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3.標準化:M2重機関銃

 この重機関銃をテーマに取り上げた最大の根拠はジョン・ブローニングによって試作品が1918年に開発されて約百年、未だに世界各国の多くの軍隊で重機関銃として使用されている近代兵器の中での驚異的な寿命と標準化におけるアメリカ軍規格(MIL Spec.)の当時として先進的な思想に対するに敬意を払ったからである。

 余り機関銃に興味が無い方でも、アメリカ軍戦車上部の搭載機銃や第二次大戦型の飛行機の搭載機関銃として、映画やTVでM2重機関銃をご覧になったケースがあるかも知れない。


 時代が遡るほど兵器としての寿命は一般的に長く、世界の各地の古代文明の中で発達した兵器、例えば弓矢、刀剣、槍等は時代と共に改良されつつも、ほぼ同じ形状で数百年間、あるいはそれ以上、武器としての寿命を保つ場合も珍しくは無い。

 しかし、戦闘機や戦車に代表される近代兵器の寿命は極めて短い。戦後約70年、戦闘機では第5世代が、戦車では第4世代の供給が既に始まっている。

そのような、世代交代の激しい近代兵器の中でも、この『M2重機関銃』は第一次世界大戦中に開発が開始されて以来、最長の使用期間を誇る現役の兵器の一つである。


 開発当初、この口径になったのは第一次世界大戦時の大口径の対戦車銃開発に関係があった。第一次世界大戦に遅れて参戦したアメリカ陸軍は、戦車はもちろん、対戦車銃、当時は対戦車砲では無く銃だったが、(笑い)その準備も無かった為、先輩であるフランス陸軍に開発を依頼している。

 当時、フランス軍は大口径11mm弾使用の方向で対戦車銃を開発中だったが威力が今一つの為、それよりも口径の大きい13mm弾使用の銃も検討し始めていた。

 その情勢に米国陸軍も安定性が高く破壊力のある50口径ブローニング弾(12.7mm)使用の銃器開発に着手したのであった。


 そして、1918年に銃器設計者として有名なジョン・ブローニングによって『M2重機関銃』の原型である試作品が完成された。しかし、このブローニングの機関銃は基本設計が優秀だったものの、欠点が多く使い物にはならない不良品だった。改善を進めて、漸く実用に近づいたのが、改良型1921である。

 それでも、実用上の欠陥が残っていたこの機関銃の問題点を丹念に改修して徐々に完成度を高めていったのが工学博士のスミス・グリーン大佐であった。大佐の努力の結果1933年に制式に『M2重機関銃』としてアメリカ軍に採用された。


 さて、ここからが極めてアメリカ的な経過を辿っていく。制式に国防総省のリストに載った同銃はアメリカ軍の規格品として標準化された。軍標準規格品となった同銃をアメリカ国防省は陸、海、空軍を通して広く使用する方向で検討し、実用化に努力している。

 一言で言うと、第二次世界大戦をアメリカ軍は陸戦も海、空の戦いも全て、この口径に関して、『M2重機関銃一種類で戦い通した』のである。

 当然なことながら、陸上の戦闘でも、歩兵戦と戦車戦では条件が事なる場合が多いし、まして、飛行機に搭載しての航空戦では、それ以上に使用環境は相違する。荒天時には塩水を頭からかぶる海上の艦船のケースも大いに異なる条件下での使用になる。また、ロンメル軍団相手の灼熱の砂漠や我が日本軍相手の太平洋の島嶼戦等、地域的、気候的に大きく異なる環境での使用も多かった。

 三軍での代表的な使用例を列挙すると、陸軍歩兵への重要な支援火器であり、M4シャーマン中戦車の砲塔上の搭載火器であったし、空軍の各種戦闘機の標準装備品でもあった。代表的な例では、ノースアメリカンP-51ムスタングの12.7mmx6丁の集弾率の高さに苦しめられた零戦、紫電改パイロットも多かった。

 海軍の艦船でもケネデイ中尉のPT109始め小型艦艇の対艦、対地、対空兼用の火器として12.7mm連装機銃を装備しているケースが多いので、映画などでご覧になった方も多いと思う。


 12~13mmクラスの重機関銃をM2一種類に絞って第二次世界大戦を戦い抜いたアメリカ軍に対し、日本国は機関銃に関しても陸海軍それぞれ別個の開発を行っている。更に不味いことに用途別に最高の性能を求めて、世界中の優良機関銃を探し回って、多種多様の機関銃のライセンス生産を行った。陸上用、海上の艦船用、航空機用と分野別、用途別に実に多くの機関銃の開発実用化に資材と熱意を日本人は傾注している。

 代表例として航空機用途で旧陸海軍が世界各国からコピーした機関銃に関して口径毎に、思いつく範囲内だけで挙げてみると、今、記憶にあるだけでも次のような多彩な内容になる。



挿絵(By みてみん)



 実に多彩と言おうか、設計思想の異なる多種類の模倣品のオンパレードと呼ぶべきか言葉も無い状況である。

 更に、機銃の名称も12.7mm以上の口径では、海軍が機関銃、陸軍が機関砲と呼ぶなど、国内統一さえ不十分な困った状態であった。即ち、明治健軍以来の伝統に従って、世界中の優秀品の多彩な猿まねのコピー品で国運を掛けた戦争を戦おうとしていたのである。

 当然ながら、多種多様な目的毎の機関銃があり、銃に付随する弾薬、交換部品、消耗品もメーカー毎、機種毎に全く規格の異なる無数の部品を無限に常に用意しないと戦争が出来無い状態だった。

 戦時量産性や戦場へのロジステック、部隊相互での融通性、互換性装備の必要性を全く無視した機関銃で大日本帝国の陸海軍は4年間戦ったのである。


 日本人独特の『和の精神』や技術的小細工を得意とする国民性が、国家の命運を賭けた運命の一戦において、近代戦の基本を無視し、標準化を軽視した結果が敗戦の一因となった事実を理解すべきであった。

 しかし、旧軍上層部を始め殆どの人は、兵器の標準化や運用軍規格の統一に全く無関心であった。

 機関銃分野だけでも上記の様に多種多様で短命な機関銃を生産して、戦線を混乱させ、兵器開発スピードを大きく遅らせたのである。戦後も自動車であれ、家電製品であれ、この傾向は続いている。


 一方、多様な人種と様々な思想、考え形を持った人々の複合国家であるアメリカは、異なる見解の相違の問題に対して議論と実験は執拗に行なうが、一端結論が出ると、大統領を始めとする強力な国家権限で施行を徹底している。

 その結果、二度の改良を重ねて制式化された、『M2重機関銃』は後4年で開発後100年が経過する今日でも、世界中の自由主義世界で使用され続けている。

 


(参考文献)

1)Small Arms of the World, Edward Clinton Ezell, Barnes & Noble Books NY(1993)

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