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隣の彼方  作者: 風白狼
1章 共同住宅カエデ荘
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カエデ荘の住人たち

 そこは人が列を成して集っていた。整然としながらも騒々しい人の列を眺めながら、俺は腕を組んで佇んでいる。カウンターでの金銭のやりとりを見ているのは退屈だ。だが、こうしてこのまま何も起こらない方がいい。俺の出番が回ってくるようなことが起こらないで欲しいと、ぼんやり願っていた。

 が、踏み込んできた足音と共に、おれの儚い願いは崩された。

「大人しく従え。さもないと命はないぞ」

 人の列を無視し、ずかずかと駆け込んできた男達の一人が、カウンターの役人に向けて拳銃を突き付ける。他の者もまた拳銃や刃物を構え、集っていた町人達を脅しつけ、黙らせる。一瞬にして辺りは静まりかえった。カウンターの中で拳銃を向けられている人の震える吐息ばかりが、異様に大きく聞こえる。

 俺は軽くため息を吐き、ゆっくりと侵入者達に歩み寄った。

「あんたら、ここで暴力沙汰を起こすなら出てってもらおうか」

 声を張ってそう警告する。俺は歩み寄りながら、腰に帯びた刀の柄に手を掛けて様子を窺った。だが、彼らは俺が一人で、かつ飛び道具を持ってないから気にするに値しないと思ったらしい。ダァンと銃声が響き、飾られていた花瓶が割れる。

「てめえもこうなりたくなかったら大人しくしているんだな」

 たった今花瓶に向けていた銃を俺に向け、一人が低く言い放つ。彼らにしてみれば威嚇のつもりだったのだろう。だが、その動きは俺が動くべきとの認識を強めただけだった。

「――退くつもりはない、か」

 確認するようにつぶやいて、男達を見る。俺は一息で踏み込んで刀を抜き放った。その抜け駆けの一撃で拳銃を打ち払う。キンッ、という鋭い音が響いて、彼らのうちの三人の拳銃が宙を舞った。事態の異様さに、他の者達の注意も一斉にこちらに向く。

「てめえ!」

 銃声がなるより速く、俺は刀を振るった。静まりかえった建物内に、鈍い音だけが反響する。刀の峰をたたき込まれた男達は、一人、また一人と崩れ落ちていく。

「な、何なんだ、お前はっ…!」

 一人が出口へ逃げようとするのが視界の端に映った。この位置からでは、俺は追いつくことはできない。だが。


 銃声が轟く。その音で逃げようとした男は腰を抜かし、出口の傍にへたり込んだ。

「逃げられると思った?」

 どこか楽しげな女性の声が現れる。銃を構えた彼女の姿を確認し、俺は残っていた強盗犯達を倒す。あっけない幕引きだった。




「ったく、面倒を起こしやがって」

 役人に縛られていく強盗犯らを眺めながら、俺は刀を鞘に収めた。傍らに立つ女性はくすくすと笑う。

「いいじゃんか。未遂で終わったんだから喜ぼうよ、シラギ」

 快活に笑ってそう言うところは、実に彼女らしいと思う。大ごとにならなければいい。事件が解決しさえすればいい。そういう考えが、彼女の中にあるのだろう。けれど俺は、できれば事件が起こらない方がよかった。俺のような者が動かなくてもいい世界の方が――

 俺達は換金所を後にして、帰路についた。ふと、俺は傍らの彼女に顔を向ける。

「援護、ありがとな、カンナ」

 俺が言うと、カンナはきょとんと目を瞬かせた。二呼吸ほど置いて、くすりと笑う。

「どうしたのさ、急に? 今更水くさいじゃない」

 何を当たり前のことを、と少し口をとがらせている。彼女の言う通り、これはいつものことなのだとわかっている。こうした付き合いも長い。けれど、それでもお礼を言うべきだと俺は思っている。だから、思うままに微笑んだ。

「けど、任務完遂はお前の功績もある。ありがとう」

「どういたしまして」

 彼女も茶色い瞳を細めて、はにかんだ。







 『カエデ荘』――立て札にそう書かれている建物。そこへ俺達二人は入っていく。戸を開けると、中から少年の声が出迎えた。

「あ、シラギさん、カンナさん、おかえりなさい」

 金髪の少年は共同ホールの机でなにやらノートを広げながらこちらを向いた。彼は声変わりを終えていたが、それでもどこか幼さを感じさせてしまう。

「ワラ、それって宿題?」

 カンナが彼のノートをのぞき込む。ワラという少年は苦々しげに肯定した。そう、彼はまだ学生なのだ。

「よっ、おかえり、シラギ。どうだ、今日の成果は?」

 ワラと机を挟んだ反対側に腰掛けている男性が、可笑しげに声を掛けてくる。

「強盗が入り込んできた」

 ため息混じりにそう告げると、彼は紫色の瞳を輝かせた。

「へえ、お前は当たりだったわけだ。俺の時は何もなくてつまらなかったのになー」

「シオン、そういうお前はどうなんだよ」

 楽しそうな彼の言い方が気にくわなくて、俺はむっとしてそう訊いていた。シオンはよくぞ訊いてくれたとばかりに身を乗り出す。

「俺は魔物討伐の仕事だったからな。畑を狙うような雑魚だが、久々に大暴れできたぜ」

 腰に括り付けた縄標(じょうひょう)という特殊な武器を弄りながら、シオンはくつくつと笑った。

「騒がしいと思ったら、なんや、シラギとカンナが帰ってきとったんか」

 降ってきた声に振り向けば、階段から茶髪の少女が顔を覗かせているのが見える。彼女は俺たちの姿を認めて、そのままホールへ降りてきた。

「ただいま、ハルヒサ。はかどってる?」

「おかえりなさい。こっちはぼちぼちやで」

 カンナが明るく声をかけると、少し眠たげな声でハルヒサという少女は答える。何をしているのか気になったのか、彼女もまたワラのノートをのぞき込んでいた。

「よっし、そんじゃ行こうぜ、シラギ」

 そう言ってシオンは俺と肩を組み、空いた手で何かを飲むようなジェスチャーをしてみせる。彼の言わんとするところを察し、俺は軽くため息を吐いた。

「…好きだな、お前」

「いいじゃねえか。お互い仕事終わりなんだからさ」

 言葉ではああ言ったが、別に俺も嫌だと思っていた訳ではない。それを知っているからか、シオンは俺の首を捕まえたまま玄関へ歩き始めた。と、その背中にかかる声がある。

「なんや、もう出掛けるん?」

「おう。はやいとこ行かねえと混むからな」

 ハルヒサはちょっと意外そうに黄色い瞳を見開いていた。それに答えるシオンは嬉しそうな顔のままひらひらと手を振る。その姿を見て、ワラは口を尖らせた。

「ったく、これだから大人は…。どうせまたふらふらで帰ってくるんだろ?」

「…そうならないように見張っておくさ」

 彼の言葉に何か言い返そうとしたシオンを遮るように、俺はそう答えていた。シオンは顔を歪めていたが、俺は半ば無視して玄関へ向かった。






「いらっしゃいませ。……なんだ、また来たんだ」

 店に入るなり、出迎えた黒髪の女性が言う。

「…仮にも客の俺たちに『なんだ』はねえだろうが」

 彼女の対応にシオンは口を尖らせたが、相手は特に気にした様子はない。

「いつもの席、あいてるよ」

 そう言って、彼女はカウンターの席へと案内した。

「で、今日もいつもと同じでいいの?」

「ああ。頼む、クロ」

 客に取るべきとは思えないなれなれしい態度の彼女もまた、俺たちと同じカエデ荘の住人である。クロは注文を書き留めながら呆れたように口を開いた。

「まあ、あなたたちのことだから、どうせモモカさんが目当てなんだろうけど」

「…ほっとけ。男の浪漫ってやつだ」

 彼女の皮肉に、シオンはぶっきらぼうに返す。と、カウンターの奥から人影が現れた。

「あら、シオンにシラギじゃない! 来てくれたのね!」

 現れたのは、たった今話題に上ったモモカという女性であった。ここバー・ビルシュのオーナーを務める彼女は、整った顔立ちと(あで)やかな体つきをしている。何より特筆すべきは、服がはち切れんばかりに詰まった豊満な胸元であろう。体のラインが際立つ服装と相まって、思わず目が引きつけられる。彼女はカウンターに乗りだしてみせた。

「それで、今日は面白い話あるの?」

 そう言って、妖しく微笑んでみせる。それちょうど胸元が目線の先に来るような体勢で、俺は思わず視線をそらしてしまった。

「……モモカさん、それ、こいつらが喜ぶだけだと思いますけど」

「あら、喜んでくれるならいいじゃない!」

 クロは左右で色の違う瞳に明らかな呆れを映してため息を吐いた。そんな彼女を余所に、この店の主は朗らかに笑うだけ。ちらりとシオンを盗み見れば、彼女のサービスポーズにだらしなく鼻の下を伸ばしていた。辺りからは酒飲み客のうらやましがる声も聞こえる。



 ――こういう騒がしさは、嫌いじゃない。俺は運ばれてきたグラスに口をつけながら、そう独りごちた。

なんだか始まってしまった新作品! 勢いで作ってしまったので続けられるか心配です…


 ちなみに、後半に出てきたカエデ荘の住人たちはフォロワーさんを私の独断と偏見でキャラ化した人たちであります

ワラ→ 笑藁さん(@kisaragiGS_saya)

シオン→ 黒藤紫音さん(@sion_kurohuji)

ハルヒサ→ 高倉悠久さん(@haruhisa8105)

クロ→ 黒猫さん(@Kuroneko8008)


…いろいろな意味ですみませんでした!

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