俺と同じじゃんか
白河と小鳥が到着するおよそ五分前。先に白河の家についた俺は小鳥と話す部屋にいった。
白河の言う通りだと一つだけ誰でも入れる部屋があるらしい。
「ここか・・・・・」
目の前には、黒い扉があった。
そして、金属製のドアノブに手をかける。
ギィーーっという古い屋敷を思わせる音とともに部屋の中に入る。
そして、電気を点けると・・・・・。
「うわーーー・・・・・・」
部屋の中は綺麗しているのだが何もなく、あるとすれば小さい電球の真下に茶色いイスがポツリと置いてあるだけの殺風景な部屋だった。雰囲気だけだとなんか拷問部屋みたいだな・・・・・。さらに・・・・・
「何処に隠れればいいんだ?」
これじゃ何処にも隠れられない。さあ、どうする・・・・・
「とりあえずここにいてください。小鳥ちゃん。私はお手洗いに行ってきますから」
と、ドアの向こうから白河の声がした。
うそだろ?まだ五分たってないはずなのに?いや、それよりどうすれば・・・・・
「うん。それじゃあ先に待ってるね」
辺りをみるが何もない。あるのは、電気、イス、他には・・・・・ない!
「はい。それではまたあとで」
どうする?大体、なんで隠れなきゃならないんだ?白河は「流星くんは小鳥ちゃんにばれないように隠れてください!」としかいってなくて理由はあんまり詳しいことは聞かされてないんだけど!
だんだんとドアが開かれていく。
ああもう!一か八か!電気を消した俺が向かったのは扉の後ろだ。
そして、小鳥が部屋に入る前に扉の後ろに隠れる。
そのあとすぐに、小鳥が部屋に入ってくる。が、部屋が暗いのですぐには俺がいることはばれない。
小鳥が部屋に入ってきてドアノブから手を離した瞬間!俺が部屋の外に出ていく。
よしっ!ばれてない!
俺は、廊下に出てガッツポーズを決めた。それほど嬉しかった。
そのガッツポーズ決めたあと廊下にのこっていた白河をにらみつけた。
「おい!」
白河は怯えたようにビクンっとはねた。
「おまえ、騙したな・・・・・」
「騙したとはなんですか!騙したとは!」
白河は小鳥がいるので大きな声は出せないがどうやら怒っているらしい。
「だって、何もない部屋にどうやって隠れればいいんだ!」
俺もあんまり大きな声は出さずに言い返した。
「え?何もありませんでしたか?」
白河は驚いたように首を傾げた。
「いや、まあ、実際にはイスしか無かったけど・・・・・」
「なんだあるじゃないですか。脅かさないでください」
「いや、でもイスだけあってどうやってかくれるんだよ!」
「そんなの、天井に張り付くとか・・・・・」
「できるか!俺は忍者じゃないんだ!」
俺の家系に忍者をやっていた人はいない!
「私はできましたけど?」
「できたのか!」
おまえが忍者だったのかよ!
「それで?なんで隠れなきゃならなかったんだ?本当のことを教えろ」
白河は少し考える素振りをして「わかりました」と答えた。
「それは、小鳥ちゃんの本心を聞いてほしかったからです」
と、白河は静かな声音で言った。
「・・・・・どういうことだ?」
白河の言っていることがよくわからず聞き返した。
すると、白河は、はぁあーと溜息を出して・・・・・
「聞いていればわかります」
白河はまた優しい口調で言った。
白河の言っている「聞いていれば・・・・・」というのはたぶん小鳥の本心というやつのことなのだろう。
俺は扉へ向かっていった。
「扉に耳をあててれば聞こえますよ?」
白河の言われたとうりに扉に耳をあてた。
「リュウくんが悪い、リュウくんが悪い、リュウくんが悪い」
「おい!」
痛ッ!首捻った。いや、それより小鳥が恐ろしいことを連呼してるんだけど!
そのことが伝わったのか白河は苦笑いだ。
そして恐る恐る再び扉に耳を澄ませた。
「だから私は悪くない、悪くない、悪くない悪くない悪くない・・・・・」
ますます怖くなってらっしゃる!
「許さない、許さない許さない・・・・・」
いますぐ扉を開いて土下座をしないと俺、明日殺される・・・・・
さらに扉からチャキ、チャキって物騒な音も聞こえてくるしね!?
「どうぞ、扉を開けてください・・・・・」
と言う白河の手は小刻みに震えている。
そんなことを思っている俺の手も震えているけどね。
その震えている手で少しずつ扉を開けていく・・・・・
小指が入るほどに扉を開いて止める。
そこまで開けると小鳥がイスに座っているのが見えた。
ん?なんか両手に持ってるな・・・・・左手に四角いものが・・・・・ああ、写真か、そして、右手に・・・・・ハサミ!しかもそのはさみがデカい!布きりばさみくらいデカい!さっきのチャキ、チャキって音はそれか!
「あれ?あんな大きなはさみ持ってましたっけ?」
と同じく扉から小鳥を見ていた白河がいった。
いや、俺に言われても分からんよ?
そんなことを思っていたら小鳥がおもむろにはさみで写真を切り始めた。
そして、切り刻んだ写真の半分が扉の近くに落ちてきた。
あれ?この顔どこかで・・・・・
「これって流星くんの顔・・・・・」
そうだ!これ俺の顔だ!なに?俺、恨まれてるの!いや、まあ最初の扉ごしになんとなく分かってたけどね?
でも、恨むんだったら俺じゃなくて白河だよね?俺に非はないよ?
前に許したけどさ!
「優花ちゃんには感謝してる。だって最終的にリュウくんに私の気持ちを知ってもらったから・・・・・でも・・・・・」
小鳥は俺の思っていることが分かっているように言った。
いや、聞こえてないよね?聞こえてるはずがないもん!
あれ?心なしか小鳥が震えてるような・・・・・悲しんでるのか?
「なんでリュウくんはなんにも言ってくれないの!」
小鳥は勢いよくイスから立ち上がった。
うおぅ!怒ってらっしゃった!
「たしかに、あのときは混乱してすぐに教室にもどちゃったけどそのあとすぐに教室で話しかけたのに・・・・・」
ああ、あったなそんなの・・・・・ってあれってそういうことだったの!
あの日、最後のHRが終わってすぐに小鳥が俺のほうへと振り返って(席が近いのでわざわざ立って近寄ってくる必要がないからだろう)無言でじぃーーっと見てきて「なに?」って言ってきた。あのときは完全に威嚇してると思ってダッシュで帰ったけど。
「なのになんで・・・・・」
小鳥は顔を伏せた。あれ話したって言えないだろ!
「なにも言ってくれないの・・・・・」
小鳥の頬から小さなしずくが落ちた。おそらく涙だろう・・・・・
「小鳥・・・・・」
俺は聞こえない程度の小さな声でつぶやいた。
しかし、白河には聞こえたのかこっそりと扉から離れていってくれた。
これから俺がやることを分かってくれたのだろう。
ゆっくりと扉を開けていく・・・・・
「あ!優花ちゃん?」
小鳥は扉に背を向けているからまだ俺が入ってきたことはまだ気づいていない。
「結構遅かっ・・・・・」
目をこすっている小鳥は扉を見て、実際は扉の方にいる俺を見て、白河じゃないと気付いたらしい。
「ど、どどどうしてリュウくんが!」
どうやらかなり動揺しているらしいな。
小鳥は無意識に一端落ち着こうと思ったのかそれとも純粋に、または本能的に、恥ずかしかったのかイスの後ろに隠れた。
ただ、ほとんど隠れきれてない・・・・・イスの網目から制服やら赤い顔が見えている。決して小鳥が太ってるわけではない。むしろ痩せてるといってもいい。
あれ?俺何言ってんだ?それどころじゃないのに。
「ごめん!」
俺は土下座をした。
「え?え?え!?」
小鳥はさらに困惑しだした。
しかし、今、俺が伝えたい一番のことがこれだった。
「と、とりあえず顔を上げて!リュウくん!」
「ああ」
小鳥に言われて頭を上げる。実際、もう少し謝りたかったけど・・・・・
「それで?どうしたのリュウくん。急に謝りだして・・・・・」
やっぱり、俺が扉にいたことに気付いていないか・・・・・
「・・・・・おまえの気持ちを知ったからな・・・・・」
「え!?」
小鳥はまた驚いた・・・・・今日はどのくらい驚くのだろうか。
「いつから居たの?」
再び平常心を取り戻した小鳥が聞いてきた。
「おまえよりも前に居た・・・・・」
小鳥の質問に俺は正直に答える。
「そんなに前から・・・・・」
小鳥が今度は小さく驚く。
「ああ」
俺も静かに肯定する。
「おまえの気持ちは分かった・・・・・でもなんでそれを最初に言わなかった?」
俺は今までの話を聞いていて一番思った疑問を口にする。
「おまえは俺のことを好きだなんていままで一度も言ってないじゃないか」
「だって・・・・・」
小鳥は何かを抑えたように少し震えていた。
「だっていままでの関係が崩れるかもしてないじゃん!」
小鳥はいままでずっと抑えていた気持ちを吐き出した。もちろん、ずっと抑えていたものが一気に出たのだ並の声量じゃない。
「私はリュウくんが好き!だけどそれを言ったらこの関係を壊してしまうかもしてない、私が告白してリュウくんが受け入れてくれたらいままで以上に仲良くなれる。私がストーカーを止めれるかもしれない!でも・・・・・もしリュウくんが断ったら・・・・・私はもう立ち直れない。私を暗闇から救い出してくれたリュウくんが私から離れていったら私はまた暗闇に戻っちゃう・・・・・もう誰もその暗闇から助けてくれないまま・・・・・・ずっと・・・・・」
小鳥の立っている床にはポツポツと黒いシミが浮かんできている・・・・・いや、逆か・・・・・小鳥の涙が床に黒いシミを作っていたのだから・・・・・
そして、小鳥はゆっくりと床に膝をついた・・・・・ずっとためてきた、ずっとため続けてきた心の奥の闇をずべて出したのだからしかたがないか・・・・・
「なんだよ・・・・・」
俺は呆れ気味につぶやいた。
「俺と同じじゃんか・・・・・」
そうつぶやくと俺の頬に違和感が伝わってきた。
どうやら、俺もいつの間にか泣いていたらしい・・・・・
ホント、同じだよ・・・・・。
「・・・・・え?」
そしてそんなつぶやきを聞いてから少したって驚きの声が聞こえた。
「はは、実は俺も同じなんだ・・・・・ここでこうしておまえと話す前に白河と屋上でどうやったらおまえと仲直りができるのかを話し合っててさ・・・・・」
「優花ちゃんと?」
「ああ、その途中で白河がさ『もし、小鳥ちゃんが告白してきたらどうするんですか』って聞いてきたから俺は『わからない』って答えたんだ」
俺はこの前の屋上のことを簡潔に話し始めた。
「だってそうだろ?そんなこと実際になってみないとわからない・・・・・それにおまえと一緒で怖かったんだよ」
小鳥と扉の近くにいる白河が静かに見守っている。
「いままでの関係が壊れるのが怖いずっと続いてきたこの関係が高校なんて一つの通過点なんかで崩れるのは絶対にいやだ!それが俺の本心なんだ・・・・・」
「そうなんだ・・・・・」
ここまできて小鳥が口を開いた。もう小鳥の目には涙はない。
「だけど、気付いたんだよ・・・・・」
ゆっくりと慎重に次の言葉を言う。
「そんなことないんだってさ・・・・・」
これが俺の気付いた答えだ。
「だってさ俺がおまえにコクられてオーケーしてもフッても俺はおまえを嫌いにならない。大体おまえがストーカーでも俺は嫌いじゃなくならないんだからな・・・・・」
ずっと言うか迷ってが言う事にするか・・・・・
「俺はおまえことが好きだよ・・・・・」
小鳥は驚きすぎて絶句している。
「も、もちろん家族みたいな意味としてだぞ!」
一応、注意をしておく。
「うん・・・・・」
小鳥はまた泣き出した・・・・・なんど拭っても後から溢れてくる。
「私は・・・・・リュウくんが好き・・・・・一人の男の子として・・・・・」
「ああ・・・・・でも、その返事はまたいつかな?」
「うん・・・・・」
これで仲直りはできたかな?
「あの~・・・・・」
と扉のほうから控えめな声で話しかけてきたのは・・・・・白河!ああ、すっかり忘れてた・・・・・
あれ?白河の目が赤く腫れてる?もしかして泣いてたのか?
「ああ、優花ちゃん!どこ行ってたの?トイレにしては長いよね?」
そっか、俺がいることも知らなかったんだから白河が扉の後ろに隠れてたことも知らないよな。
「・・・・・ごめんなさい!」
白河は土下座とまでは行かないが直角九十度の角度で謝った。
「どうしたの?優花ちゃん!?」
本日二度目の謝罪、最後の最後でまた驚いたな・・・・・
「いえ、小鳥ちゃんを騙してしまったのでその謝罪を・・・・・と」
白河は白河で謝りたいと思っていたらしい。
「騙してた?」
「はい・・・・・」
いやまあ、気付いてないよね・・・・・。
「・・・・・とまあこんな感じでして」
白河がこれまでのことを手短に数分で話した。
「へぇーー、そんなことが・・・・・」
小鳥が感嘆してる。小鳥目にはもう涙はない。
「はい・・・・・そのことの謝罪を・・・・・」
「うん、もういいよ!」
まあ、これでなんとか白河のことも無事?解決だな。
「あ!今何時?」
「あ、そういえば・・・・・」
まだこの白河の家に来てから一度も時計を見ていない。おそらく、小鳥もそうなんだろう。
「えーーと」
今いるこの部屋には時計がないので確認ができない。
「今何時ですか?」
白河が近くにいたメイドさんに聞いた。
あのメイドさんって昨日俺が白河の部屋に行くエレベーターに乗るときにいたメイドさんだった。
「午後八時半みたいです」
と白河がメイドさんから聞いた時刻を報告する。
「ああ、もうそんな時間か・・・・・」
五月だからもうそんなに寒くないといっても暗くなるのはまあまあ早い。
「そろそろ帰るか・・・・・」
と独り言のように白河に告げる。
「そうですか・・・・・」
白河はしょんぼりとした。
いや、明らかすぎるだろ?どうすればいいんだ?
「じゃあ、このあとのことはリュウくんの家で話そう」
と小鳥がとんでもないことを言った。
「え?」
「はい?」
俺と白河が同時に驚く。小鳥の次は俺たちが驚くのかよ。
「いいんですか?」
白河が質問をする。
「いいでしょ?」
小鳥が勝手に決める。
「なんで勝手に決める!?」
と俺がツッコむ。
「え?ダメなの?」
「いや、ダメじゃない・・・・・けど」
なんかまたこっちが悪いみたいじゃだな。
「じゃあ決定ね」
ああ、これこそダメだ・・・・・絶対に曲げない気だ。
「でも・・・・・本当にいいんですか?」
白河が謙虚に聞いてくる。
「この際いいよ、おまえにこの後予定がなければな・・・・・」
お願いだから「ある」と言ってくれ。じゃないと絶対、面倒になるから!
「予定あるか?」
あるって言ってくれ!本当にお願い!
「ありません!」
はい終了!このあとは地獄でお送りします!
「それでは行きましょう!」
「うん!行こう!ほら、リュウくん!」
この二人すげぇーテンションたけぇ―。