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海賊時代  作者: からんBit
6/6

秘密

かなり年下の女に慕われていることなど露にも思わず、バックは大砲が並ぶ砲列甲板を歩き回っていた。

甲板のすぐ下の層にあたるこの層には特に損害もなく、ほぼ手つかずの大砲が並んでいる。二十四門もの大砲が並ぶその様子は圧巻ではあったが、バックの船である『チェアマン号』には全部で三十二門の大砲が備えてある。今更この程度で興奮するバックでは無かった。

バックはそれぞれの大砲の後部の装飾を確認しながら大砲の間を歩き回る。それぞれの大砲の後部にはどれも同じ紋章が描かれていた。二頭の獅子がお互いに背を預け、後ろ足で立ち上がり、貧相な装備の兵隊と戦っている姿の紋章だ。また、砲身にも唐草模様が描かれており、まさにキャンバスのような有様であった。

全ての大砲に同じような装飾が施されているのを確認して、バックは更に下の層へと降りて行く。このあたりになると、部屋がいくつかに区切られ、用途に応じて様々なものが入っていた。緑色の水が入った樽が並んだ部屋、ブドウ酒の芳醇な香りが占める部屋、虫がたかってる食糧庫、刀剣やライフルが規則正しく並んだ部屋。例によって扉を全て蹴破りながらバックは個室を確認していく。個室の数はやけに多かったので全ての部屋をまわるころには船は動き出していた。


「ん~・・・まぁ船の構造だけならダンク商会の船だよな」


唸り声をあげてバックが壁にもたれかかったのは、およそ全ての部屋をまわりきった時であった。バックは釘などの大工道具がしまわれた部屋にいた。

バックは足元に倒れた扉を蹴り上げて、もとの場所にはめ込む。もちろん、蝶番をはめなおしたわけでは無く、部屋の中に倒れ込まないよう立てかけただけだ。

バックは閉ざされた部屋の中で壁に背をつけながら腰をおろし、その場にしゃがみこんだ。波の音や船体が軋む音が船室内に満たされ、天井に吊るしたランプが船にあわせてオレンジ色の光を揺らしていた。

バックはしばらく、部屋の中を眺めながら何かを考えていたが、おもむろに立ち上がり今までもたれかかっていた壁を殴りつけた。数発同じ場所を殴るだけで木の板にひびが入り、壁が耐久力の限界を越えてきた。そこに追い打ちをかけるようにバックの蹴りが叩き込まれる。

この部屋には大工道具があるのだから、探せばのこぎりやその他に工具ぐらいあったのだろうが、それを指摘する者はここにはいなかった。

例えいたとしても、バックが言われた通りにそれらを使うとは到底思えないが。


「意外に丈夫だな」


そんな独白に続いて二発目の蹴りが入る。破砕音がして、バックの足が板壁を貫通した。バックは足を引き抜き、できた空洞に手をかけて周囲の板壁も腕力で引きちぎった。軽い掛け声と共に、更に周囲の板壁に蹴りを放り込む。

バックがなぜこんな方法で隣の部屋に行こうとするのかは大半の人間にはわからなかっただろう。

だが、多少船になじんだ者ならおそらくバックと同じ行動に出た。

バックが壁を蹴破り、人ひとりが通れる大きさの穴ができる。バックはその穴から隣の部屋へと踏み込んだ。

そこにはささやかな黄金の輝きが横たわっていた。

金貨銀貨や宝石もいくつか見受けられる。黄金のゴブレットに金ぴかの女神像。よくわからない幾何学模様の描かれた円盤や、象牙の類まであった。

その部屋を見渡しても、扉らしい扉は見つからなかい。

ここは船尾に作られた隠し部屋であった。


「やっぱりか・・・これで・・・まあ、まずいことになったかもしれんな」


バックは部屋の中の黄金の食器類を蹴り飛ばして、部屋を後にした。

その時のバックは宝を見つけた海賊らしからぬ表情をしていた。

眉間に皺を寄せ、なにかに悩む姿は薄暗い船室であることも重なってやけに恐ろしげであった。

バックは自分ではめた扉を再び蹴り飛ばしてその部屋を出て行った。




 航後、日が傾いて涼しげな風が吹き出した頃、船長室にバックが戻ってきた。例のごとく扉を蹴って開け、扉は倒れて床の木屑を舞い上げた。


「よう、なんか必要なもんあるか?ありあわせのものなら運ばせるぞ」


そんな、本人としては最上級に気を使った台詞に返ってきたは感情をむき出しにした一睨みであった。

船長室に案内された美人姉妹。困ったことに姉の方は未だこちらを信用していないらしい。妹の方は今やバックのベッドで寝息をたてているほどにこちらに気を許している。それに対して、姉は軍隊の戦列艦並みの装甲でバック達の気遣いを拒絶していた。

海賊の気遣いが一般的な基準に照らした時に全く気遣いになっていないのも一因ではあるのだが、それ以上にリッカは海賊、特にバックのことを信用していなかった。

というか、ありていにいってバックのことを嫌っていた。


「ったく、俺に負けたのがそんなに悔しかったのか?」


バックが思いつく原因といえばこの程度である。力こそがこの海を生き抜く術である海賊にとっては自然な思考回路だ。


だが、意外にもこれが正解だった。


「そんなんじゃないわよ」


極力声を抑えながらも、ヒステリックな声でそっぽを向くリッカ。否定しているようで肯定しているのと同じであった。

敗者に言葉は不要、海賊らしいその考えに基づいてバックは何も言わずに部屋の中に小奇麗な大きな布袋を置いた。そしてバックは船長室から航海に必要なものだけひっつかんでリッカに背を向けた。


「お前らの衣服はこの袋の中だ。水樽はそこの隅、少し腐ってるがまだ飲める。いやなら後でブドウ酒持ってくるから言ってくれ。晩飯の時にまた呼びに来る。うちの連中にはこの部屋入らないよう言っといたから安心して過ごしてくれ」


部屋を出ようとしたバック。その背名に何か固い物が投げつけられた。

振り返り、拾い上げると、それは革の鞘に入れられたナイフであった。

リッカがわざわざ投げつけたのだ。


殺そうと思えば殺せるってことか?それとも、借りは返したって意味なのか?

そんな事を思いながらバックは器用にナイフを指の間に挟み、部屋を出て行った。


「まったく、可愛くないねぇ。妹とは大違い」


捨て台詞としてわざと聞こえるよう言い放った独白にリッカが再び怒り心頭となったのは言うまでもないのかもしれない。



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