お邪魔しまーす
「終わったよー」
なぜかいつもより長かった風呂掃除を終えたらしい風呂場から聞こえてきこえてきたのは小鳥だった。
「誰が最初に入る?」
「ここは、白河あたりが良いところだろうな」
「私、ですか?」
「ああ」
一応、風呂掃除をしたのは白河だ。小鳥は勝手についていったんだし別の文句ないだろう。
「私はいいので流星くん入って来てください」
「は?」
ここで反論されるとは思っていなかったので言ってる意味が一瞬わからなかった。
「いいのか?俺が先で?」
「はい!」
元気のいい白河の返事で確信した。絶対になにか裏がある。
「おまえら、何を企んでいる?」
こういうのは直球に聞いて相手の反応をみればなんとなくわかる。
「そ、そんなことしてないよ!もう少し信用してよ!」
ん~、なんかいつもと反応が違うような・・・・・でも、なにか風呂場に仕掛けたのは確実だな。
「わかった。ただしカメラを見つけた時点で未来はないと思え」
二人を睨み風呂場に向かう。
珍しく風呂場になにも仕掛けてなかった。
「いや、まだなにかあるかもしれないな」
用心は怠らない。いままで数年間で学んだ一つだ。
「これも褒められたものじゃないけどな」
独り言が脱衣所に響く。
俺は風呂に入ろう服を脱いだが全裸ではなく下に水着を履いて浴槽に入った。
もちろん浴槽の中も何度も見た。
本当になにも仕掛けてないのか?
浴槽の中に入りながらも考えることは同じだった。
すると・・・・・
「ガラガラガラ」
という音とともに風呂場の扉が開いた。
でも、開くわけない!閉じるときに鍵はかけたはずだ!
「「お邪魔しまーす」」
「ふざけんなぁーーー!!」
開いた扉から現れたのはタオル一枚で裸体を隠していた小鳥と白河だった。
「なに入ってきてんだ!さっさと出て行け!」
俺は背を向けて叫んだ。
「いやでーす」
小鳥はあっさりと断った。
「だいたい、鍵かけたはずだぞ!どうやって入って来たんだ!」
そうだ。俺は入る前に鍵をかけた。
それで安心してこうやって浴槽に入っているんだ。
「ああ、あれはダミーです」
「だ、ダミー?」
「はい。父の会社が作った本物そっくりに作ったおもちゃの錠です」
「自分のお父さんの会社をなんだと思ってるんだ!」
「まぁまぁ、そんなことより・・・・・」
小鳥は急に俺の背中にくっついてきた。俺と小鳥の間にあるのは薄っぺらいタオルが一枚だけ、それはつまり小鳥の肌の感触なんかも直に当たってきて・・・・・
あたってるあたってるあたってる!
「バ、離れろ小鳥!」
身体を左右に振って離れさせようとする。
しかし、全然小鳥は離れなかった。
「いやでーす」
小鳥はさっきと同じ台詞で断った。
「いいから離れろ!」
さらに激しく身体を揺らしたながらさらに大きい声で叫んだ!
俺は不意に前方を見ると目の前には白河が裸体をタオルで隠しながらお湯の中に入ろうとしていた。
「おまえもやめんか!」
白河から目線を外して言う。
「それに、お嬢様がこんなことしていいのか!?」
「だから、言ったじゃないですか。親公認だって」
「ここまでお父さんも考えてなかったからだろ!」
「そうかもしれませんね」
白河がお湯に入る直前の態勢で動きを止めた。目のやり場に困る。
「でも・・・・・」
白河は一瞬黙ったがすぐに俺のほうに向きなおり。
「かまいません!」
きっぱりとそういった。
「そこはかまってくれ!」
そのツッコミを無視して白河はお湯の中へ入ってきた。
「もういい!俺が出て行く」
最初っからそうすればよかったんだ。それに、いつもと鍵の感触に違和感があったんだから気づけよ俺。
そんなことを考えながら浴槽から身体を起こそうとしたが動かない。大体、予想はつくけどな・・・・・
「何度も言わせるな・・・・・」
もうほとんど我慢の限界だった。
「離せ!このやろおぉーー!!」
今度は小鳥だけでなく白河も俺の身体を抑えていた。
「まだ身体を洗っていません!清潔にしましょう!」
「その清潔をてめえらに汚されかけてるから出て行こうとしてんだろ!」
もう抑えようとも考えずに怒声を上げる。
「そんなことしてないよリュウくん!」
「その自信は何処からくるんだ!」
かまわずに二人の手をほどき風呂場から出て行く。
ついでに本物のカギを外側からかけた。
俺の本気はこれで終わりじゃねえぞ。
自室に行き俺は明日のことを考えながら眠った。
朝。
今日こそは誰にも邪魔されずに起きられたことに幸福感を憶えながら目を覚ました。
「はあー、こんなに気持ちのいい朝は初めてだな」
連日続く災難と恐怖の連続に疲労していた俺は今ほどの幸せな時間はなかった。
「今日のこのあとは俺があいつらを恐怖させる番だ」
そう思うと無意識ににやけてくる。
俺は小鳥達を起こしてこうようと二階から一階へ降りて行った。
一階につくとまず風呂場のほうにむかっていった。
カギをかけたのでいるかもしれないので見に来た。
「服は着ててくれよ」
さすがに素っ裸で寝てるわけはないとおもったがあいつらだったらありえる。とくに小鳥が。
恐る恐るカギで扉を開けた。
開けて脱衣所には何もなかった。もちろん小鳥、白河の服もなかった。
そのまま浴槽のある部屋に入るとここにも浴槽、シャワー、シャンプーといつも置いてある物しかなかった。小鳥と白河の姿もなかった。
窓が開いていたからそこから出て行ったのか。
諦めて今度は昨日、小鳥と白河が寝た部屋に行った。
しかし、ここにもいなかった。
「あいつらどこ行った?」
そういった俺の声は静かに響いていった。
「もしかして小鳥の部屋で寝たのか?」
自分で言ってそれは確率が高いことに気づいた。なぜならまず、風呂場の形跡からして窓から出て行ったのは確実だろう。
だったら、俺の家のドアからまた入ってくるだろう。しかし、小鳥が勝手に作った合鍵はさっき見た小鳥たちが寝た部屋に忘れていた。すぐにでもシュレッダーにかけてやろうと今、俺が持っている。
そうすると入って来る方法はピッキングくらいだ。だが、ピッキングするための針金は白河は「この前使ったので最後でした」と言っていたし小鳥は
「これからは合鍵で入ってくるからピッキング用の針金は捨てた」と言っていた。つまりこの時点で俺の家に侵入する方法はなくなったことになる。
じゃあ、どこで寝るかとなると三っつあるうちのひとつ、俺の家に唯一入れる場所である自分達で開けた風呂場の窓、しかしこれを選ぶと寝るのは風呂場となる。そういうのはさすがに自分達もいやだろう。
二つ目は白河の家だ。だがこれを選ぶと家に行くのに時間がかかる。それに、家の人にも説明をしないといけないだろう。そんなめんどくさいことを疲れた状態でしたくはないだろう。
なら三つ目しかないだろう。俺の推測である小鳥の家ということだ。これだったら家も近いし両親にも友達だといえば納得してくれるだろう。
そう俺なりの理論を決めて小鳥の家にむかった。
向かったといっても近所なので一分どころか三十秒もかからない。
小鳥の家についてインターホンを鳴らした。
「すみません。赤羽です。小鳥さん達いませんかー」
さすがに十時になりそうな時間に誰も起きてないなわけないだろう。
そして小鳥宅のドアが開いて出てきたのは・・・・・
「リュウくんおはよう」
出てきたのは昨日の服装とは違うかわいい猫のキャラクターがプリントされたパジャマを着た小鳥だった。
こういう時って普通親出てこないか?
でも、俺の推測はあたったか。
「こっちにいるんだったら連絡ぐらいしろよ」
「え?もしかして、心配してくれた?」
小鳥はうれしそうな顔で俺を見た。
「そ、そんなことねえよ!」
なんでこういうときに素直に言えないんだろうか。少しは心配してたのに・・・・・
「そっか・・・・・」
小鳥は寂しそうな顔をした。内心は分かってくれているような顔だった。
そんな小鳥を優しいと感じたのは初めてかもしれないな。
「白河もいるのか?」
「うん、いるよ。でもまだ眠ってる」
昨日、そんなに疲れてたのか?まあ、俺が言うのもあれだけどそっとしておくか。
「とりあえず上がって」
「ああ」
小鳥に促されるまま家に入った。
あれ?俺って小鳥の家に入るの久しぶりだな。
「そういえば、おじさんとおばさんは?」
インターホンを押して小鳥が出てきたってことは冷静に考えればそうするしかなかったってことなんじゃないか?
「あ~今、お父さんとお母さんは二人だけで旅行に行くっていってたよ。多分来週には帰ってくると思うよ」
「ははは・・・・・そうなのか」
まだ、小鳥の両親は新婚のようにラブラブで俺や小鳥がいるまえで二人とも抱きしめ合ったりするほど仲がいいから二人だけで旅行ぐらいするだろうな。さすがに自分の子供の前でキスはやめてほしいけどな・・・・公衆の面前でも・・・・・
「お邪魔しまーす」
「そんなのいいよ。私たちの関係だから」
「なんだ、その深みのある台詞は」
そういいながら扉を開けて中に入ると靴なんかを入れる棚の上に小鳥と小鳥の両親の写真といろいろな動物のぬいぐるみなんかがおいてあった。
それを横目で見ながらクツを脱ぎ小鳥宅のリビングに入る。
相変わらず、ピンク色の多い部屋だな。両親の希望あるらしいけど小鳥はこれでいいのか?
「私の部屋に優花ちゃん寝てるから静かに休ませてあげて」
「ああ、わかった」
そんなに騒ぐつもりは更々ないけどな。
「はい。お茶」
「サンキュー」
小鳥はキッチンのお冷蔵庫から出した麦茶をコップに注いで出してくれた。
「さて、昨日行ったとおり写真三枚で勘弁してやるから出してくれ」
昨日、勉強会が終了したあとに俺は「次に寝たら写真を全部燃やす」といった。まさか忘れるわけないよな。
「・・・・・本当に持ってこないとダメ?」
「あ、あたりまえだ」
なんで上目使いなんだよ。引っかからねえぞ。
「あうぅー」
落ち込みながらリビングから自分の部屋の廊下につながっている階段を上って行った。
「おい、待て」
「・・・・なに?」
落ち込んだ口調のまま聞いてくるなよ。
「俺もついて行くぞ?」
「なんで?」
変わらず落ち込み口調なんだな。
「おまえが別に無くなってもいような写真を選ぶかもしれないからだ」
持ってきた写真がどうでもいいような。たとえば俺の制服姿の写真を三枚なんかと俺の入浴写真三枚どっちがこの世から消したいかと言われれば絶対に入浴写真だ。なのに制服の写真しか持ってこないようだったら俺が自分で行って選ぶ。
「リュウくんの写真に無くなってもいい写真なんてないけど。わ、わかったよぉ~」
小鳥は半泣きの状態で階段を上ってきた。
小鳥の部屋の前にはアルファベットで「KОTОRI」と書いてある見たことがない丸い看板がぶら下げてあった。
「前に来たときこんなのあったか?」
「ううん。リュウくんと喧嘩してる間に買ったの」
やっぱりなこんなのは俺が小鳥の家に来て初めて見たものだった。
それにしても俺と喧嘩してる間に何があったんだ?小鳥がこんな女の子みたいなことをするなんて。
「なんか、失礼なこと考えてない?」
「い、いやぁいいセンスしてるなぁーって思っただけだけど?」
とっさに思いついた言い訳だけど大丈夫だろうか。
「うーん。そう?」
「そ、そうそう」
半信半疑の様子だが納得してくれたみたいだ。それに、褒められてちょっとだけうれしそうだし。
「ついでに優花ちゃんも起こそうか」
「は?おまえ、ゆっくり寝かせてやれって言ってただろ」
さっき言ってた友達思いの言葉は何処行った。
「うん。そうなんだけどさすがにこんなに寝てたらよくないかもしれないって思って」
なるほど、こいつなりの気持ちなのか。
「私だけ被害に合うの間違ってるもの」
違ったみたいだな。せっかく見直そうとしてたのに。
でも、どっちにしろ白河からも写真をとらないとだから好都合でいいけど。
小鳥の部屋に入ると中心に布団が敷いてあった。その布団に行儀よく「すやすや」とかわいい寝息をたてて白河が寝ていた。
「先に起こすか?」
小鳥のほうを向いていった。
小鳥はなにも言わずにコクリと頷いただけだった。
「わかった」
しかし、小鳥は動こうせずにただ立っているだけだった。
「もしかして、俺がやるのか?」
小鳥はさっきと同じようにコクリと頷いただけだった。
「はぁー・・・・・」
どうせ、俺が白河を起こしている間に写真を隠そうとか考えてるんだろうなぁ。無駄なのに・・・・・
「おーい。白河」
白河の寝ている布団の横に伏せて呼びかけた。
しかし一回だけじゃ目を覚まさなかった。
「おーい。白河」
今度は呼ぶだけじゃなくて身体をゆすってみた。
「うう~ん」
白河はうなり声を上げてゆっくりと目を開けた。
「お、おはよう白河」
俺は寝起きの白河と目があって反射的にあいさつをした。だが白河はまだ完全に目が覚めてないのか寝ぼけ眼だった。
「あれ~なんで私と同じベッドに流星くんがいるんですかぁ~」
不完全の白河はゆっくりと起き上がった。
ふらふらだけど倒れないか?
「あ~、私流星くんとお付き合いしてるんでしたぁ~」
「は?」
白河はまだ夢の中だと思ってるのか。
「白河、寝ぼけてないで起きろ」
白河の頬を優しく「ぺチぺチ」と叩く。
「う~、痛い・・・・・じゃあ、夢じゃない」
効果はなかった。ていうかむしろ上がった?
「早く起きろ~」
「お付き合いしてるんですからなにしても大丈夫ですよねぇ~」
白河の目が急に鋭くなった。
「へ?」
白河はおもむろに俺に抱き着いてきた。
「白河?離れてくれないか?」
「え~いやですよ~。これからが本番なんですから」
「本番ってなんだ!なにするつもりだ!」
「ふふふ・・・・・」
わりと大き目の声で言ったのに一向に目が覚めない。
「リュウくんなにやってるの?」
後ろから殺気を含んだ声が聞こえてきた。
「小鳥、とりあえず落ち着こうか?」
俺ってこういう時は負けるんだな。
「私は落ち着いてるよ」
そういう小鳥の笑顔は悪魔に見えた。