街中での襲撃
外はやけに騒がしくなっていた。人々がおびえたように走っているのが見える。俺は隣で走るシオンの方を向いた。
「シオン、どういう状況だ?」
「俺にもまだわからねえ。が、この先で魔物が暴れているらしい」
彼は舌打ち混じりにそう答える。今向かっているのは、繁華街の方向だ。そんなところで魔物が暴れているとしたら、被害が大きくなってしまう。俺は走る速度を速めた。
舗装された路上に、魔物がいた。それも一匹だけではない。一見すると野犬のようだが、毛皮はなく、尻尾はカミソリのように鋭くなっている魔物、野剣。その群れが、街を襲っていた。
「シラギ! それにシオンも!」
一体に銃弾を浴びせて、カンナがこちらを振り向く。彼女は人々が逃げられるよう、護衛をしていた。
「二人とも遅いっての」
槍を構え、ワラは視線だけこちらに向けた。だがすぐに視線を敵に戻す。俺もすぐさま表情を引き締め、刀を抜き放った。
「さあ、大暴れといこうぜ!」
シオンが腰につけた縄標を素速くほどいた。投げ縄の要領で振り回し、刃が魔物に突き刺さる。華麗な縄さばきで刃が舞い、野剣に攻撃の暇さえ与えず切り刻んでいく。あっという間に数体が崩れ落ちた。
負けてられない。俺は向かってきた一体に突きを繰り出した。一撃で喉を貫通し絶命させ、引き抜くと同時に刀を横薙ぎに振るう。一振りして血糊を払い、迫る牙に下から斬撃を当てる。
キンッ、と甲高い音が響いた。視界の端に、体勢を崩したワラの姿を捉える。俺は駆け出した。刀を振り上げ、上空からたたき込む。野剣は断末魔を上げて両断された。
「大丈夫か?」
「……ああ」
俺が訊くと、ワラはばつが悪そうに目をそらした。その横顔は、悔しがっているようにも見えた。だがすぐに切り替えたのか、槍の切っ先を別の野剣に突き出す。俺は垣間見た表情に戸惑ったが、今はそんなときではないのだ。まだ残っている魔物を斬るべく、刀を振るう。
ほどなくして、街を襲っていた野剣はすべて動かなくなった。俺は刃についた血糊を振り払ってから鞘に収める。シオンは縄標をまき直してから頭を掻いた。
「で、なんで野剣がこんな街中で暴れてたんだよ」
「ん、それはそこの人が知ってるみたいだよ」
彼の問いに対し、カンナは腰を抜かしている金髪の男性を指さした。仕事着なのか、男性はエプロンを着ていた。カンナの言葉にはっとして、男性はたたずまいを直す。
「とんだご迷惑をおかけしました……」
男性は深々と頭を下げた。ふと、見覚えがあると思った。同じ意見だったのか、ワラが口を開く。
「あれ、あんたカエデ荘の近くにあるペットショップの――」
「はい、ペットショップ・ケモリヴをやっています、ケータといいます」
うつむきがちに、ケータと名乗った男性は答えた。
「それで、どうしてこんなことになったのか、聞かせてくれないか?」
俺が問うと、ケータは頷いて話し始めた。
「今日は、動物の赤ちゃんを受け取りに行く日だったんです。指定されたとおりに受け取りに行ったら、黒い箱だけが置かれていて……。妙だと思ったんで、中身を確認してしまったんです。そしたら、さっきの魔物が飛び出してきて……」
彼の話を聞いて、誰もが表情を険しくした。まるで、何者かに仕掛けられた罠だ。目的はわからないが、一般市民に街中に魔物を解き放たせようとしたとみて間違いないだろう。
「ちっ、どういうことだよ……」
苦々しげにシオンがつぶやく。不可解な点が多すぎて、彼の問いに答えられる者は誰もいない。どうして魔物の入った箱があったのか、どうやって運び込んだのか、目的は何なのか――それら全てが、謎に包まれている。
「ねえ、今日動物の赤ちゃんを引き渡してくれることになってた相手、教えてもらえない?」
なにか考えながら、カンナが尋ねる。ケータはわずかに目を見開いた。
「え、いいけど……いつも同じ繁殖場からしかもらってないから、役に立たない情報かもしれませんよ?」
「――だってさ。カンナさん、どうするんです?」
ケータの言葉に、ワラが茶化すように続ける。つまり相手が問題だったというより、何者かが関与したのかもしれないということ。話を聞く限りではケータも相手の顔を見ていない訳なので、犯人の特定は難しくなってしまう。だが、カンナは問題ないとでも言いたげな表情で答えた。
「だとしても、調べるしかないね。もうこれ以上、好き勝手されちゃ敵わないし」
凜と引き締まったその顔は、いつもと同じく頼もしく思えた。
「頼む、カンナ」
「うん、任せておいて」
それだけ言って、カンナは早速犯人特定のために動き始めた。
さてさて、今回の新キャラもまたフォロワーさんのキャラ化になります。
ケータ → 矢部ケータさん(@Keta_Yabe)
まだまだ形になってない感じなのでとっとと書きたいですね(ノД`)
それでは次回更新もお待ちください