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「営業達の顔と名前、もう覚えた?」
「は、はい……大体は」
「人数多いから、覚えるだけでも大変よね」
万優さんは笑いながら、皆口上手いから気をつけてねと付け加えた。
営業さん達の顔を頭に浮かべてみる。
確かに皆優しくていい人ばかり。
「この人いいなって思った人いる?」
「えっ? そ、そうですね、えっと……」
ぱっと思い浮かぶ人は、1人。
「所長……かなぁ」
「所長? あは、色々飛び越えるるね!」
先輩としては予想外の回答だったらしく、思い切り驚かれ、笑われた。
(え、どうしよう、何か可笑しかったかな?)
声をあげて笑う彼女の反応にドキドキしながら、慌てて言葉を付け足す。
「いや、あの、何て言うか……所長って、優しいですよね」
なんだか、顔が熱くなってきた。
朝から何の話をしているんだか。
「所長がうちに就任した直後にアヤカちゃんが入社したんだよね」
「あ、はい」
春日所長は若くしてこの春に所長として就任したという。
入社初日。
ガチガチに緊張していた私をみかねて、所長が声をかけてくれたんだ。
『俺もここに来たばかりだから、毎日緊張してる』
所長のくせにな、といって笑った顔が優しくて、私はドキドキして。
ほんの少し、緊張が解れた事を思い出す。
「所長、カッコイイよね~。前の営業所でも大人気だったみたい」
前営業所の女の子に聞いたんだけどね、と先輩。
万優さんは社歴10年で他の営業所にも顔が広い。社内情報は社報より早いという噂。
(万優さん、優しいけど敵にまわしたら怖いかも……)
「まだ独身なのよね」
あ、所長って独身なんだ。
「でも子供がいるみたいなのよね」
しかもバツでもないみたいだし、と言葉を続ける。
未婚で、子持ち?