6・赤竜公は正気に遠い~シリウス誕生の日の夜のこと
誕生編に入れようか迷っていた話なのですが
「カイルの引越し問題」は各国巻き込んでややこしいことになってくるので、幼少期編でまとまってた方がいいかな、と、やや遅れての投稿になりました。
なので今回は、時間がちょこっとだけ巻き戻ります。
卵からかわいらしい少年が出てきた日の大騒動を、カイルはほとんど記憶していない。
ただ自分がどんなに大切なものを手に入れたのかを実感して呆然としていた事は覚えている。
隣に立っていた、出会ったばかりの漆黒の美丈夫も、カイルと似たり寄ったりの状態だった事も。
しかしそれ以外の事は、夢の中の出来事だったかのようにおぼろげにしか思い出せなかった。
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国王夫妻と重臣たちは、国賓であるカイルとアルファをとりあえず客室に休ませようとしたが、二人はガンとしてシリウスの傍を離れない。
ウェスタリア国王ライオネルは、我が子が身にまとっている竜人たちのマントに気づいて弁償を申し出たが、竜人二人はそれも拒んだ。
アルファはさすがの年の功か、呆然とした状態からカイルよりも先に脱し、この国に来たときと同じ威厳ある表情で、重々しく、きっぱりと宣言した。
「そのマントは俺から我が主君への最初の献上物だ。よって返却も弁償も無用」
「主君?!」
その場にいる全員が唱和し、つい一緒になって唱和してしまったカイルもあわてて告げた。
「あっ、ええと。……わ、私のマントも同様だ。賜りもので申し訳ないが、我が君へ」
「我が君」と声に出して、カイルは改めて喜びが全身を駆け巡るのを感じた。
(我が君)
(我が君)
ああ。
心の中で繰り返して嘆息する。
ウィスタリアの人々が半ばあきれ、半ば唖然とした表情でカイルを見つめているのにも気づかない。
あの白金色の髪の少年を守ること、それが自分のすべてだとしみじみ実感していたためだ。
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カイルはシリウスの傍をいっときも離れたくなかったのだが、今は少しでも親子水入らずの時間を差し上げてくださいとウィスタリアの重臣たちに訴えられ、さらにはジャンや自分の部下たちにも説得され、どうにも引かないわけにいかなかった。
なにせウェスタリアの人々は五年もの間、ずっとシリウスの誕生を待っていたのだ。
親友のジャンは友人の変貌ぶりに心から驚いていたようだが、カイルがあきらかにいつもと様子が違うので、深くは事情を聞いてこなかった。
一方、アルファはどのように説得されても、自分はシリウスの護衛だ、と、なかなか下がろうとしなかったが、国王夫妻に重ねて請われ、しぶしぶ、本当にしぶしぶと、少しの間だけ、と、条件をつけて、自室へと割り当てられた部屋に下がった。
アルファにとっては国王の地位も権力も、一切省みるべきものではなかったが、親子の情を切り捨てることはさすがにできなかったからだ。
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カイルは自室にと割り当てられた部屋でようやく落ち着くと、これからどうやって主君の傍に居続けられるか思案し始めた。
ほんの数日の滞在のつもりで隣国を訪ねたはずなのに、今ではすっかり永遠にここに留まる気づもりなのだ。
ありえない、という感情すらわかないほど、カイルには至極当然の決断だった。
知らないうちに魂へ刻み込まれていた「主人を守る」という本能へのスイッチが完全に入ってしまっていた。
竜人は生涯主君を持たないとされていたが、その理由もあらためて自分の中で決着がついていた。
竜人たちの主君として存在しているシリウスという少年に出会えたか否か。それだけの簡単な理由だ。
シリウスというただ一人の主と出会えなかった竜人たちは、自分でも生涯使用しないような過剰にして強大な力と、親しくしてきた友人たちを次々に見送らねばならぬ長寿とを持って、さぞかし孤独であったに違いない。
生きているうちに主人と出会えた自分の幸運に胸が熱くなる。
けれども実際問題として、自国で待つ両親や、所属している騎士団の事は簡単に解決できないだろう。
カイルは竜人であったから、他の騎士たちのように国に忠誠を誓うことはなく形だけの入団であったが、侯爵家の長男として祖国アレスタを守護しながら生きると、周囲も、カイル自身も思っていた。
竜人としては自由を約束されていたが、侯爵家長男としては違う。
軽い理由で国を捨てた、などと誤解されることは、生真面目なカイルにとって非常に不本意であった。
「ジャンに相談してみるか……」
信頼できる友人だ。 ジャンは他の同行者たちと一緒に客室で待機してくれていたが、カイルはシリウスと別れるまでの数時間、彼らのことをすっかり失念していた。
悪気があってのことではなく、人生がひっくりかえるような大事件に対して、物事を多方面に見ることができなくなっていたからだ。
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「よう、やっとお戻りか」
ジャンは客室のベッドに寝転がったまま、入室してきたカイルに手を上げた。
他の騎士たちは異国の城の中という場所に緊張しているのか、それとも騎士と言う職業柄からか、用意された夕飯をきちんとたいらげ、おとなしく待っていたようだった。
「で、どうだった? 極秘の任務のほう、解決したのか?」
「そのことなんだが……」
さすがのカイルも言い難い。
このまま一生帰らない、とは。
「……私はしばらくここに残らなければならなくなった。申し訳ないが先に帰国してくれないか」
「……はぁ?!」
これにはジャンも同行の騎士たちも仰天した。
「……そりゃまあ先に帰れっていうならオレは別にかまわないんだが、あとが面倒そうだなあ。……それでお前はいつまでこっちに残るつもりなんだ?」
「……」
「なんだ、はっきりわからないのか?」
「いや、わかっている……」
だったらちゃんと言えと、ジャンが突っ込む前に、カイルは覚悟を決めたのか、きっぱりとこう言った。
「我が命、尽きるまで」
きっぱり言っちゃったカイル。
初めてのことなので、忠誠心が暴走気味。
アルファと違い、色々なしがらみに縛られているカイル。
これから大変そうです (周りの人が)
この世界での竜人は「世界に四隻しかない核弾頭搭載現役航空母艦」みたいなものなので、彼らの移動に関しては各国非常に神経質になっています。
誰のものでもなければよかったのですが、個人が所有するとなると黙っているわけにもいかないようです。
誤字、脱字、設定の矛盾などは極力気をつけておりますが、発見したらお教えいただけると嬉しいです。
直せる範囲で修正させていただきます。




