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海賊時代  作者: からんBit
1/6

戦闘

本サイトの処女作になります。精進を重ねるつもりですので、どうぞよろしくお願いします。

弾け飛ぶ金属音がその場の語り部となり、濁ったうめき声が火薬の臭いの中でくぐもっていく。指示を飛ばす声は帆のはためく音でかき消され、大砲の爆音が波の音を覆い隠す。ピストルの銃声が飛び交い、飛んできた巨大な鉄の玉が木製の手すりを吹き飛ばした。

二隻の船が大海原の中心で接舷し、普段は物静かな海域が人間の手で戦場へと変わっていた。それぞれの船に掲げられているのは『しゃらこうべ』、海を狩場とする荒くれ者達の船を表す旗。

甲板が血に濡れ、人が枯葉のように海へと放り出される。互いに容赦のない戦闘行為、それこそが彼らの戦いの真骨頂。特に同業者同士の戦いは熾烈を極める。

そしてその乱戦の中、そんな彼らをいとも簡単になぎ倒す者がいた。怒声と罵倒が声の大半を占めるこの場でその者の周囲の海賊達は声を無くしてしまったかのように静まり返っていた。彼は迫りくる海賊達に口を開く暇さえ与えずにその顔面に拳を叩き込んでいた。次々と彼の周囲には粉砕された人間が積みあがっていく。その様子に一方の船員達が尻込みしていき、もう一方の船員達は士気を上げていく。それが甲板の上での戦いに優劣を導く。

戦場において片方の士気と数が劣勢になった時とは撤退の時である。だが、ここは船上である。逃げ場は無い。

「野郎共、皆殺しだ」

不敵な笑顔で放った彼の言葉は乱戦の中でもよく響き渡った。巨大な歓声が悲鳴を掻き消していく。海に飛び込んで逃げる者、武器を捨てて命を乞う者、自らの船長に斬りかかりにいく者、その全てが劣勢に追い込まれた船員達の行動であった。だが、それでも諦めずに立ち向かってくる者達がいるのも事実であった。そんな者達を自分の子分に任せながら、彼は船の中を歩いていく。そして船の後部、髑髏や黄金を無造作に打ち付けた悪趣味な扉があった。

「ここか」

その呟きが消えぬうちに彼はその扉を蹴り破った。

彼が踏み込んだ船室の中は扉の外装から想像できる通りの有り様であった。埃っぽく、汚れの目立つ部屋。にも関わらずその装飾品は全て黄金。奥に見えるベッドの上では赤い布団が皺だらけになっていた。

所々に乾燥した指や足が転がり、右手の壁には生首が一列に並んでいた。中途半端な豪華さがその悪趣味性を増していた。そして、その中に一人黒い髭を蓄え、右目を眼帯で覆った男が悠然と座っていた。その男の周りには剣で串刺しになった人間達がまるで置物のように転がっていた。だが、彼らの胸から滴り落ちる液体が先程まで彼らが生きていた事を教えていた。この部屋の新たなオブジェと化した彼らは自分達の船長の首を手土産に寝返るつもりだった奴らと推察できる。

眼帯男がまだ開いているほうの目で今や扉の無い出入口を見据えた。その視線の先で、この船のメインマストが雷鳴のような音を響かせて倒れていった。眼帯男は仰々しくため息をつく。

「まったく、これでこの船は難破するしか無くなった」

その言葉にこの部屋に踏み込んできた男が答える。彼は今や黄金のゴブレットを投げて遊んでいた。

「舵はまだ生きている。まだまだいけるぜ。だが、この船のもん全部寄越せば港まで曳航してやらんでもなくもない」

不敵に笑いかけるその男に対し一瞬だけ眼帯男は考えるそぶりを見せて、卑しく口元をゆがませた。

「いや、それより簡単な方法もある。貴様の船を奪うというやり方だ」

銃声が轟き、もてあそんでいたゴブレットが吹き飛んだ。ほぼ同時に不敵な笑顔の彼は目の前のテーブルを足で蹴り飛ばした。眼帯男はそのテーブルを剣で切り裂き、その後ろにいた彼に別のピストルで狙いを定めた。

「ハハハ、一人でここに来たのは軽率だったな『裏拳のバック』」

「俺はその通り名を名乗ったことは一度も無いぞ」

「変わった遺言だな」

「お互い様だ」

銃声と共に激しい金属音が響いた。彼の手甲が銃弾を弾いた音だった。

一瞬で両拳を構えた彼は船の揺れに合わせて上体を前に倒した。彼は床に胸を付けそうになるまで体を傾ける。体重と船の揺れを合わせたその動き。船上での戦いに慣れていない者では目で追うことすら困難だったであろう。

だが、眼帯男も船長である。眼帯男はすでに振り上げていた剣を彼の頭めがけて振り下ろした。まともに当たれば致命的な一撃であったが、彼は振り下ろされる剣を右手の手甲で受け止めた。

その程度の剣では今の彼の突進力は易々とは止まらない。彼は剣を跳ね除けて拳が届く間合いに入る。彼は全体重を片足に乗せて眼帯男の足元の床に叩き付けた。

船中に振動が伝わる程の衝撃、それとほぼ同時に彼の左肘がたるんだ腹にめり込んだ。

痛みに腹を曲げ、下がってきた眼帯頭に彼の足甲ごと蹴りが叩き込まれる。

仰け反り、倒れようとする眼帯男の動きに合わせ、さながらダンスのパートナーのように動く影。その影は眼帯男の頭めがけ右手を振りかぶる。己の全体重を乗せた拳。それが床に落下する眼帯男の顔面に迫っていた。

そして、頭部が床から衝撃を受けた瞬間に手甲で固められた鉄の拳が全てを粉砕した。

「船の中身はいただいていく、曳航はしてやらないけどな」

彼は部屋にあった酒のボトルをひっつかみ、中身を一気に飲み干した。

「酒も悪趣味だな」

彼は唾を吐きだして、その部屋を後にした。その瞬間に船の中を巨大な歓声が駆け抜けた。頭上にはためく船の旗、白地に黒の逆さ髑髏。『裏拳のバック』ことバック=マロックを頭に周囲の海を縄張りに持つならずもの集団。彼らは海賊である。

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