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41・☆竜人会議(一人欠席)魔人会議(全員出席)

 

 

 

 シリウスは夢を見ていた。

夢の中のその世界には、上下も左右も、色も、時間すらなく、ただ光だけがあふれ、存在しているのは光の源である自分だけ。

――そんな孤独すぎる世界の夢だ。


 そんな場所にただぽつんと存在していることが寂しくて、ふと気づくと目の前に友達を創り出していた。

やさしい瞳をした、銀色の竜。

自分以外の存在が生まれたとたん、世界は時間を刻み始め、上下左右が生じ、光の当たらない部分には闇が生まれた。

シリウスはもっと友達がほしくて、銀色の竜の次に、四頭の竜を創った。


 夢の中で、シリウスはそのあとも沢山のものを創った。

人間の親が子供を思い通りに創り出せないように、シリウスも命を創るとき心まで創ることはできなかったけれど、星のような大きなものも、目に見えないような小さなものも、創り出したものはみんな、シリウスとは遠い場所でそれぞれの生を全うしていた。

けれど、一番最初に作り出した友人達だけは、ずっと傍にいてシリウスを支えてくれた。 



――目が覚めたとき、シリウスは夢の内容を忘れてしまっていたけれど、気がつくといつのまにか沢山泣いていて、起こしに来たアルファを驚かせてしまった。


「大丈夫、夢を見ただけだよ」


心配するアルファに笑ってみせる。


「恐ろしい夢だったのですか?」


「ううん、覚えてないけど、懐かしくて、嬉しい感じの……」


思い出そうとしても思い出せなかったけれど、目を閉じると暖かなものが胸を満たした――。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 その日、相変わらず突然城を訪ねてきたシャオは、カイルとアルファを正面の机に座らせ、腕を組んで難しい顔をしていた。

月に何度かウェスタリアに通うようになっていたシャオだが、今日は赤竜と黒竜だけを呼び出し、お互いの近況報告の最中だ。


 「それで、そなたらもあるじと一緒に魔法を初手から学びなおしておると」


 ずいぶんとのんびりしておるなあ、と、シャオは苦笑する。

机の上にはカイルの淹れた紅茶のほかに、シリウスが使っているのと同じ教科書が二冊。

子供が初めて魔法を学ぶ際に使う、初級の魔法書だ。


「も、もちろん、私は個人的な時間にも学んでおりますが」


 カイルは言い訳するように訴える。

アルファの方は何も言わなかった。

言うまでもなく、シャオはわかっていると思ったからだ。


 「赤竜よ、わしはなにものんびり学ぶことを悪いとは言っておらぬ。むしろそういう暢気さこそ、我らは常に主に感じさせて差し上げるべきじゃ」


 アイスブルーの瞳を細めて人差し指を唇に当てる。

多感な青少年がみたらそれだけでノックアウトされてしまいそうな、かわいらしい仕草だった。


「無論、影では主に知られぬように最大限の努力をするべきじゃがな」


その言葉にアルファも深く頷く。


「俺は特に解析と補助を中心に強化していくつもりだ。回復魔法もやっていくが、この数日やってみた感じではカイルの方がむいている」


 話をふられたカイルは目を見開いた。

そんな風に、何が向いていて何が向いていないかなど、まださっぱりわかっていなかったからだ。


「そうなのだろうか」


「代謝を高める術式と、炎の術式の相性が良いのだろう。もっとも、回復魔法は蒼竜がなにより得意としているはずではあるが」


アルファが年長の少女をちらりと見やると、シャオはため息をついた。


「あやつはあやつのやれることを身命を賭してやっておる。そのうち行動を共にする日がくると思うが、当面は助けを期待せぬほうが良い」


「身命を賭して、と言うのは、シリウス様のために、と言うことですか」


カイルがやや緊張した声を出す。


「無論じゃ。他になんのために行動することがある。そなたとて同じじゃろ。今更恥を忍んで魔法の基礎を学んでおるではないか」


「しかし、蒼竜公どのはシリウス様の前世を覚えているとか……。白竜公殿も覚えておられるのですか」


 ごくりと唾を飲み込んで、カイルは白竜の言葉を待った。

シャオは白銀の睫を伏せて首を振る。


「わしは知っているだけじゃ。蒼竜は覚えておる。大きな違いじゃ。じゃがな、今はまだあまりそなたらが詳しく知る必要はない」


それを聞いたアルファが黒瞳を吊り上げて抗議した。


「もしもツヴァイの言う前世というものが真実ならば、我が君の御身をお守りするために、我らも過去の詳細を知るべきではないのですか!」


 アルファがめずらしく感情の篭った大きな声を出したのでカイルは驚いた。

しかし言葉の内容には全面的に同意だったので、カイルも訴える。


「シリウス様に万が一の事があれば後悔してもしたりません。そのような事態を避けるためにも、私たちにも真実をお教えいただきたい」


 必死な二人を、愛しい弟を見るような目で見つめ、シャオは微笑んだ。


「魔人ツヴァイの言葉を聞いたのであろう? われらの主が前世でどうなったのか。残念じゃが過去のことは真実じゃ。――当面はそれだけ知っておれば充分。それよりも、主もあやつの言葉を聴いてしまった事の方が問題じゃ。そなたらは、何事もなかったかのように振る舞い、主が心安らかに過ごせるよう勤めるほうが大事じゃよ」


「しかし……!」


身を乗り出してくる黒竜を、片手を上げて静止し、


「そなたら二人には主を常に守護するという大事な役目があるじゃろ。空いた時間は自己を高める、それで今はじゅうぶんじゃ。他の事はわしと蒼竜にまかせておけ。あせらずとも情報を共有する日は必ず来る」


そう言って二人をじっと見つめた。


 「ほれ、たとえば、最近、おぬしら何か失敗したりしたことなどはないのか? そういうことを糧にするのは重要じゃぞ」


 まだ過去の真実に未練があったカイルだったが、シャオに問いかけられてしばし考える。


「……そういえば、少々前のことですが、シリウス様が学校に行きたいとおっしゃられて……安全のためにあきらめていただいたという事はありました。私は選択を間違えたのではないかと気になって、シリウス様に、やはり学校に行きたいのではないのですかとお尋ねしたのですが、カイルとアルファが傍にいるからいい、とおっしゃられて……」


「何!?」


シャオが思いがけず眉を吊り上げたので、カイルは少々慌てた。


「そなたらが、あきらめさせたのか!?」


「は、はい」


カイルの言葉にシャオの瞳が見開かれた。


「そなたら、ばかではないのか!?」


 きっぱりと、ばかではないか、と言われて、アルファもカイルも絶句する。

しかし唖然としている二名に、完全に腹を立てている様子のシャオは治まらない。


「主のわがままは、可能な限り全部聞いて差し上げよ。できるであろうが!」


「学校の中まで護衛についてこられるのは嫌だと我が君が申されて……」


 言い訳する黒竜に、シャオは拳で机を殴って黙らせた。

樫で出来た重く堅固な机がズシンと揺れる。


「そんな問題ではない!」


立ち上がって、二人を睨みつける。


「主が、学校に行ってみたいとおっしゃられたら、何をおいても、ではお供します、と、きっぱりと言って差し上げよ。校舎の中には付いて来るなといわれたら、悟られぬよう壁の外から見守ればよい」


 何か言い返そうと口を開きかけたアルファだが、自分を睨む白竜の瞳に、思いがけず光るものがあったので言葉を飲み込んだ。


「あの方は……我らの主は、沢山のわがままを口に出さずに飲み込んでおられる。それは我等の存在のせいであるところも大きいのじゃぞ! 我らがお付きしているからこそ、言えぬのじゃ。これからはますますそうなる。――そうしたい、とおっしゃられるのは、そなたらが叶えてくれると信頼しておられる事だけじゃ。無理だと思うておられるなら、最初から口になどなさらぬ」


シャオは椅子に座り、頬の涙をぐいと拭った。


「甘いと罵られようと、かまうことはない。是と言って差し上げよ。問題が起きたなら、そなたらがそうと悟られる前に解決して差し上げればそれでよい」


挿絵(By みてみん)



 アルファは黙って頷いた。

心の底から、その通りだと同意していたからだ。

カイルのほうは言葉もなかった。

あの日の自分の愚かさに衝撃を受けていたからだ。


 シャオは大きく息をつくと、それ以上声を荒げることはなかった。


「今だけなのじゃぞ。ほんの少しでも、わがままを言ってくださるのは。真実、主の身に危険が及ぶと判断したときのみ、否と答えればよい」


「はい」


 二人同時に返答し、若々しくもはるかに年長の少女に尊敬のまなざしを向けた。

シャオは気を取り直したように頷くと話題を変える。


「よいか、まもなく首脳会議が開かれる。わしや蒼竜が主に忠誠を誓っておることはまだ知られておらぬが、そなたらがウェスタリアに居座って、主に忠誠を誓ったという事だけでも人間たちには一大事なのじゃ」


「それはわかります……」


 特に祖国の人々が自分を取り戻そうと必死になっていることを知っているカイルは深刻だ。


「この国では、我らの主は竜人とともに国を救った英雄じゃが、他の国々にとっては竜人を独占して支配している人間など、脅威でしかない」


 アルファは眉間に深い溝を刻んで黙って年長の少女の言葉を聴いている。

シャオが続ける。


「我らの主は敏感で聡明なお方じゃ。首脳会議では、たくさん辛く悲しい思いをされる事もあるじゃろう。そなたらが支えて差し上げるのじゃぞ」


「それはもちろんですが、白竜公殿は一緒にいかれないのですか」


カイルの問いに少女は頷いた。


「この国に主も竜人もいなくなってしまっては隙を狙ってくる輩がおるやもしれぬ。会議の議題であるおぬしたちがいかぬわけにもまいらぬし、人間達で対処できる敵ならばよいが、そうでない者が襲ってくる可能性もある以上、一時でもこの国から竜の守護をなくすわけにはいかぬ。それに、わしが主に忠誠を誓っておることは、可能な限り伏せておいたほうが良いじゃろう」


言葉を切って、窓の外に視線をやる。


「……人間たちに、少しでも我らを理解してもらえるとよいのじゃが……。我らが本当は、世界の守護者などではなく、ただ一人の主のためだけに存在しているのだということを」





―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 竜人たちが今後について話し合っていたころ、はるか東の孤島では、魔人たちも同じような議題について話し合い、計画を練っていた。


「のんびりと光の君の成長を待っているだけでは無能にすぎる。我等の力も戻りつつある今、下地作りを本格的に始めるべきだ」


グレンは三人の同僚を集めた会議室で、広げた地図を指し示す。


「ウェスタリアの周辺国から固める。餌を蒔いて人間共をこちら側に取り込み、光の君と敵対させる」


「ウェスタリアそのものには手を出さないのかい?」


 そのウェスタリアを式神のワイバーンで襲った本人であるツヴァイが首をかしげる。

答えたのはメガネの青年ジオだった。


「直接やりあっても今の段階では警戒させるだけで意味がありません。あの方が自ら人間共を見限ってくだされば、何もかも上手くいくはずです。今回のこれは人間の愚かさを実感していただく準備です。実際人間は驚くほど愚かですからさほど難しくないでしょう。光の君さえ我らに共感して下されば、竜人らはあの方に逆らわない」


「もしそれが上手くいったら、あたしたち、今のままでもあの人の傍にいさせてもらえる……?」


 深紫のツインテールを頭上高くで結い上げた少女、アイシャはわずかに膨らんだ胸の上で手を組んだ。

だがグレンは銀灰色の瞳を冷たく光らせる。


「上手くいけば、だ。光の君は、何があっても人間を見捨てないだろう。魔人として生まれ変わり、真実、我等の主となっていただかない限りは」


 グレンは腰に下げた銀の剣の柄を握り、思いつめたように重々しく言った。

残る三人の魔人は顔を見合わせたが反論はしなかった。

グレンの言葉に間違いがない事を彼らは過去の事実から良く知っていたからだ。

――光の君は人間を見捨てない。

誰も発言しない重い空気を払ったのはジオだった。


「でも無駄にはなりませんよ。オレはとりあえず周辺各国の地下に『種』を蒔きます。一年もあればかなりの範囲をカバーできるでしょう」


 ジオの手のひらの上には、比喩でもなんでもなく、文字通り何粒かの『種』が乗っていた。






 ――三人が解散し、一人会議室に残ったグレンは、地図上のシリウスがいる場所を指でなぞった。

いとしげな仕草で、何度も、何度も。

うな垂れると銀色の長髪が肩を流れた。

グレンはここにいない人物に向け、訴えるように、切実な声で語る。


「――やはり人は今も間違った道を進み続けています。人を信じて世界を守り犠牲となったあなたを裏切り続けている……。殺し合い、奪い合い、そしてまたあなたを犠牲にするだろう……」




 きつく目を閉じると、ここではない世界の事を思い出す。

人が作った灰色の石で覆われた大地、林立する巨大な建物群。

人々は繁栄し、街は夜でもまぶしいほどに明るかったが、彼らは争うことをやめなかった。

慈しんできた人々が、自ら作った兵器によって滅びて行く。

その様子を見て、グレンの腕の中で泣いていた少年は、グレンにとって唯一、守るべき大事な相手だった。


 燃え盛る都市は美しかった世界を闇に染め、光を遮り、生き残った人々も、動物達も、すべてが苦しみながらじわじわと死んで行く。

少年は自分が慈しんできたものから目をそらさず、そのすべてが息絶えるまで、何百年もの間、死に行く命の苦しみひとつひとつ全部を自分の中に受け止めた。

すべてが終わったとき、グレンは少年に誓った。


「二度とこんな苦しみをあなたに負わせはしない。世界が破滅に向かうなら、手遅れになる前に私がこの手で終わらせる」


腕の中で不安げに自分を見上げる、美しい紫の瞳を、今も覚えている。




「たとえあなたが望まなくともそうすると、あの日私はあなたに誓った。前回は失敗したが、今度は成し遂げる。どんな方法を使っても」


 つぶやくと腰に下げた銀の剣を抜き払った。

涼やかな音と共にまぶしい火花が散る。

グレンは、現れた幅広い両刃の剣、その中央に埋め込まれた金の輝きに額を押し付けた。

カイルとアルファが持っているのと同じ、黄金の羽だ。


「間違った道を進む世界と、おろかな人間共を消し去る。あなたがもう一度正しい世界を創造しなおすために必要な事だ。そのために私はあなたを……」


それ以上は言葉に出来ず、銀のまつげが畏れるように震え、こみ上げてきたものをこらえるために、グレンは強くこぶしを握った。






ご訪問、ありがとうございます。

章の合間のお話も、予定通り今回で終了です。

かなり確信に触れる回になりましたが、グレンが出てくると内容が重くなって困ります。


彼がアルファたちに魔人の気配を感じさせないのは、そもそも魔人じゃないからなのですが、じゃあ魔人とはなんぞや、など、その辺は、またのちほど明かして行こうと思います。


シャオの言うとおり、竜人たちが世界を守ってくれるのはもののついでというか、シリウスがそうして欲しいと思っているからしているだけで、非常に始末におえないです。

甘やかしすぎと思いきや、甘やかしたりなかったと反省するみなさん。


次回からは新章になります。

シリウスが卵からでてきて二年目。

見た目はほとんどかわりません。(画力的に)

本気で怒るアルファが二話目に見られる予定です。

おっかないな。


次回は新章開始ということで早めに更新する所存です。

できれば三日後お昼ごろには更新したいです。

以下、そんな、ちょこっとだけ成長したシリウスの次回予告。



挿絵(By みてみん)

二年たっても、抱きつき魔なのはかわらない

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