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3・☆兄とシリウス(ルークside)

以前、ルークsideのお話を三話UPしてあったのですが、

冗長な部分をカットして、一話にまとめました。

カイルとアルファがウェスタリアを訪れる五年前……。


 11歳のルークはお腹の大きな母にまとわりついて、離れなかった。

ハチミツ色の髪を少年らしく短く切りそろえ、活発な印象のある聡明な王子。

ウェスタリアの次期国王となるべき王太子であったが、このときはまだほんの幼い少年だった。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




「母上っ、ぼくの弟はいつだっこできますか」


「まあ、ルークったら、まだ弟か妹かわからないのですよ」


 母上はそう言って笑ったけれど、ぼくにはわかる。弟しかあえりえない。

妹なんかガッカリだもの。

おしゃれしたり、おけしょうしたり、かみの毛をくるくるにしたり、やたらとくっついてきたり、

ぼくのまわりにいる女の子たちはみんなそんなのばっかりでうっとうしい。

あんなのが一日中そばにいるなんて、考えただけでウエーだ。


「ぜったい弟!」


 大きくなった母上のおなかにほっぺたをくっつけて、ぼくは優しくおなかをなでた。


「はやく出てくるんだぞ」


 弟が生まれたら、たくさんたくさん、いっしょに遊んであげるんだ。

いつもはやたらといばってうるさい、いとこのジェイムズとやらされている剣のけいこだって、弟と二人でやれば完璧だ!




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 母上が、おなかが痛いと言い出して、うばやたちと特別なお部屋にこもったのはその次の日だった。

おそばにいたかったけれど、父上はぼくの手を引いて、母上のつらそうな声が聞こえない父上の部屋に連れて行かれた。


すごく怖かった。


 弟はほしいけれど、母上があんなに苦しそうなのを見るのはいやだ。

もう弟のことはあきらめるから、母上を助けてあげてくださいと父上にお願いしよう。


「父上……」


 見上げると、いつもはきびしい顔をしている父上が、やさしいお顔でしゃがんでくれる。


「ルーク、ジュディスは……母上は、大丈夫だ」


「そうでしょうか……」


父上は自信たっぷりに頷くと、ぼくの頭をわしわしと撫でる。


「ああ、お前が産まれたとき、母上はもっともっと苦しそうだった」


「そ、そうだったのですか」


 びっくりしてしまったけれど、それならきっと大丈夫なのだろう。

父上はもう一度うなずいて立ち上がり、まどべのいすにすわった。


「まだまだ時間がかかる。明日になるかもな」


「明日ですか!?」


 いまはまだお昼ご飯の前なのに。

そんなに長い間、母上はずっと苦しいなんて。


「心配か?」


「もちろん心配です!」


 なんだかちょっと泣けてきた。

いやいや、泣いてなんかいないぞ。


 そのときぼくは思いがけないものを見た。

父上が笑ったんだ。

父上はめったに笑わないけれど、ときどきこうやって思いがけないとき笑う。

父上はえがおのまま、まどべでさえずるスズメたちをながめているようだった。


「ルーク、父はな、本当に楽しみなんだ」


思わずまばたきして、父上を見上げる。


「お前の弟か妹だ。きっとすごくかわいいぞ」


いたずらっぽく片目をつむり、ははは、と、今度は声に出して笑った。


「ぼ、ぼくも、ぼくもすごく楽しみです! あと、ぜったい弟です!!」


「そうか、弟か」


父上はぼくの頭に手をのせたまま、


「名前を考えたか?」と聞いた。


「ぼくが考えてもいいんですか」


父上はあごに手を当て、少し迷っているようだった。


「父はまだ名前を決めかねているから、お前がいいのを考えてくれたら助かる」


「ほんとうに!?」


「本当だとも」


ぼくははじかれたように飛び上がり、急いで部屋を出て行こうとして


「こらこら、どこへ行く」と、父上に止められた。


「図書室です!」


 図書室で、弟にふさわしい名前を考えるんだ。

父上は図書室に行くと言っただけでわかったようで、立ち上がると政務用のつくえの引き出しから紙とペンとをわたしてくれた。


「では父と賭けだな、お前が弟の名を、父は娘の名を考える。男だったらお前の名前を採用しよう」


 図書室で本をつみ上げて、ぼくはたくさんの名前の候補をしぼりだした。

紙には隙間なく候補の名前を書き出してある。


神話に出てくる神さまの名前。


美しい植物の名前。


いつか行って見たい場所の名前。


「「アフラマズーダ」ってすごく強そう」


 でもなんかちょっと、いじわるそうかも。かいじゅうっぽいし。

将来はぼくの右腕、なかよしの相談役になってもらうんだから、やさしい名前がいいかも。


「「レミーラ」っていうのはきれいかな」


すんだみずうみの近くに咲く花の名前だって。


「でも花と同じ名前なんて、女の子っぽい」


女の子みたいな名前をつけちゃったら、弟にうらまれる。それだけはこまる。


 山になっている本のうえに、さらに本をつみ上げていく。

どんどん適当にのせていたら


「うわっ!」


ついにドサドサと本がなだれをおこした。


「いたた……」


 頭を直撃した一冊の重い本が目の前に転がっている。

むかついてその本をらんぼうに山にもどそうとしたら、まだ読んでいない本だった。


「星の本かあ」


 たくさんの星座や、それにまつわる昔話。

面白くてついむちゅうになって読んでいると


「!」


ついにぼくは弟にふさわしいと思える名前を見つけたんだ。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 「父上! 父上!」


 弟の名前をようやく決めて、ぼくが本をかかえて部屋に戻ると父上はそこにいなかった。

代わりに乳母やがいて、なんだか不安そうな顔をしている。


「……父上は?」


「ルーク様、お母様とお父様がお待ちですので、こちらへ」


 どうしたんだろう、急に不安になってきた。

いつも明るい乳母やが笑ってない。

それに、弟か妹が生まれたなら、父上はきっと図書室までぼくを迎えに来てくれたはずだもの。

乳母やに手をひかれて、ぼくは父上と母上の待つ部屋へとむかった。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―





 「……これ? 弟?」


「妹かも」


 母上はベッドに横になったまま微笑んだ。

まだ辛そうで、汗で髪が額にはりついてる。

父上は母上の手を握り、ぼくに頷いたけれど、これって……、


「……たまごみたいに見えます」


そういうと、母上は困ったように笑って言った。


「卵だもの」


「おなかの中から出てきたら会えるんじゃなかったの?」


「卵でうまれてきたかったみたい。でも中でちゃーんとお兄様の声を聞いていますよ」


「そうなのですか……」


 青白く光っているようにも見える、つるつるした卵。


「でもぼく、顔が見たかったなあ」


 卵にそうっと手を伸ばしても怒られなかったので、そのまま触ってみた。

冷たいような、あたたかいような、不思議な温度だ。

ニワトリの卵みたいにざらざらしていなくて、陶器のお皿そっくりにつるつるしてる。


「……弟だよね」


いつのまにか父上が隣に立っていたので聞いてみた。


「弟の名前を考えたか?」


「はい」


すべすべの卵にほっぺたをくっつけて、ぼくはそっと名前を呼んだ。


「シリウス」


 星は何億個もあるけれど、その中で一番、明るく光る星なんだって。

ぼくの弟の名前にふさわしい。


「出てきて、兄上と遊ぼう」


はやく君に会いたいんだ。






―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―





 ……あの日から……、母上が卵を出産なさってから5年の月日が流れ、私はついに待ち望んでいた弟との対面を果たした。

待ち望んでいた、などと言葉で言うのは簡単だが、実際はこの5年間、毎日毎日、私も、父も母も、城内の人々もずっと心待ちにしていた。


 卵を磨き、話しかけ、いつか来る日のために、部屋の調度を揃えた。

けれど卵は何の変化も見せなかったのだ。


それが今日、ついに、なんの前触れもなく突然に、卵が割れたという。



 ――天使だ。




 初めて弟を見たとき、私は息を呑んだ。

金の髪はそれ自体が光を放っているように見えたし、紫色の瞳はアメジストより何万倍も美しい。


 部屋の真ん中に立ち、乳母や護衛に囲まれた子供。

外見は、七才か八才ぐらいで、卵の生まれた日から数えたよりも年長に見える。


 華奢な子供は私に紫の大きな目をひたと向けて視線を放さない。

私も目がそらせなくなってしまった。

着せられている服は、膝まである真新しい白いシャツだったけれど、急に用意したためサイズがなかったのか袖もあまってブカブカだ。


 私はもっと傍で天使を見たかったが、ちいさいくせにどこか安易に近寄りがたい高貴さがあって動けない。


「この子がそうなのか……?」


 かろうじて声を搾り出す。

じっと私を観察していた子供だったが、私の声を聞き、何かに気付いたようにパッと笑顔になると、呆然と突っ立っている私に向け「あにうえ?」と、かわいらしい声を出した。


 天使が、私を「あにうえ」と呼んだ。


「まいにちごほんをよんでくださったでしょう」


 そう、私はこっそりと、毎日のように卵に向けて本を読んだり話しかけたりしていた。

周囲の人間には、やんちゃがすぎるだの、勉強をもっとしてくださいなどと言われてしまっている私の、大事な大事な秘密の日課だったのだ。


 天使の紫の瞳がきらきら輝いている。

吸い込まれるようにふらふらと近くによると、ぎゅっと腰を抱かれてしまった。

そうしてわたしの腰に抱きついたまま、ちょっと不安げに見上げてくる。


「あにうえですよね?」


 うおお。


うおおおおおお。


 なんてかわいらしい!!

あの白い卵の中に、こんな素晴らしい天使が入っていたなんて!

期待してはいたけれど、予想よりも何倍も、何十倍も、何百倍も、かわいらしいじゃないか!



挿絵(By みてみん)



 こらえきれず抱き上げて、ぎゅっと抱きしめてしまった。

こんな、金色の天使のような子が弟!?


「ん?」


 弟だよな?

改めてじっくり見ても、きょとんとしているその子はただただ美しく愛らしいばかりで、性別を感じさせない風情なせいで男の子なのか女の子なのか、よくわからない。

すると、いつのまにか室内に入っていらっしゃっていた父上が苦笑するように私の背を押してくれた。


「賭けはお前の勝ちだ。その子はお前のシリウスだよ」


 歓喜が私の胸を満たした。


 この際、無事に生まれてくれたらもう妹でも弟でもどっちでもよかったけれど、毎日語りかけていたのは「シリウス」という私がつけた名前だったので喜びも一層だ。


父上は満足げに微笑む。


「実は私もジュディスも卵に語りかけるときはシリウスと呼んでいた。きっと我々は卵の中身が男の子だと、不確定ながらもなんとなく察していたんだろう」


 シリウスはかわいらしく首をかしげ、私の顔を覗き込んでいる。

思わず、もう一度、私の天使を抱きしめた。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 家族と城内の人々にとって歓喜に満ちた一日だったが、唯一、空気を読まない竜人たちが邪魔だった。

とにかくシリウスから離れようとしない。

竜だか神だかしらないが、シリウスを主君といったり我が君と言ったり、自分らは護衛だと言い張ったり。

頭がおかしいとしか思えない。


 シリウスは私の大事な弟だし竜人に名乗り出てもらわずとも護衛なら城内に沢山いるのだ。


「護衛なら十分間に合っている」


 空気を読めといっても無駄なようだったので、私は事実をきっぱり告げた。

父は国王という立場上、竜人たちに直截な物言いができないだろうから、私が弟から彼らを遠ざけてやらなければ。

室内に私と竜人二人が放つ不穏な空気が満ちた。


 赤い髪のカイルという青年は、私と年もほとんど変わらないくせに実にずうずうしく、私の話をまるで聞かない。

見た目はいかにも女たちにもてそうな美形で、薄い腰とスラリとした長い足が嫌味だ。

耳元でささやけば老若男女問わずとろろけてしまうだろう若々しい美声で、


「シリウス様は私のご主君だ。離れるときは死ぬとき以外にない」などとのたまうのだ。


 深い赤の瞳でうっとりとシリウスを見つめている。

……こいつ絶対なにかの病気だ。

さもなくば変態だ。


 だってこいつとシリウスは、ついさっき出会ったばかりなのだ。

ほんの数時間前じゃないか。

それでどうしてこうなる。


 離れるときは死ぬとき以外にないとか言って、数時間前までは離れっぱなしで存在も知らなかったくせに。

近くにいないと死ぬのであれば、とっくに死んでなければおかしいじゃないか。

しかも家族や私よりも前にシリウスと出会い、あろうことか産まれて最初の言葉を交わしたと言うのだから余計に腹立たしい。


 隣国アレスタの赤竜は、常に冷静沈着で、見た目は炎、内面は氷と聞いていたのに、今は見た目も中身もトロトロの水あめでしかないな。

噂と言うのは実に当てにならないものだ


 もう一人、鋼を連想させる黒い髪のアルファという青年は、さらにやっかいだった。

いかにも軍人と言った風情の凛々しい長身の男は見た目二十五歳前後だし、くやしいが私よりも精悍で男前だった。


 この男が噂どおりの畏怖されるべき人物だったなら、私の目標になっていただろう事を思うと実に惜しい。

実際の年齢は百歳を越えているという。


 百歳! 普通の人間ならとっくに土の中じゃないか。

年齢だけで十分化け物だ。

わが国の最高齢、城下町のノーラばあを先日長寿の功で表彰したが、彼女は九十六歳だぞ。


 それをふまえれば、このアルファとかいう男は青年どころか老人だ。

しかも、百歳を「越えている」というだけで、実際は二百や三百歳かもしれないというのだからますますありえない。


 そのありえない男が、無言のままシリウスの隣に立ち、時折いかにも満足げに、シリウスに向けやさしく微笑んだりするのだから不気味だ。

北の国を守護する黒竜は、その雄大な姿をはるかな過去に何度か人々に晒し、畏怖と尊敬の対象だと聞いていた。

黒曜石のように輝く鱗はダイヤモンドよりも硬く、咆哮ひとつで山が消し飛ぶという。


 竜人というものは、誰にもこびず、生涯主君をもつこともなく、決して誰にも膝を折らない孤高の神だという話だったのに、出会ったばかりのシリウスに躊躇なく忠誠を誓っているあたり、やはり噂はあてにならない。


神どころか、何を言っても他人の家から出て行かないただの居候じゃないか。


 ところで天使のような弟を真ん中に、さっきから私と二人の竜人で、何を言い争っているかと言うと、それはシリウスの今夜の寝所についての問題だった。


「シリウスは卵の頃からずっと、夜は私が本を読んでやっていたのだから今夜も一緒だ。卵から出てきたばかりで不安だろうし、私の部屋で寝させる」


私が反論のしようのない正当な主張をしても、


「人間だけでは我が君をお守りたもうのに不足だ。どの部屋でも、他に誰がいてもかまわないが、俺は必ずお近くに侍らせていただく」


 アルファは眉ひとつ動かさず、やたらと回りくどい言葉で恐ろしいことを言う。

つまり、たとえば私がシリウスと寝る場合は、こいつも一緒に部屋に入ってくるということだ。


「させていただきたい」ではなく「させていただく」と、勝手に確定しているあたりもありえない。


 こいつと一緒の部屋にいたらどんなに神経の太い人間だって眠れないだろう。

というか、こいつ自身も眠らないつもりなのか?

もちろん私はさらに正しい主張を行った。


「城の中は安全だ。竜人の守護など過剰にして無用」


すると今度は赤い髪のカイルが、


「安全かどうかが問題ではないのだ。私も主君の傍を離れるわけにいかない」


 またそれか! 離れない離れないって、同じ言葉ばかりをくりかえしやがってこいつらバカなのか!?

私はだんだんイライラしてきた。

しかもカイルはまたしてもうっとりとシリウスを見つめている。


やはり変態だ。


 私は普段多少ハメをはずすこともあるが、竜人たちを前に、今まで礼儀正しく冷静であろうとしてきたし、伝説の中で強く美しく高潔だという彼らを尊敬し畏怖もしていた。

もし万が一、彼らに出会うことがあったなら、その得がたい機会にどんな話をさせていただこうかと夢見たものだ。


 それなのに現実はと言うと、初めて出会った竜人たち(ヘンタイ)と、喧々囂々言い争っている。


……どうなっているんだ、これは夢か?


 それとも幻のように美しく愛らしい、私のシリウスこそが夢なのか?

うおお、わけがわからなくなってきた。


 私たちの真ん中で三人の顔をくるくると興味深げに見回しているシリウスだけがずっと静かだったのだが、言い争いもだんだん昂ぶってきたあたりで初めて発言した。


「カイル、アルファ」


まだうまく回らない舌で、愛らしく懸命に呼びかける声に、全員がぴたりと黙る。


「いまごえいはいらない。それにあにうえとけんかしたらかなしい」


 幼い声で、けれどもきっぱりと、そう宣言する姿は、まさしく竜人たちの主君だった。

なにせ、私がどれだけ弁を振るっても一切耳を傾けなかった竜人どもが深刻な顔で黙ったからだ。

ざまあみろ。できればもう少し早くこいつらを黙らせてほしかったが、今日生まれたばかりのかわいい弟にこれ以上を求めてはいけないな。


 私は勝ち誇って胸をそらしたが、竜人たちの表情を見てとたんに気分がしぼんだ。

カイルはしかられた子犬のように見るからに沈んでいたし、アルファは困惑してうろたえた表情を隠さない。

なんだか急に気の毒になってくる。


「シ、シリウス」


私はしゃがんで弟の頭を撫でた。


「カイルとアルファには、部屋の外を守ってもらってはどうかな」


「おへやのそと?」


 頷いてやり、扉を指差す。


「今だって、扉の外側には近衛の兵士が立ってくれているだろう? それをアルファとカイルにやってもらったら?」


 シリウスは己の臣を主張する男どもを交互に見て、彼らがすがるような目つきをしているのを確認しているようだった。


「けんかしない?」


コクコクと頷く二人。


「ちゃんとこうたいでねるならいいよ」


 ほーっと、二人の安堵の吐息が室内に大きく響いた。

いや、思わず私も同時に息をついたから、三人分だ。


 ふふ、何はともあれ、シリウスは今夜私と一緒だ。

正義の勝利だな。


「……」


勝利した私をシリウスがじっと見つめている。


「……あにうえ」


「なんだい?」


 抱き上げると、シリウスはちょっと困ったようにぽよぽよの眉を寄せ、衝撃の一言を放った。


「……あのね、ねるときはあにうえのおへやじゃなくて、じぶんのおへやでへいきだとおもう」


「!?」


 かくして我々は、いろんなものを少しずつ譲歩し合い、それぞれが微妙に勝利を手に入れた。

カイルとアルファは交代でシリウスの部屋の扉を守る権利。私はシリウスの部屋で本を一冊読んでやる権利。

今日のところは痛み分けだったけれど、明日からは弟を独占してやろうと、私は心の中でひそかに決意した。




ルークはカイルよりも1歳年下ですが、ある意味カイルよりもしっかりもので、地に足のついた性格です。

突っ込み属性。

竜人たちに振り回され、彼らのとんでもない行動の数々に、毎日突っ込みがおいつかない生活が待っています。


神とあがめられる竜人たちをさっそく「ヘンタイ」よばわり。

ルークはカイルのような女性受けしそうな線の細い美形ではなく、アルファのように男性らしい美丈夫にあこがれているようです。


アルファの実際の年齢は、ようやく百歳になった、ぐらいのところです。

ルークはアルファがへたしたら三百歳ぐらいかもしれないとビビッてましたが、そんなことはありません。

三百歳になっても見た目がかわらないのは事実ですが。

竜人の平均寿命はあいまいで、魔力の量に左右されるようです。

二百歳ほどで死んでしまうものもいれば、千歳近くまで生きた人物もいるようです。

「咆哮ひとつで山が消し飛ぶ」という逸話は、実際にアルファが山を消してしまった事件に基づいています。

いつか詳細を記そうと思います。


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