春日家の朝
紙の正体に気づいた後、どんどん顔が熱くなっていくのがわかった。
な、何でこれを孝ちゃんが持ってるんだ?
昨日帰ってすぐゴミ箱に捨てたはずなのに。
固まって口のきけなくなった俺の手から孝一郎はその紙を抜き取り、ヒラリと上空を扇いだ。
その様子を上目遣いで睨んでみたけど、孝一郎の瞳を見た瞬間目が泳いでしまい、慌てて牛乳の入ったグラスに視線をおとしてごまかす。
「それ、ゴミ箱から漁ったの」
精一杯の非難の声をあげると、孝一郎は呆れたように息を吐き、その紙で俺の額をピシャリと叩いた。
「バカ者、んなことするか。ゴミ箱の近くに丸まって落ちていたから拾ったんだ。お前は相変わらず球技が下手だな。今度バスケのシュート練習でも指導してやるか」
う。
今そこを指摘するのかよ。
「バスケよかサッカーがいいよ」
悔し紛れに呟いてみたけど孝一郎はあっさり無視、そして俺の目の前に紙を大きく広げてみせた。
「『7月5日、授業参観日のお知らせ』。何で俺に報告しないんだ? しかも、もうすぐじゃないか」
次の瞬間、孝一郎は両手をグーにして俺の頭を挟み込み、グリグリ。
孝一郎得意の、梅干しの刑だ。
「いで、痛ぇって!」
これほんとに痛いんだよ!
孝一郎、グーでかいし!
必死で逃れようと暴れてみても、その大きな手から逃れるのは容易な事じゃない。
じたばたしていると、頭上でポツリとつぶやくような声が聞こえた。
「淋しいだろ、黙ってごみ箱に捨てられるなんて」
な、なんだよ。
だって……。
「だ、だって孝ちゃんここんとこずっと、すっげ忙しそうじゃんか!」
想像以上に大きな声をだしてしまい、我ながらはっとした。
そして孝一郎の手が止まった事に気づく。
それでも俺は言葉を続けた。