47・☆それぞれの思惑
あけましておめでとうございます!
長くTOP画像を守ってくれていたカイルを、フォウルの絵に変更しました。
赤かったのが急に蒼い。
太ももあたりまで描いてある絵なので、全体はすこしあとの本編の中にUPしようと思います。
もうちょっとしたら、彼にたくさん活躍していただく予定なので。
本年も、よろしくおねがいいたします。
本来なら、首脳会議は最長で一週間続く予定だったが、初日でいきなり話が結論に達したので、残りの日々は早期に会議が終わった場合の予定通り、各国交友を深める時間に費やすこととなった。
会議場も開放され、要人たちが自由に行き来している。
当然のように竜人たちとの面談を求める声が一番多かったが、彼らは自室に篭るシリウスに付き添ったまま出てこない。
代わりにウェスタリア国王ライオネルと、王太子のルークが代表たちの相手をしていたが、竜人たちがいないのをいい事に、あからさまな嫌味や、竜人を独占しているのだからそれぐらいは譲歩してもいいではないかと不利益な取引も求められた。
またその逆に、竜人の守護のおこぼれを預かろうと、やたらと媚びへつらう相手も多かった。
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部屋の中でシリウスは、椅子の上で膝をかかえて座っていた。
せっかく初めての外国なのに、外に出してもらえない。
会議場には各国の代表たちが集まっていたので、一度は顔を出さなければいけなかったのだが、先日の騒ぎの元凶であるシリウスは出るタイミングが難しかった。
雰囲気がよければ父か兄が迎えに来るはずだったが、なかなかやってこない。
「カイルとアルファは行けばいいのに。きっとみんな二人と話したがってるよ」
「昨日の様子から見ても、シリウス様がむやみにお出になるのは賛成できません。敵意を持つ輩がまだ残っている可能性が高いのですから」
「カイルの言うとおりです、我が君」
「……ぼくは一人で部屋にいるから、二人で行けばってことなんだけど……」
はー、とため息をついて、シリウスはますます小さく膝を抱えた。
言ってはみたものの、カイルもアルファもシリウスを一人きりにして出かけるわけがないことは、シリウス自身もじゅうぶんすぎるほどわかっていた。
本音を言えば、少し落ち込んでいたから、二人が傍にいてくれることはとても心強かったし、もしも万が一、置いていかれて一人きりにされていたらかなり寂しかっただろう。
けれど、たくさんの国の偉い人たちが、時間をかけて竜人たちに会うため会議にやってきているのに、自分だけ彼らを独占しているという罪悪感がある。
ウェスタリアの王都から、この国境の街までは一週間かからないが、遠方の国の代表は数ヶ月をかけて旅をしてきたはずだ。
シリウスは座ったまま窓に視線をやり、切なく瞳を伏せた。
「外を歩いてみたいなあ……。海辺の街だもの、きっとかわった食べ物とか、きれいな魚とか、いろいろめずらしいものが見られるよ」
カイルとアルファは顔を見合わせた。
悲しげな主人を見るのは辛い。
つらいがしかし、やはり敵意ある勢力の多くあつまるこの街で、外を歩くのは危険だとも思っていた。
「カイルは、この街に来たことあるの?」
「ええ、一度だけですが」
まだ幼かった頃、父母と一緒に親戚の別荘に滞在させてもらったことがあった。
確かにシリウスのいうとおり、豊富な魚介類を中心とした美味な食事が名物だった覚えがある。
「近くの食堂でなにか持ち帰れるものでも買ってまいりましょうか?」
カイルは主人に元気を出してもらいたくて必死だったが、シリウスは首をふる。
「ううん、おなかすいてない」
昨夜の留学の話も受け入れてもらえそうにない雰囲気だったのと、今日の留守番とでシリウスは相当落ち込んでいるようだ。
アルファは窓辺に立ち、外からの不穏な動きを見張っていたが、そこから見下ろせる位置にたくさんの屋台が出ている事にも気づいていた。
「……なるべくなら使わずにすませたかったのですが」
そう言って、自分の荷物を詰めたカバンを開き、そこからフード付のコートを取り出した。
そっとシリウスの肩にコートをかける。
「外に出るときは髪も全部コートの中にお入れください」
「!」
シリウスはアルファの意図を察してすかさずフードをかぶった。
あたまのてっぺんから膝のあたりまでがすっぽりと隠れ、確かに一見誰なのかわかりにくいだろう。
「これでいい?」
アルファは頷いてその場に膝をつき、シリウスの手を取る。
「決してわれらの傍を離れないと誓ってくださいますか」
「うん」
真剣な表情で頷く主人をアルファは愛しい思いで見つめ返す。
アルファはどうしても、主の願いを叶えてあげたかったのだ。
せっかく産まれて初めての異国の地にいるというのに、シリウスを責め立てるような会議だの、親善とは名ばかりの腹の探りあいだの、そんな予定しか組まれていない。
楽しみにしていた異国の街を歩くこともままならず、これでは牢獄の中にいるのと代わりがない。
幼い主人には酷過ぎると思っていた。
もちろん、自分の主人にはそれらの理不尽に耐えうる強い精神があったけれど、悲しんでいる姿を見るのはなにより辛い。
敵の存在は確かに気になるが、自分たちがしっかりと守ってさしあげればいいと結論を出したのだった。
カイルもほっとしたように息をついている。
「準備がいいな、アルファ」
コートはちゃんとシリウスのサイズにあつらえてあり、決してありあわせのものではなかった。
ウェスタリアにいるときから用意してあったのだから相当だ。
それほど寒い季節ではなかったのだけれど、海辺の街は夜が冷えるだろうということで、アルファが用意したのは、念入りに防寒処理をほどこされた、かなり暖かそうなコートだった。
「必要になるかもしれぬと思って作ったのだ。シリウス様の金の髪は目立つからな」
アルファは立ち上がると手を差し伸べ、さあ、まいりましょうか、と、にこやかにシリウスを見下ろした。
けれどシリウスは、いったんフードを脱いで二人の守護者をみやった。
「出かける前に、会議場に挨拶にいかないと。一度も出ないわけにはいかないよ」
「あんな無礼な者どもに挨拶ですか」
アルファはまだアレスタの宰相や、会議場で敵意を向けてきた連中の事を怒っていた。
たぶん一生許さないのだろう。
自分に向けられる敵意には驚くほどに無頓着なアルファだったが、それがシリウスに向くのであれば話は大幅に違ってくる。
カイルの方は複雑な表情だったが主人に同意するように頷いた。
侯爵家で育ったカイルは、社交界のやっかいさを熟知している。
「お顔をお見せになったらすぐに出かけましょう。あの場にいた、と周知させればそれで十分です」
カイルとしても、陰謀渦巻く現場に、大事な主人をあまり長時間とどめて置きたくなかったのだ。
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ルークは会議場の雰囲気にうんざりしていた。
親友のロンが傍にいてフォローしてくれているからまだなんとか耐えているが、いますぐにでもここから退出したかった。
あるものは媚びへつらい、あるものは敵意を隠さない。
竜人たちがこの場にいないことで、出し惜しみですか、などと無礼な嫌味を言われたりもした。
かわいい弟をこの場所に呼び寄せることなど絶対にしたくない。
ある意味この会議の主役である竜人二名とその主人が、このまま一度も姿を見せないわけにはいかないだろうけれど、それでもだ。
少し離れた場所で他国の王と話し合っている父の横顔を盗み見る。
一見穏やかに談笑しているようにみえるが、両者とも微妙に笑顔がひきつっているようだ。
あの王は竜人らと話し合いをさせて欲しいとルークにも再三要請していた。
自国の国境付近に最近魔物が多く出現して人的被害が絶えないのだという。
気の毒だと思うし、気持ちもわからないではないが、竜人たちは完全に個人の意思で動いており、それこそウェスタリアの都合でどうこうできるものではない。
そう説明すると、ではその竜人たちに直接話をさせてくれ、という。
そしてその竜人たちは、シリウスからいっかな離れようとしない。
つまり、さっぱり出てこない。
いつもはやっかいな竜人たちだったが、このような場所でひたすらに弟を守ってくれる彼らの存在は不本意ながらありがたかった。
長男が会議に辟易しているころ、父であるライオネルも、意図しないうちに眉間に皺がよってきてしまい、こっそり指で額を揉み解した。
近くに来ていたルークが父の行動に気づいて苦笑する。
今もまたウェスタリアの国王と王太子に、軍事強国で有名な近国の将軍が近づき、竜人の方々はまだ来場されないのかと聞いてきた。
ライオネルは眉間の皺をほぐしたおかげか、表面上穏やかに答える。
「さあ、我々には本当に彼らの行動ははかれないのです。それこそ、誰のものでもない存在なので」
正確には竜人たちは完全に、間違いなく、ライオネルの次男、シリウスのものだった。
もちろんそのことは、先日会議場にいたすべての人間の頭の中に、恐ろしい記憶となって叩き込まれているだろう。
「シリウス殿下のお姿もありませんなぁ。殿下がいらっしゃってくだされば彼らも現れてくださるでしょうに」
将軍は髭をしごいて不満げに鼻を鳴らす。
暗に、結局ウェスタリアは竜人たちを公の場に出したくないのだろうと嫌味を言っているのだ。
ため息をつきたくなるのをこらえ、ライオネルはつくり笑いを浮かべる。
「当家の次男はなにぶん幼く、このような場になれておりません。異国を訪れるのも初めてなので無作法があってはいけませぬゆえ」
「それで閉じこもっておられると? 確かに一見して非常にお美しく、失礼ながらか細くみえる御子であらせられるが、何事も経験ではありませぬかな。……なによりも今回の会議も、今日の親善の場も、各国の協調と結束を高めるためと言う名目だが、みなの目的は御次男殿下と竜人の方々でありましょうよ」
傍らで会話を聞いていたロンは、父王の隣に立つルークの機嫌がみるみる悪くなっていく様子に気づいていた。
将軍の言いようは頭にくるが、真理をついている。
正論であるので反論しにくい。
本来なら、父王と誰かが会話している所に口を挟んだりなどという無礼な行為は慎んでいるルークだが、我慢できずに言葉を返そうと口を開きかけたとき、会議場の一角が大きくざわめいた。
「シリウス殿下がお見えになった!」
「黒竜公と赤竜公もご一緒だぞ!」
人々の言葉にルークとロンは顔を見合わせる。
ライオネルを取り囲んでいた各国の代表とやらいう連中は、あっというまに消え去って、シリウスの元へ小走りに集まっていった。
「シリウス、出てきたのか。雰囲気がよければ呼びに行くと言っておいたのだが……」
ライオネルは周囲に気の置けない人間しかいなくなったのを確認し、ようやく深々とため息をついた。
まだ幼い次男を、こんな場所に来させたくはなかったのだ。
国王のつぶやきに答えたのはロンだった。
「仕方がありません。あのままでは結局呼ぶタイミングなどありませんでしたし、シリウス殿下が一度も出ていらっしゃらなかったら、それこそ各国の代表たちにうらまれる結果となってしまいます。ですがさすがにシリウス殿下はよくわかっておいでです。おそらく竜人の方々は反対なさったでしょうから……」
内心でロンは心の底から、助かった、と思っていた。
ルークもそうだが、国王であるライオネルも、自国の損害を度外視しても、シリウスを出さない気でいたようだったからだ。
だが過保護すぎる身内に対し、シリウス本人はずっと逞しくて大胆だ。
周囲はそのことも十分わかったうえで、守ってやりたくてしかたがないのだろうけれど。
シリウスは紺色の上着を着て、細い茶のビロードのリボンで髪をひとつにまとめていた。
いかにも王子といった姿のシリウスの左右を竜人たちが固めている。
集まってきた人々はしかし、竜人たちの威圧感に押されなかなか声をかけられない。
先日怒り狂っていたアルファはもちろんだが、炎のような髪の赤竜公、カイルも、周囲に対して決して友好的ではない空気を放っている。
シリウスは苦笑した。
「二人とも、そんなに怖い顔してたら誰も近寄ってこられないよ」
「来ないのであればそれでいいのです。我が君がここにおられたという事実さえ残れば」
アルファは小声で返答し、周囲に対してするどい視線を投げかけた。
勇気を振り絞って近寄ってきた異国の代表がその視線をまともに受けてしまい、そそくさと去って行く。
カイルは炎のように赤い瞳を冷たく光らせた。
「会場を一回りしたら退出いたしましょう」
「カイルのご両親がいたら挨拶していくよ」
「先日会ったではないですか……」
どうもカイルはいまいち祖国の人々に会いたくないようだ。
消極的な友人が面白かったのか、シリウスはカイルに見つからないよう笑って、視線の先に見つけた自分の家族にこっそり手を振った。




