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隣の彼方  作者: 風白狼
1章 共同住宅カエデ荘
8/13

盲点

 修理の終わった刀を受け取って、カエデ荘へ戻る。後ろについてきているコドセルは、呆けたようにその建物を見上げていた。いつ頃建てられたのかもわからない、古風な外壁を持つ四階建ての建物。見上げたくなるのも無理はないかもしれない。



「それホンマか? ホンマにシラギとシオンは手ぇ繋いどったんやな?」

 ドアを開けると、そんな声が聞こえてきた。共同ホールには先ほどの声の主であるハルヒサと、アクエリアス、そしてもう一人、別の少女が腰掛けている。

「うん、そうだよ~。私、この目で見たもの」

 朗らかに笑って、アクエリアスは答える。いったい何の話だ。俺は思わず眉間にしわを寄せた。

「……何の話をしているんだ」

 俺が声をかけると、三人は一斉にこちらを向いた。

「いやいや、なんでもあらへんよ」

 ハルヒサがにこやかにそう答える。アクエリアスも茶髪の少女もそれに同意した。

「うん、聞かなくても大丈夫だよ~」

「そうそう、シオンさんとシラギさんって仲いいよねって言ってただけだよ!」

 屈託のない笑顔で少女、リョクは答える。その言葉に、ハルヒサの黄色い瞳に一瞬だけ焦りが見えた。

「なんでそれを言ってまうんや」

「あれ? ダメだった?」

 ハルヒサがリョクの脇腹を小突く。リョクはきょとんと緑色の瞳を瞬かせていた。アクエリアスはそんな二人を見て苦笑している。本当に何の話をしていたのやら。俺は軽くため息を吐いた。

「シラギ殿、先ほどから気になっていたのだが――あれは何だ?」

 後ろから声をかけられて、俺は振り向いた。コドセルは怪訝そうな顔でアクエリアスを指さしている。そこでようやくコドセルの存在に気付いたのか、アクエリアスはさっとハルヒサの後ろに隠れてしまった。

「彼女はアクエリアス。妖精だ」

「よ、妖精!?」

「ああ。この建物に昔から住んでいたらしい」

 驚く彼に、俺は簡潔に答える。といっても、俺も妖精とは何なのかなどの詳しい話はよくわからない。彼女は人間より小さくて羽があるという、見た目の違いくらいしか説明できないのだ。

「で、そっちの人は誰や?」

 ハルヒサが俺の後ろにいるコドセルを見て尋ねた。俺は見えるようにすこし横に移動してから、コドセルを紹介した。

「彼はコドセル。行く当てがないと聞いたから、ここに入居させようと思って連れてきたんだ」

「ふつつか者ではあるが、よろしく頼む」

 俺が軽い紹介を終えると、コドセルはぺこりと一礼した。ハルヒサはおお、と目を輝かせる。リョクはにこにこと笑っており、アクエリアスは隠れながらこちらの様子をうかがっている。俺はコドセルの方を向いた。

「向かって右の、袖で手首を隠している方がハルヒサ、左にいるスカートをはいている方がリョクだ。リョクはここの住民じゃないけどな」

 順番に紹介すると、二人はひらひらと手を振ってそれに応えた。ちなみに、リョクはカエデ荘の住民ではないが、ハルヒサの友人で、彼女のもとへよく遊びに来る。こうしてホールで談話していることも珍しくない。

 とりあえず紹介が終わったところで、俺はホールから見える一室を指さした。

「あの部屋が管理人室だ。入居の手続きはそこでしてくれる」

「む、そうか。では行ってくるとしよう」

 そう言って、コドセルは俺が指さしていた部屋へと入っていった。彼が行ってしまってから、ハルヒサが思い出したように手をぽんと叩いた。

「せや、シラギに聞きたいことがあったんや」

「聞きたいこと?」

 俺が眉をひそめると、ハルヒサは頷いて続けた。

「昨日の事件で一つ、腑に落ちひんところがあるんや。魔物が出てきて被害もえらい大きかったっちゅーのに、なんでそこのペットショップの人は無事だったんやろな?」

 その言葉に、俺は思わず目を見開いた。主旨がわかっていないらしいリョクは首を傾げる。

「え? どういうこと?」

「だって魔物が入った檻を開けたのはそのペットショップの人やろ? 一番魔物に襲われそうなのに、なんで無事やったのかなって」

 リョクの問いにハルヒサは答える。完全に盲点だった。少し考えればわかりそうなことだが、誰も彼女の言った点について質問していない。俺やシオンは後から現場に行ったし、カンナやワラだって初めからいた訳ではないだろう。あのケータという男性が戦闘慣れしていれば対処できたと見ていいが、とてもそうは見えなかった。カンナはこの事実に気付いているのだろうか?

 俺はいても立ってもいられなくて、外に飛び出した。向かうは、ペットショップ・ケモリヴ。驚いた声が後ろから聞こえた気がしたが、俺は止まらなかった。



「わからない!?」

 俺は思わずうわずった声を上げてしまった。目の前にいる男性――ケータは申し訳なさげに頷く。

「はい。あの黒い箱を開けて魔物が飛び出したとき、どういうわけか魔物はおれを避けていったんです。おかげで怪我はしなかったんですけど……」

 困惑したように、彼は答える。俺は眉間にしわを寄せた。

「そのとき何か魔物を退ける物を持っていたりはしなかったのか?」

「さあ、特には……」

 俺の問いに、ケータは困り顔で答えた。念のため、そのときに持っていたというカバンの中身を見せてもらう。が、やはり魔物や()(けん)が避けていきそうなアイテムは見当たらなかった。ますます訳がわからない。俺は腕を組んで思考をめぐらせる。

 彼が嘘をついている可能性もある。本当は真相を知っていて、あえて誤魔化しているという可能性が。だが確証はない。疑わしいのは事実だが、それでは決まらないのだ。第一、嘘をつくならもう少し疑われないように言うのではないだろうか?


 そう考えていたところで、カチャリと店のドアが開く音がした。振り向けば、黒髪の少女が二人、店に入ってくるのが見える。

「いらっしゃいませ」

 どこかほっとしたように、ケータが出迎える。入ってきた少女のうち、一人は青と緑のオッドアイの少女、クロ。もう一人は黒目の少女、ユズだ。

「あれ、シラギ?」

 わずかに目を見開いて、クロが俺を見る。俺は短く返事して顔を上げた。

「クロはどうしてこの店に?」

「ユズにこの店の話をしたら、是非見に行きたいって言ったから連れてきたの」

 ね、と後ろにいるユズに笑いかけて、クロは答える。ユズは答えるようにはにかんだ。

「シラギこそ、どうしてここにいるの?」

「俺は昨日の事件でちょっと確認したいことがあったから」

 クロの問いに、俺は簡潔に答えた。もっとも、確認はできていないのだが。そんなやり取りをかわす俺たちをよそに、わあっと声が上がった。

「見て見て、クロ。この子すっごく可愛いよ」

 そう言いながらユズが指さしていたのは、ケージに入れられたウサギの赤ちゃんだった。白の毛並みに薄茶色の毛が混じり、長い耳はぴょこりと立っている。もぐもぐと動かす口元を含め、確かに可愛い。

「そうだろう? せっかくだし、撫でてみるかい?」

 ケータが優しくほほえみかける。ユズの顔がぱあっと輝いた。ケータはウサギをそっと抱きかかえ、二人の前に見せる。どう撫でればいいかを教えてから、ユズに触らせていた。ユズはおそるおそる手を出し、言われたように子ウサギの額を撫でる。嫌がらないのを見て、さらに手を動かす。彼女の顔はとても穏やかなものになる。ふわりと微笑んだその顔が、何故か頭から離れなかった。

今回のキャラは

リョク → 清風緑さん(@ryoku6110)

でした。


 キャラを出しつつ伏線を張りつつ、まったり更新予定です

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