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「遠野係長、おはようございます」
遠野係長は頷きながら今度は郡司さんに笑顔を向け、からかうように言った。
「いくら可愛いからってあんまりいじめてると嫌われるぞ、な? アヤカちゃん」
いや、そのセリフの流れで振られても。
私は今、恐ろしくて後ろを振り向けません。
「遠野係長、業務の新人の仕付けですから」
案の定、郡司さんはほっとけと言わんばかりに即答。歯ぎしりまで聞こえてきそうだ。
気のせいであってほしい。
その時、非常に良いタイミングで遠くから私の名を呼ぶ声が。
「アヤカちゃん、シュレッダーお願い」
広い事務所の隅にあるシュレッダーの前から、万優さんがこちらに手を振っている。
天の助けの如く私は2人の間から解放され、万優さんの元へ走った。
「アヤカちゃん、また郡司くんに怒られてたね」
「あ、はいまた失敗しちゃって……」
「よっぽど気に入ってるのよ」
え?
含み笑いだけを残し、後は宜しくと立ち去る先輩を見送る。
郡司さんに目を向けると、すでに別の営業マンと軽くバトルを繰り広げていた。
(いやいや、ないですから)
1人、心で反論しながら山と詰まれた紙の山と向き合う。
ガガガガ
ガガガガ
ガ
あっという間にオーバーフローの表示。
まん丸に膨れ上がったごみ袋を持ち上げ、外のゴミ捨て場へと向かう。
ヨタヨタと廊下を下り、外への階段に差し掛かった時だった。
急に脇から伸びてきた手が、重たいシュレッダーの袋をら軽々と持ち上げた。
はっとして見上げると。
「ぐ、郡司さん」
ギョッとする私を見るわけでもなく、ふんと鼻をならし一言。
「階段でこけて、労災と騒がれたら面倒だ」
「え、あ、でも」
「そんなことより今朝の仕事内容に目を通してこい」
舌打ちと同時に一喝された。
すたすた歩いていく郡司さんの後ろ姿を、ポカンと見送る。
(重いって気付いてくれたのかな)
席に戻ろうとしたその時、またも呼び止められる声が。
こ、この声は。