俺の悪運は筋金入りみたいだ
ピチャッ、ピチャッ、っと水が落ちる音。それしか聞こえないお化け屋敷の中。
「お、置いて行かないでね」
「わかってる。だからもうすこし離れてくれ」
さっきから柔らかいものが腕のあたりにあたっている。怖がりの小鳥は入ってからずっとこんな感じだ。
「あ、ごめん」
あまりの怖さにストーカーのかけらもなかった。
そのほうがいいけど。
「たしかに少し怖いですね」
ここまで特に何もなかったが白河も少し怖がっているらしい。
「なんか薄気味悪いな」
そういう風にできてるのは分かってるつもりなんだけど。
三人でなるべくかたまって進んでいく。
だが、進んでも進んでも全然出口が見える気配がない。人の気配も・・・・・
ん?なんか、小鳥の腕の力が強くなったような。
「どうした?小鳥」
なんとか震える声をこらえた。
「あ、あれなに?」
小鳥は俺の身長よりも高い位置にあるひび割れたガラスを指差した。
「な、なんだ?」
恐る恐る小鳥の指差したガラスを見た。
「人、ですかね」
白河の言ったとおりどうやら人みたいだ。
髪が長いから女の人か。ん?待てよ。
「ここ二階だぞ」
俺たちはここまで来るまで階段を一回上っている。つまり、ここはすくなくとも一階じゃない。
「じゃあ、あれは?」
小鳥の言葉が合図だったようにカミナリ、おそらくちゃんとしたエフェクト、が起こった。
もう一度、目を凝らして見てみる。ガラスの向こうにいる女性の顔を。
その女性の顔は・・・・・
目がくり抜かれ髪は濡れていてところどころ赤い、歯はボロボロで極め付けに首から下が無かった。
「「「きゃああああぁぁぁあああああ」」」
三人とも全力疾走で出口に走って行った。
「ううぅぅ、えぐえぐ」
小鳥は顔をぐしゃぐしゃになりながら泣いていた。
「まさか、お化け屋敷はあんなに恐ろしいものだったなんて」
白河は自分の両肩を抱きながら震えた声で言った。
「もう、何も言うな!思い出しそうだ」
俺は声で二人を制した。
ヤバイなさっきの夢に出てきそうだ。
「次からお化け屋敷のことを忘れるぐらい楽しもうぜ!」
なかば自分に言うように言う。
「そ、そうだね!そうしよう!」
大きい声で賛成した小鳥は若干まだ震えていた。
「わ、私もそう思います」
白河も賛成した。
「よし。行こうぜ!」
「「「おー!」」」
全員、拳を振り上げた。
それから遊園地の乗り物のほとんどに乗り倒した。何度かリベンジで他のお化け屋敷に入ろうとしたが最初の恐怖を思い出して結局全員断念なんかもしたけど有意義な時間過ごすことができた。
「あ~、楽しかった」
「はい。楽しかったです」
もう、恐怖のかけらも残ってない表情だった。
「時間的に次が最後だな。じゃないと電車に乗り遅れる」
午後五時。電車が来るのが六時半。いい加減おいとましないと遅れそうだ。
「そうだね、じゃあラストにあれ行こう」
小鳥が指差したのは、すこしさっきのことを思い出しそうになった、この遊園地唯一、絶叫以外のもの、観覧車だった。
「前は時間がなくて乗れなかったんだよね?リュウくん」
「ああ、あの後おまえ超泣いてたよな」
「そ、そんなことないよ」
「はいはい」
三人で観覧車に向かう。
「俺、先に飲み物買ってくるから先に並んでてくれ」
「うん。わかった」
俺は一人で販売所にいった。
販売所で飲み物を買おうとしたそのとき!
ウウウゥゥゥゥウウウウ!
「な、なんだ!?」
急に園内に鳴り響くサイレンの音。そのせいで園内のお客さんがパニックになってる。
こりゃ小鳥達と合流した方が良いな。
そう思い観覧車に行こうとした。
「きゃあああああぁぁぁああああ」
サイレンのあとは悲鳴かよ!俺は悲鳴の聞こえたほうを向いた。
聞こえたのが出入り口であるゲートだった。
そこには黒のジャンパーに同じく黒のパンツ、顔は目出し帽をつけて明らかなこの騒ぎの現況がいた。
手には小型のナイフを持っている。
後ろには警官が銃を構えていた。
「どうすんだ!?」
俺は観覧車に向かいながら叫んだ。
観覧車に向かう途中、小鳥達がこっちに来た。
おそらくこの騒ぎで戻ってきたのだろう。
俺は二人を見て安心してスピードをおとしたした。小鳥たち側も俺に気づいたように手を振った。
しかし、その安心が仇となった。ナイフの男が俺を追い抜き俺よりも早くに小鳥達に近づいて行って小鳥を突き飛ばして白河を盾にした。おそらく服装や見た目なんかで白河の方が気弱そうと思ったのだろう。。
クソッ!ただでさえ目立つ顔してんのに手なんか振るから!
「おい!この観覧車が回り終わる前に逃走用の車を用意しろ!じゃねえとこの女の顔が血まみれになるぞ!」
男はそのまま観覧車に乗り込み係員にドアを閉めるように怒鳴った。
それを見た俺は一瞬で頭が沸騰した。握っている手にさらに力が入り爪が食い込んで血が滴った。
でも関係ねぇ!
自分でも驚くほど速く走った。息が切れても足がもつれようとしても走るのをやめなかった。
人質を取られて混乱している警察官を横目に観覧車のドアにおもいっきりぶつかった。
「リュウくん!」
小鳥が何か言ったが耳に入ってこなかった。
完全に閉まりきってなかったドアはすぐに開いて俺は反対側の壁に当たった。
ハッキリ言ってめちゃくちゃ痛い。骨折れてるかもな。けど今はどうでもいい!
「て、てめぇ」
男は逆上してナイフを振りかぶった。
「危ない!」
白河が叫ぶ中、俺は激痛に耐えてもう一度体当たりをした今度は男に。
「うぐぅ」といって観覧車の中にあるイスにあたった。カランカランとナイフが床に落ちる。
「痛ぅ、大丈夫か?白河?」
痛む肩を抑えながら白河に聞く。
「私は大丈夫ですけど、流星くんのほうが・・・・・」
白河は俺の腫れた肩を見ながら隣に座りこんだ。
完全に折れてるな。これ・・・・・
「このくらい、平気だ。まあ、おまえが無事で何よりだ」
そう思うとなんだか笑えてくる。
「そんなのずるいですよ・・・・・こんなときだけ」
白河が小さくなにか言ったがよく聞こえなかった。
俺は少し痛みが和らいで起き上がろうとした。
が男が後ろから俺の首を絞めた。その拍子でポケットのケータイが落ちた。
「カッ、くっ!」
苦しい。息ができない。
「よくもやってくれたな、許さねえ殺してやる!」
意識を取り戻した男は怒りのこもった声で怒鳴った。
俺はなんとか暴れるが大人の力には適わなかった。
ちくしょーやべえな。あれやるしかねえか?
俺は苦しみながらも白河に離れるように指示を出した。
「え?な、なんで」
指示を理解した白河はこの状況にどうして離れないといけないかは理解できてないようだった。
それでも俺は同じ指示を出した。
「・・・・・わかりました」
俺の指示通り白河は距離を取った。
それを見て俺は次の行動をした。朦朧とする意識の中で床を叩く。
すると指先になにか触れた。
あった!
それはさっき落としたケータイだった。
「最後の手段だったんだけど」
俺は首を絞めれながらもなんとか声を出した。
「なんだ?警察でも呼ぶのか?救急車か?」
男は外にもう警察がいる事を忘れているようだった。でも、俺は別に警察も救急車も呼ぶわけじゃない。
俺は片手でケータイと持ち、開く。その後、普通のケータイにはない小さなボタンを押した。
それを押した途端に俺のケータイの先端から角のような棘が二本飛び出した。さらにそこからバチバチと電流が流れ出す。
「俺の知り合いに手ぇ出した仕返しだ。受け取れ!」
俺はそのケータイを男の首に押し当てた。
「ぐぎゃああぁぁぁあああああああ」
男は悲鳴を上げた。
「ぐああああぁぁぁぁあああああああ」
男の手から俺にも電流が流れ込んできた。
くうう、一回経験しててもきつい!
すぐにケータイを男の首から離した。
男は今度こそ完全に気絶し倒れた。
「へへへ・・・・【親父の形見その三、携帯型超強力スタンガン!】、強力すぎるだぜ親父・・・・・」
そう言って、俺は床に倒れた。
「流星くん!」
白河がすぐに駆け寄ってくるがもうほとんど意識はなかった。
「俺の悪運は筋金入りみたいだな」
それだけ言って俺は完全に意識がなくなった。