013 グレイド邸
如何にか装備品も買い揃える事が出来て迷宮攻略の準備は整えられた。後は様子を見ながら迷宮へ潜ってイケそうだ。一通りの買い物を済ませ宿へ帰るとバランさんが俺達を待っていた。
「お待たせしたようでスミマセン。どうかしましたか?」
「おかえりなさい。グレイド様から事付けを預かって居ります」
「お手数掛けました。それで、オッサンは何て?」
「明日の夕食に招待したいとの事です」
オッサンはルルとの会食を忘れては無かった。ワザワザ前日に連絡を入れやがって、これじゃ逃げられないじゃないか!まぁ~バランさんを紹介して貰ったからな。今回はグッと堪えて受けてやろう。
了承したとバランさんに返事をした後、宿には明日引き払うと伝えた。家の改装にどれだけ日数が掛かるか判らないが、こんな高級宿屋に何日も泊まるには後々厳しい結果に落ちかねないからね。
高級宿屋はサービスと設備がモノを言う。だが、若い俺達にとって代えがたい素晴らしい事は……音が漏れない事だ。今夜が高級宿屋に泊まる最後のやると言う事で、俺頑張っちゃったよ。てへ。
今朝はグッスリ遅い朝を迎える事になった。忘れてたけど、高級宿屋はどんなに遅くても陽が真上に登る前なら朝食を用意してくれるんだ。
「アラン殿。ルル殿。お迎えに参りました」
遅い朝食を済ませ、ゆっくりとしていれば、グレイドのオッサン家から迎えがご到着と成りました。
豪華な馬車に揺られながら俺達は町の南西の方向へ進む。
「この辺は閑静な所ですね」
「おまけにデカイ屋敷ばかりだな」
町の中心から一歩入り込めば、他の地区と違って敷地がデカイ屋敷が並ぶ。其れも奥へ進む程にだ。オッサンの迎えに寄こした馬車は止まる気配を見せず軽快に走り続ける。
時間にして三十分?クネクネと曲道を走りやっと馬車は在る屋敷の前で止まった。
「お城?でしょうか。白くて綺麗ですね」
「こりゃ一段とデカい屋敷だな」
薄々感じてはいたけど、此処までデカい屋敷だとオッサンは俺が思っていた以上の貴族って事なんだろうな。さてさて、どうしたもんやらだ。
「ワザワザ早くからスマンな」
「グレイドさ、様。こんにちは、デゴザイマス」
「おやおや、ルル殿はワシをもうグレイドさんとは呼んでくれんのか?」
「で、でも……」
困った顔で俺に助け船を求めルル。可愛いルルの為に一肌脱ぎますか。
「デカイ屋敷だろうが、オッサンが名を明かさない限り俺達にはオッサンのままだ。本人もそれを望んでるらしい。ルル今迄通りに呼んでやれ」
「……ハイ。旦那様。グレイドさん今日はお招きありがとうございます」
「ふむ。二人ともよく来た。まぁ~達話もなんだ!ささっ中へ入ると良い」
オッサンもルルの態度が戻った事で喜んでる様子だ。周囲の執事さんやメイドさん達が驚いてたし、見覚えの在る鎧姿をした騎士は険しい顔をして睨んで来たよ。
仕方が無ぇじゃん。オッサンの希望なんだからさ。気付かないフリして、そそくさとオッサンの後についてヤシの中へ消える事にしよう。
外面ばかりで無く内装の装飾も凄かった。コレが貴族様の御屋敷なんだと思い知らされたって感じだったね。高級宿屋が普通に見える所が凄いや。
シャンデリアにフカフカの絨緞。ピカピカに磨かれた甲冑が何体も飾られている。
天井も高く、良く見れば一面大理石じゃね~のこの屋敷!スゲェ~金掛かってる。
「夢の様な御屋敷ですね」
「ワシが建てた訳じゃないからな。気にもした事がない」
「ご先祖様は大事にしなきゃな」
「フン。相変わらず減らず口を。しかし、目利きも思った以上じゃな」
「ルル程じゃないさ」
廊下を歩いてる間もオッサンとは、ジャブの応酬を重ねた。予定は夜の会食のハズだけど、こんな早くから呼び出して何の目的だろう。
アレコレと見渡しながら、考え込んで居れば大きな部屋へと通された。所謂応接間って奴ですね。小さいケド俺ん家にもカッコイイ奴改装中なんだぜ。比べモンに成らないけどね。
「外国から届いたばかりだ。口に合うと良いのだが」
そう言って、勧めて来たのは『白い飲み物』と『黒い豆粒程の食べ物』だ。
「温かくて甘いですね。コッチは更に甘くて濃厚って言うかホッコリします」
「ホットミルクとチョコレートか砂糖が在るんだな」
「……」
ルルの感想に顔が綻び、俺の台詞に目を細める。一瞬シマッタと思ったがもう遅い。しっかりオッサンに聴かれちまったよ。
「記憶を失って居ったと聞いて居ったが、知って居ったか。ワシらが知る名前とは少々違うようだが、お主の知識と同じじゃろうの」
「昨日・一昨日とギルドへ行ったり教会を覗いたりしたお蔭で、少し記憶が戻った。アヤフヤな事も多いが生活するうえで不便は無いからな。その内もっと思い出せるかもしれない」
記憶が少し戻った事。加護のお蔭だと言えば、無理やりでも辻褄は合うだろう。
「其れは良かったの。で、色々聞いたが家を購入したらしいな」
「この町に腰を据え迷宮を攻略する事にしたからね」
わざと話を変えた?何を考えてるかは相変わらず解かんねぇ~ケド、此処は話を合わす他無い様だね。
「迷宮攻略を怠れば、エネミーが漏れ出すと言われて居る。実際三十年前に小さな迷宮に気付かず往生した国も在ったのだ。お主が冒険者に成ったのは有難い話だ」
「俺達如きが加わっただけで、どうにかなるとは思わないケド、十分暮らせる程度には潜るツモリだよ」
「相変わらず謙遜する男じゃ。まぁ~よかろう」
「で、メインは夕食って事だったけど、こんな早くに呼び出した理由は何だ?」
「そう急かすな。ゆっくりと時間を過ごすのも大人の嗜みじゃぞ」
のらりくらりと答えを見せないオッサン。場数が違う分コッチが幾ら足掻いても勝てそうも無い。暫くオッサンに付き合う他無さそうだね。
自慢話を聞かされながら、オッサンのコレクションにルルは時折喜んでいる。俺もチョッとだけ驚いたり感動したりしてたけど、顔に出すのは癪な気がして堪えるのに必死だったよ。
「こ、これは!」
「何じゃ知っているのか!?遠い東の国で使われる剣。カタナと言うのじゃぞ」
「旦那様が御作りしたい剣はこれですか。綺麗ですね。コレで武器ですか」
「ルル殿。カタナは斬るに関しては剣より数段上の武器じゃ。但し、腕も必要とされるがの。鈍な腕では、枯れ木も切れぬと言われて居るのじゃ」
「……」
「持ってみるか?」
「良いのか?」
所説色々在るが刀は判り易く言えば、長さで用途と名前が違う。短刀・脇差・太刀・大太刀。特に太刀の部類には、天下五剣と呼ばれる名刀が存在している。
オッサンの刀は刀身が三尺以下の太刀に当たる刀だ。
周囲を確かめて、足場を広くとる。息を止め、ゆっくりと鞘から抜けば、綺麗な波紋が浮かび上がる。当然俺は元の世界で刀処か木刀さえ触れた事が無いが、『異界の剣士』スキルが、鈍な腕が駆け出し剣士位には押し上げてくれた。
腰の帯剣ベルトに鞘を掛け、両手で正眼の構えをする。いつの間にか視界に古びた鎧が丁度良い高さで置かれて居る事に気付く。オッサンの顔を見れば、俺に何かを求める顔つきだった。一歩摺り足で間合いに入り『ハッ!』と息を吐きながら、袈裟切りを行った。
ズ、ズズズっと綺麗な断面をみせ鎧が斜めに切られ落ちて行く。
「お見事!」
オッサンは万遍な笑顔で見つめ、ルルは驚いた表情を浮かべている。俺は、借りものだった事を思い出し、バツの悪い顔をするしか無かったな。




