拾い集めるのは面倒な作業だな。其れにスキが生まれそうか」


 一つ一つ作業を確かめ互いにフィールドとの違いを話合って先へ進む。


「次は魔法を其々試したい」

「判りました」


 場所や状況によって同じ魔法でも威力が違うからだ。周りが木々に囲まれてるからと言って火の魔法が全く使えないと言う事も無い。しかし、湧いて現れるのは角兎と大鼠ばかりで正直、試す程の力を振るって居ないのだ。


「これじゃ逆に感が鈍ってしまうな」

「……旦那様近くで戦闘の音が聞こえます」


 俺がボヤクと同時にルルが注意を喚起した。耳を傾ければ確かに近くで戦う音が聞こえる。


「音の数が変ですね。私達の様に少数の人達でしょうか」


 金属が触れる音は独特だ。まして此処には角兎と大鼠しか居ないのであれば、金属を振るうのは人と言う事だ。その音が単体でしか聞こえない。つまり戦ってる人物はソロなのだろう。


「その割には段々と獣の数が増えてないか?」

「確かに匂いが濃く成って行く気がします」

「誤って巣に突っ込んだのか?」


 迷宮に巣が有るかは不明だが、気配を探れば徐々にエネミーの数が増えてる感じが伝わって来る。

新人が血気盛んに突っ込んだ!?知り合いでも無いので特に構わないのだけれども、最初の迷宮入りで死に目に会うのは縁起が悪いと俺は様子を伺う為に戦闘が行われている場所に近付く事にする。


「な、なんで?さっきから……増えて来るんだ!……やぁー!」

『キュゥゥゥ……』

「これでは、キリが無いでは無いですか!」


 戦っているのは一人の女性だった。細い剣を二本構え、身には高そうな金属鎧を身に纏って居る。フルプレートでは無くハーフプレート。重さを抑える為に胴体部と腕。それに腰回りにだけ金属を用いた鎧である。

女性は器用に細い剣『レイピア』を振り回し、斬ると言うより斬り刺す形で次々とエネミーを倒していった。


「レイピアで斬るって、相当な技量が無いと折れると聞いたけど……巧いな」

「旦那様!感心してないで、助けないんですか?」

「あぁ~嫌待て!俺達が今加わっても敵の数は減らんだろう。それより増え続ける訳を探すんだ」

「確かに!判りました。ですが……旦那様だけでも加勢して下さい。原因は私が探ります」


 健闘している女性冒険者が一瞬フラついたのを見て、作戦変更を余儀なくされた。ルルに従い俺が加勢し、ルルが原因を探る事にする。


「勝手だが助太刀に入る!」

「な!否、助かります」

「気にするな。それとエネミーが増え続けるには訳が在る筈だ。仲間が探っているが何か知ってるか?」


 俺の出現に一瞬驚くも加勢に感謝し力が甦る女冒険者。増える理由が何処かに在ると言われ、彼女は戦闘が始まる前の事を思い返し始めた。


「此処より先に湧水が沸く場所が!そこに小さな祠が有った気がします。」

「ルル!此の先に小さな祠が有るそうだ。確かめてくれ!」

「判りました」


 俺の声を聴きルルが駆け出す。その間、女冒険者と暫し共闘する事に成った。


『ハッ!』『ヤッー』『フン!』


「見事な腕前ですね」

「レイピアで斬り刺すアンタの腕も中々だな」

「コレでも里では右に出る者は居ませんでした」

「それで、のぼせてソロに成ったのか?」

「な、何を言います。私は決して自分の腕に溺れたりはしません」


 背中を預けた俺の悪戯に女冒険者が突然剣を下し、抗議しようと俺の方を振り返ってしまった。


「おいおい!冗談だ。其れより戦ってくれ。出ないとお前さんが危険だぞ」

「あっ!ス、スママセン……ですが、貴方が変な事を言うからです!私は一度たりとも、腕に溺れ天狗に成った事など。ただ、周囲の者達が余りにも鈍な腕ばかりで……知り合いに呼ばれ、今朝コッチに来たばかりです」


 言い訳がましく言う女冒険者。確かに彼女の腕を見て居れば、ソレなりの腕前だと感じる。オマケに装備品を見れば、ソコソコ裕福な家の者なんだろう。となれば、確かに女冒険者の周囲に腕自慢を誇る仲間が少ないのも何と無く理解出来た。


「どうやら、増殖が止まった様だ。後は此処等に居るだけ。一気に片を付けよう」

「判りました。迷宮を出たら一杯奢らせて下さい。冒険者は。こうして礼をするモノですよね!?」

「仲間が一人居るから忘れるなよ」

「御二人でも三人でも構いません」


 二本のレイピアを持つ女冒険者は、両手を振り回し、踊る様に次々と角兎と大鼠を切り裂いていく。俺は邪魔に成らない様に彼女から少しずつ離れ、戻って来たルルと共に彼女の動きを眺めていた。


「綺麗ですね。まるで踊ってるようです」

「確かに、ありゃ~剣舞だな」


 最後の一匹を倒して女冒険者はガクッとその場に座り込んだ。


「流石に疲れました……助力に感謝します」

「気にするな。一杯の酒で流してやるさ」

「フフフッ。冒険者は気持ちの良いものですね」


 ルルが調べた祠は石を積み重ねた作り出ったらしい。其れが故意に崩されていたのだ。祠は増殖を抑えるスイッチであり、崩される事で仕掛けが動いたのかもしれないとルルが説明すれば、女冒険者の視線が泳いでいる。大方、水を飲んだか汗を流した序でに祠に触れたに違いない。

俺達は落ちている魔石を拾い集め迷宮を出る事にした。


「この魔石で飲めるだけ飲みましょう!貴方方冒険者のお薦めの店に連れて行って下さい!」


 いや、お前さんも冒険者だろ!?俺達も町に来たばかりで良くは知らないんだが……まぁ~行けば何とかなるか。



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