第六話【知らない事もある?】
―神奈side―
―――ふぅ…
屋上へ上がれば生意気な三年共。
ま、三年の不良だからと言って手加減なんて無いけど………(相手の年齢なんて関係無し)。
「………では…重大な事を話す。今朝、お父様から通知がありました。これからの私たちの行動について」
いつもこんな重大な事を話す時はこんな口調になってしまう。
まぁ………そういう風に仕付けられたんだけどね。
ぇっと………確か…
「………行動は……奴等がこちらに奇襲を仕掛けて来た場合………殺さないまでにやる。
そして――――」
―――これが……最も一番凄い内容……
「…仲間の一人が傷、若しくは致命傷を負ってしまった場合………奴等の命の有無は厭わない。しかし………もしそうなれば………死体は本部に持ち帰る事…」
………随分と凄い内容。
こんな事を言われるのは初めてだった。
………それ程、奴等は危険視されてるんだろうけど。
重い空気が屋上全体に広がる。
凌駕も、龍也も同じ事を思っているに違いない。
「………と言う事…。
結構…難易度は高いみたい」
「そうだな……随分と……」
「……ヤバイらしいね」
「「「………はぁ…」」」
三人の溜息が静かなその場所に漏れ………
「………まぁ、次…奴等が行動を起こすのは………宿泊学習とかだろうから………固まって動く事」
そうじゃないと…何が起きるかなんて………判り切った事だし…
あ、でも待て。
―――
そういう事は………?
部
屋
同
室
?
………ははは。
ちょっと困るなぁ…。
そりゃ別に『そういう事』とかの心配は無いよ?(そりゃ少しはあるけどさ)
私が心配なのは………着替えとか………風呂とか………
………
うん。守護者への心配とかじゃなく別の奴等に対しての心配ね。
奴等………人が着替えてる間とか風呂の間とかに………
奴等の方ね。龍也、凌駕とかの奴等じゃなく………変態の方。
「………龍也、凌駕…頼んだよ。うん。………奴等、ヤバイから。しかも前回の言い残したあの………………発言」
「「勿論」」
二人は声を揃えて誓いを立てた。
…………
はぁ………
大変…………
――――う゛
奴等め………
……はぁーぁ…
なんか疲れるなぁ〜
なんかさぁ〜…私って普通の女の子なのかなぁと思うんだよねぇ………(勿論、普通じゃないのは重々承知)
………普通、か…
普通って何だろう?
……その前に女の子って何だろう?
まず大前提として………私みたいな事はやらない事…。
それにオシャレとかするとか?
わからないんだよね…………
ま、この仕事をやる事は私の………月遶家跡取りの義務だから。
それに………これが私なんだから。
この仕事があるから『私』が存在する意味を持てるのだから。
だから私は今のままで良い。
……嘘。
実際は嫌。
守護者は私を守る存在。
そう決まってるけどさ………
その役柄のせいで沢山の人が傷付いていく………
主の身替わりとして。
私はそれが嫌。
龍也と凌駕が近くに………
傍に居てくれるのは………
嬉しい、けど………
私の身替わりで傷付くなんて………
そんなの私は嫌。
それに主が守護者を守るのか゛
一番の形だと思う。
………。
龍也と凌駕は知ってるのかな?
――――私の本音を。
―――龍也side―
さっきから浮かない顔をしている神奈。
溜息をついては………また空を仰ぐ。
ずっとそれの繰り返し。
………正直、話し掛ける空気では無いのはわかったけど。
でも話し掛けるしか無い状態になった。
「神奈、もう時間」
「………ぇ?」
こちらを振り向いた神奈の肌が橙色になる。
時刻は既に夕方を過ぎた頃。
グランドからは放課後の部活に精を出している野球部の声。
「……ぁ…ゴメン………
意識飛んじゃってた…」
そう言って申し訳ない様に頭を下げる。
「ん。大丈夫………じゃ、帰る?」
「……ぅ…ん………」
――――――――――
―――
「………そういえば、神奈〜…
俺等はどうすれば良いんだ?」
帰り道。
凌駕は歩く足を止めて真剣な表情で神奈を見た。
「………何が?」
神奈も足を止め凌駕の方を向く。
でも聞かれている内容が理解出来ないらしく首を傾げる。
「部屋とか………さ。
離れるのは危険だけど、宿泊のヤツって先生とかが決めるじゃん?だから部屋は確実に離れる……だろ?それって結構危なくねぇの?」
…………ぁ…
「それなら、私………宿泊の実行委員長だから………どうにかするから大丈夫だよ。奴等の動きも判りやすいような部屋配置にするし」
「………ぁ〜、その手があったか!!」
―――どこでもとにかく委員長なんだな………神奈は……
でも………
「奴等がきちんと『学生』として動くの?」
「………大丈夫だよ。
奴等には………沢山のストーカーがついてるから。
宿泊と言う大チャンス?
をそこら辺の女子が黙ってると思う?
………確実に奴等にたかる」
「………そういう事か…。
何か変な動きをすれば直ぐ近くに居た女子がそれを目撃して………そうなるから奴等は当分…
動けない………」
「…ま、奴等が何をするかなんて判んないから………
生徒の安全保証はしないけど」
そう言った神奈の表情は黒い笑顔になっていた。(笑顔ってオイ!)
安全保証無いって………
大丈夫なのか……?…
「どうせ、これ………親父の罠だろうし」
………親父?
「………検定って所か?
跡取り試験って事だろ?」
………ま、待て!
口調が変わって…………
隣を見ると俺と同じく
神奈の変貌ぶりに口をあんぐりと開けて神奈を見る凌駕。
その視線に気付いた神奈。
「………何?どうしたの?」
するといつもの神奈に戻った。
――――今さっきのは幻覚と幻聴か?
男二人は同じ事を心の奥底で呟いた。
―――『一体何なんだよ?』
まだまだ知らない事があるらしい