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23・☆やさしい贈り物

いつも閲覧ありがとうございます。

たくさんの励みを頂いております。


のんびり閑話も今回でひとくぎり、次回からは新展開になります。

ようやく敵が出てきたり。


戦ったりはしますが、基本的に同じ雰囲気でまいりますので、よろしくお願いします

 

 

 

 通りの向こうから駆けて来る人物を見とめて、バナードはハッと顔を上げた。

輝く金の髪が視界にまぶしくうつる。


「シリウス?!」


 躊躇なくまっすぐに走ってきた少年が、そのままバナードの胸の中に飛び込んでくる。


「久しぶりバナード! バナードってば全然うちに来てくれないんだもん」


「うちってお前……」


 お城じゃん、とは言えず、バナードは久しぶりに見るシリウスの姿に心を奪われていた。

もしかしたらもう二度と会えないかもしれないと思っていたので、うっかりすると涙がこぼれそうになるほど嬉しかった。

あいかわらずの長い金髪は、やはり切ってもらえていないらしい。


 シリウスのすぐ後ろに控えている長身の二名は、バナードも良く知っている黒竜公。

そしてもう一人、初めて見る赤い髪の青年だった。

その赤い髪の人物はシリウスに抱きつかれているバナードを一瞬うらやましそうに見たが、気を取り直すように咳払いをしたあと、


「初めてお目にかかります。私はカイル・ディーン・モーガンと申すものです。先日は我が主君をお救い下さって感謝の言葉もありません」


 そう言って丁寧に頭を下げた。

なんとなく不穏な空気を発しているようにも感じたが、隣の八百屋の女将は、カイルを見て目を輝かせている。


 このあたりじゃ永遠にお目にかかれないような、美しくて立派な青年だったから、目が離せなくなるのも良くわかるのだが、あからさまに見つめすぎるのもどうかと思うバナードだった。

何せ、さきほどから彼は微妙に不機嫌に見える。


 カイルと名乗った青年の隣には、バナードも良く知っている黒髪の美丈夫。


「壮健だったか?」


「は、はい」


 それだけの会話だったし、黒竜公はニコリともしなかったけれど、なんだかとても嬉しくなって、バナードは自分がこの黒衣の竜人にあこがれているのだとあらためて気づいた。

この人ほどには到底なれないとしても、いつか自分も、強く、男らしくなって、大事な人を守れるような人間になりたい。


 いつのまにか周囲には遠巻きに人だかりが出来はじめていたため、カイルはシリウスを腕の中に守るように人々の視界から隠した。

不意に危険人物が近づいたとしても、主に指一本触れさせないと、その行動は示している。

バナードも、この前のように悪者がシリウスを襲ったりする事態だけは絶対に避けたかったので、


「シリウス、ここだと目立つから、うちに来いよ」


と、提案してみた。


「目立つ? やっぱり髪を切ってないからかなあ」


「いや……」


 今回は前以上に目立っている。

この国で、もっとも注目を集めやすい人間の上位三名が、そのまま集まっているのではないかと思える構成だ。


「ぼくもバナードの家に行ってみたいけど、その前に、うちで働いてる人たちに、果物をお土産に買って帰る約束をしたんだ。だからなるべく沢山果物が欲しい」


「なるべく沢山って?」


これにはアルファが答えた。


「もし可能なら、店にある果物を残らず頂きたい。明日の営業に関わると言うのであれば、今日中でなくとも、同量の商品を仕入れた後でもかまわぬ」


「は?!」


 ゲイルとバナードが同時に素っ頓狂な声を出し、店の商品を振り返った。

屋外で営業している小規模な店とはいえ、それなりの種類と量があるのを自慢にしている店だ。

シリウスはニコニコと笑顔のまま、うち、いっぱい人が住んでるんだ、と、幸せそうにしている。



挿絵(By みてみん)




 とりあえず、ゲイルはその日の営業を終了することにした。

幸いにも明日は仕入れの日だったから、商品をカラにしても今日臨時休業になるだけだ。

遠巻きにではあるが人が集まっていることもあり、ゲイルもバナードの提案を推して、三人を自宅に招待することになった。





―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―





 アティは、なんだか困惑しきっている様子の夫と、嬉しそうな息子、その後ろに立つ三名の人物を見て「まあ」と声を出してしまった。

先日息子を送ってきてくれた、アルファと名乗った人物を含め、あらゆる意味で、この前までだったら絶対に自分の人生に関わり合わないような人物たちに見える。


「あ、あの、狭いうちなんですけれど、どうぞおくつろぎ下さい」


 それでもアティは気を取り直すと、杖をつきながら客人たちを居間へと案内し、茶の用意を始める。

バナードは足の不自由な母を手伝った。




 初めて入った城以外の家。


 城下に住む人々の一般家庭を、シリウスは興味津々の様子で見渡した。

たしかに広くはなかったが、カーテン越しに日の光が届く室内は清潔で整っており、そのため狭さはほとんど感じない。

来客用の椅子を勧められて、木製の質素なその椅子にシリウスはうれしそうに座る。


「バナードの家はすごく気持ちいいね。母上の部屋にいるときみたいに安心できる」


 お世辞ではなく、心からそう言っている様子だったので、ゲイルも、台所で聞いていたアティとバナードも素直にうれしかった。

カイルとアルファも椅子を勧められたが、二人は最初着席をやんわりと断った。

しかし「二人が座ってないと落ち着けないよ」というシリウスの言葉を受けて慌てて座る。


 比類なき力を持っている二人の青年を、ごく自然にあやつっている様子のシリウスに、バナードは感心してしまった。

自分だったら一言口をきくたびに緊張してしまう。

そんな事を考えながらバナードは母が用意した茶を全員に配った。


 母が自分で茶葉をブレンドした自慢のお茶だ。

お茶菓子はこれも母が手作りしたクッキーだった。

アティは「お口に合うかはわからないのですが」と、緊張の面持ちだ。


 だがゲイル一家の心配はまったくの杞憂だった。

最初にお茶とクッキーを口にしたシリウスも、主人に続いて優雅なしぐさで茶を飲んだ青年たちも、みな出された品の見事さに感嘆していた。

シリウスはバナードに、こんなにおいしいお茶とクッキーを毎日食べられるなんて、すごくうらやましいと本気で訴えた。


 主人の頬についたクッキーの欠片をアルファがそっとつまんでやり、この上なく優しい微笑を浮かべるのを目にしたゲイルとバナードはチラリと視線を交し合う。

黒竜公本人はおそらく何も考えていないごく自然な行為なのだろうが、シリウスの前の彼はまるで別人のように柔和な雰囲気をかもしだしているのだ。


「そうだ、バナードのお母様がうちにきて、ぼくにこのクッキーの作り方を教えてくれたらいつでも食べられるよ」


「!」


 ゲイル一家だけでなく、アルファとカイルも目をむいた。

二人の護衛が、いけません、とか、おやめください、とか言っているのを無視して、シリウスはもうひとつクッキーをつまむと笑顔になって、信頼する護衛の二人を振り返った。


「ぼくがクッキーを焼いたら二人とも食べてくれる?」


「私にもいただけるのですか!? シリウス様が手ずからお作りになった菓子を?!」


カイルはさっきまでシリウスを止めていたくせに、急に身を乗り出して目を輝かせ、


「もちろん、いただきます」


 重要な宣言でもするかのように重々しく、引き締まった表情でキッパリと言って、背筋を伸ばすと椅子に座りなおした。


 アルファの方も一瞬嬉しそうな顔をしたが、バナードの一家が注目していることに気づくと、気を取り直したように咳払いをしてから、


「……しかし我が君、バナードのご母堂は足がおわるいのですよ、ご無理を申し上げては……」


そう言って自分の感情を隠すように茶を飲んだ。


「うん……」


シリウスはアルファの言葉に頷くと、椅子から降りてアティの前に立つ。


 アティは、この日初めてまじまじと、金髪の少年を間近で見た。

近くで見れば、その肌のきめの細かさや、金髪の複雑な色合い、宝石のような紫の瞳の、どれもが素晴らしく美しいことにあらためて驚かされる。

その絵画のように美しい少年が、アティの座っている椅子の前に立ち、不意に膝をついたのだ。


「い、いけません!」


あわてたアティだったが、シリウスは微笑み、手のひらを向けてそのまま座っているようにと示した。


 カイルもアルファも、自分の主人が一般人の前に膝をついたのを見て動揺し立ち上がったが、主人の周囲に暖かなエネルギーが集まり始めているのを察して顔を見合わせる。


 窓を割ってしまったあの日、カイルが感じた力。


 アルファの言うとおり、それは通常カイルたちが使用している魔力とは異質のもののようだった。

だがそれは決して不快なものではなく、シリウス独特の、おだやかでやさしい光に満ちた力だ。


「バナードの母上様、失礼ですが、ぼくが足に触っても大丈夫ですか?」


 思わぬ懇願だったけれど、紫の瞳にじっと見つめられ、断れる人物があろうはずもなく


「は、はい」


 アティが上ずった返事を返すと、シリウスはそっと、だがためらいなく彼女の右足に触れた。


 アティの右足首は普通の人より若干細いだけで外見から異常を見つけることは困難だ。

シリウスは足を撫でたりもんだりするのではなく、目を閉じ、ただ手のひらを当てているだけ。

しばらくそうしていたが、やがて目を閉じたままきっぱりと言った。


「……生まれつき骨が曲がって萎縮しているんだね」


 これにはアルファもカイルも驚いた。

アルファは、事前にアティの足が生来の病で骨が曲がってしまっていることをカイルに伝えていたので、二人とも病の詳細を知っていたが、まだ幼いシリウスには理解が難しかろうと話していなかったからだ。


「よくおわかりになりましたね」


 カイルが感嘆の声を出し、アルファは黙したまま、さすがは我が君だと頷いている。


「もしも、痛かったら言ってください」


「えっ?」


 聞き返す返事も終わらないうちに、室内にやわらかく金色の光が満ちた。

手のひらが触れているアティの足首に、小さな火花のようにキラキラと光の糸が絡み消えて行く。

けれどそれはごく短い時間で、シリウスはすぐにアティの足から手を離し、ほう、と息をついた。


「痛くなかったですか?」


「え、ええ」


 気持ちはよかったけれど、それも一瞬だったし、少年が足に触れている感触以外、特になにも感じなかったので、拍子抜けという体でアティは頷いた。


「我が君、何をなさったのですか?」


 たしかに一瞬だが強大な力を感じたアルファは主人に聞いた。


「骨を正常な形に戻せないかと思って……」


 それを聞いたアルファは主人の隣に膝をつき、金の髪をそっと手にとって口付けた。


「……我が君、お気持ちは尊いものですが、アティ殿の足の病は生来のもので、残念ながら治癒魔法では快癒できない種類のものなのです。生来の形がすでにゆがんでいるため「元の姿」に戻しても治癒しないのですよ」


 主人をガッカリさせないよう、おだやかな表情でそう伝えたのだが、シリウスはきょとんとして信頼できる部下であるアルファを見上げた。


「でも、治ったと思うよ」


 室内の全員が目を見開き、続いてアティの足を見る。

見た目はさきほどとまったくかわらない、少し細い普通の足のままだ。

シリウスはまぶしい笑みを浮かべると立ち上がって、アティの手をうやうやしく取った。


「さあ、立ってみて!」


 アティは困惑していた。

この美しい少年に触れられる前と後とで、特になにも変化が感じられなかったからだ。

がっかりさせたくはなかったけれど、きっと何もかわっていない。

しかしせめて、挑戦だけはしてあげなければ、と握ってくれた少年の手に助けられるようにして立ち上がってみる。


「……」


「かあさん……」


「アティ……」


アティはまるで毎日そうしていたかのように、自然に、まっすぐな姿勢でそこに立っていた。




 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―






 昨日の出来事を、バナードは夢だったのではないだろうかと何度も思った。

シリウスと二人の竜人が尋ねてきて、店の果物を全部買ったと思ったら、うちまで遊びに来たシリウスが、何十年も治らなかった母の足をあっさり治してしまったのだ。


 ゲイルは喜びのあまり叫びながら立ち上がりテーブルを倒してしまったが、竜人二人はすばやくティーカップと茶菓子の皿を取り上げて、大事な主人に茶がかぶるのを防いだ。

その上バナードとゲイルがアティに抱きついて大騒ぎをしている間に、三人はいつのまにかそっと家を出ていなくなっていたのだ。


 ――だから余計に夢だったように思える。


 でも今日になってシリウスから、バナードとアティを城に招いてクッキーの作り方を教えて欲しいと、あらためて正式な招待状が届いたので、やはり夢ではなかったのだろう。

父のゲイルも昨晩は一晩中喜びまくってへたくそな歌を歌ったり、妻とよく知りもしないダンスを踊ったりして興奮していたせいか、今日は朝からぼーっとしている。


その父が、


「そういや、金貨を返し損ねたなあ……。お前、城に行くなら持ってって返してこい」


と、ぼんやりしたまま言うのだ。


 バナードも素直に頷いた。

母の治療に役立てろと、黒竜公にもらった金貨だ。

母がすっかり完治した今は必要ない。


「わかった。返してくる。お礼もちゃんと言わなくちゃ」


「そうね、私もお礼を言っていないもの」


 アティはこの日、初めて店を手伝いに出てきていた。

歩いても走っても、ダンスを踊っても、何をしても何も問題なく、足は動く。

こんな素晴らしい贈り物を貰ったのに、まだお礼も言っていないのだから。





カイルは実のところ、アレスタにいたころは、シリウスと同じぐらいかそれ以上に、大事に大事に育てられたので、わりと甘えん坊です。

すぐヤキモチ焼いたり、素直に好き嫌いを感情に出したりします。


アルファの方は、かなり幼い段階から一人で生きてきたようです。

名前の由来は「アルファルド(孤独な星)」なのですが、孤独が好きなわけではなく、小さい頃から迫力ありすぎたのが原因かと思われます。


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