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隣の彼方  作者: 風白狼
1章 共同住宅カエデ荘
9/13

酒に流れる思い出話

 ユズたちとと別れてカエデ荘に戻ると、ホールはなにやら騒がしくなっていた。

「なあなあ、その背中のはなんや?」

「これは俺の武器、スコーピオン・テイルという」

「へえ、武器ってことは戦えるのか?」

 どうやら新しく来た住人の話題で持ちきりのようだ。コドセルはハルヒサやリョク、シオンらに囲まれて質問攻めにあっている。と、それまでわいわいと盛り上がっていたカンナがこちらに気付いて振り向いた。

「おかえり、シラギ」

「ただいま。……すごいな」

 ちらりとコドセルの方を見やりながらカンナに答える。彼女はそうねと苦笑した。

「シラギが助けてここに連れてきたんだってね」

「ああ、ならず者どもに捕まってたからな」

 クスクスと笑いながらカンナは言う。俺はそれを肯定し、簡単に説明を加える。カンナはへえ、と笑った。そこでふと、俺はあることを思い出して彼女に向き直った。

「それで、例の事件の犯人は何かわかったか?」

 やや声を低くして尋ねる。カンナはため息混じりに答えた。

「それが全然。組織的なものに(いん)(ぺい)されてるんじゃないかって思っちゃうくらい、情報が無くって」

 肩をすくめる彼女の返答に、俺は眉をひそめる。何だか妙だ。最近、わからないことばかり起こっているような――

「シラギ、今からいいか?」

 シオンの声に思考を遮られる。はっとして顔を上げると、シオンは何かを飲むようなジェスチャーをしてみせた。彼の言いたいことを理解し、ふっと息を吐き出す。

「ああ、付き合おう」

「今日はこいつの歓迎ってことで」

 そう言って、シオンはコドセルの肩を叩く。コドセルは訳がわからないというように水色の瞳を揺らしていた。けれど俺たちは着いてからのお楽しみだと言って困惑する彼を外へ連れ出した。



 羽目を外した声があちらこちらから聞こえてくる。円形の席に座って、俺はその様子を眺めていた。

「なるほど、歓迎というのは酒場であったか」

 納得したコドセルが運ばれてきた酒に口をつける。それを見たシオンがふっと笑った。

「初対面の奴と打ち解けるには酒を酌み交わすのが一番だろう?」

 カランとグラスが音を立てる。コドセルはわずかに首を傾げた。

「しかし、それならばあの場で酒宴を開いてもよかったのでは?」

「カエデ荘の連中は未成年も多いからな。それに、シオンがここに来たかったからというのもあるだろう」

 俺が答えると、シオンがこちらを睨んできた。余計なことは言うなと言いたげな視線が突き刺さる。

「ふふ、今日は新しいお客さんと来てくれたのね」

 明るい声に振り向けば、オーナーのモモカが立っていた。どうぞよろしくと彼女は身をかがめて挨拶する。うっかりその胸の谷間に目が行ってしまい、俺は慌てて目をそらした。

「いい店だ」

 彼女が立ち去った後、ほうとコドセルは息を吐く。同意するように、シオンがくつくつと笑った。

「そうだろう? 毎日足を運んでも飽きないぜ」

「とすると、よくここに来るのか」

「まあな」

 二人のなんてことのない会話を聞く。俺は酒を口に含んで、ふと懐かしい気分に駆られた。

「三人以上で飲みに来るのは、ずいぶん久しぶりだな」

 グラスを見つめて独りごちる。どうやら二人にも聞こえてしまったらしい。シオンは口の端を上げ、コドセルは眉をひそめていた。

「そうなのか?」

「ああ。賑やかに酌み交わしたのは、戦時中かもな」

 答える間にも過去の情景が浮かんでは消えていく。戦時中、という言葉に、コドセルは顔をこわばらせた。どういうことかと言いたげに、水色の瞳にのぞき込まれる。

「流れ者でも、(りゅう)(おう)戦争の名前くらい聞いたことあるだろ」

 シオンの乾いた声が間に入る。思い当たったのか、コドセルは軽く頷いた。

「確か、ここ(りゅう)(ちょう)(こく)とフェニズ国との間に起きた戦争だと聞いている。もっとも、俺は参加しておらぬゆえ、詳しい話は知らぬが……」

 彼の言葉に頷いて、俺は付け加える。

「フェニズは大きな国だ。戦火は大きく広がって、いつ死ぬともわからない状況だった。だからこそ戦闘前には別れの杯を交わし、戦闘が終われば生き残ったことを喜び、命を散らした仲間を弔った」

「普段酒なんか飲まないカンナも、それだけは参加してたくらいさ」

 シオンが懐かしむように続ける。コドセルはまたも顔に疑問符を貼り付けた。

「カンナ殿も……?」

「ああ。俺とシラギ、それにカンナは同じ小隊の一員だったんだ」

 コドセルの問いに、シオンが答えた。そう、カンナとシオンとは、同じ戦場を駆け抜けた間柄だったのだ。彼の答えに、コドセルはほう、と嘆息する。

「三人は軍人であったか」

「正確には“元”軍人だ。軍からは抜けてきた」

 俺はそう付け加えた。空気が静まり、酒に浮かぶ氷だけが音を立てる。妙な沈黙が続く。店内の騒ぎ声がやけに遠く感じられた。その沈黙を破って、シオンの声が弾む。

「そういや、コドセル。あんたはどこから来たんだ?」

 変に明るい声でそう尋ねる。コドセルは虚を衝かれたように目を丸くした。やがて一つ咳払いをし、それに答える。

「俺は流れ者だと言っただろう。フェニズにロルフ、ビオガルデと来て、つい先日この龍朝国へたどり着いた。だが、故郷はもっと遠い場所だ」

 どこを見ているのか、コドセルの瞳には影が差していた。俺は思わず眉をひそめる。

「遠い、場所?」

「そう。おそらく名を出したところで思い当たらぬであろう場所だ」

 カラン、と氷が寂しげな音を立てた。過去に何があったのか、知るよしもない。だが、その悲壮さだけは彼の表情がはっきりと物語っていた。

 という訳で三人は元軍人であるという設定でした。戦争を生き抜いてるので戦い慣れしていて強いんじゃないかな~と。

 そして何気に国名初登場ですね……べっ、別に考えてなかった訳じゃありませんよ!? 出す機会がなかっただけですから!

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